百六十二話 三ヵ月持つかな?

文字数 1,948文字

「フフ、汗掻いちゃったね」

「気持ち良かった・・・」

「美代、たまには一緒にお風呂入りましょ」

「あは、やった」

「お湯張って先にシャワー浴びるから、ちょっと待ってて」

「はあい」


ちゅ、とキスをしてから都が風呂場に行く。俺は嬉しくて枕に顔を埋めて、足をばたばたさせた。


『みーよー』

「はあい!」


風呂場に行くと、まだ二割程しか湯が貯まっていない湯船の中で都が座っていた。俺はシャワーを浴びて汚れを落とす。湯船の中に入って都の後ろに座ると、都がひっついてきた。腹を抱くように手を回す。互いの濡れた肌が擦れ合って、性的な快楽とは別の気持ち良さが身体に満ちた。


「あのね、この前、新しい服を買ったんだけど、普段着にするにはちょっと過激かなと思って悩んでるの」

「どんな服?」

「ベアトップのワンピース。胸元から上はシースルーになってるの」

「あ、所謂『透け服』ですね? 肌の露出は許しませんよ」

「えー。でもね、すっごく可愛いのよ?」

「・・・ベアトップでしょ? お胸が零れませんかね」

「そう思って試しに着てみたんだけど、結構安定感あったよ?」

「うーん、どうしようかなあ・・・」


湯がゆっくりと貯まってくる。ぬるい。俺はすぐのぼせるので、長湯してものぼせないようにと気を遣ってくれている。


「じゃあ、明日。お客様居ないし、昼過ぎに談話室に見せに来てよ」

「わっかりましたあ」


風呂場というある意味閉鎖的な空間で、湯船に浸かってリラックスしながら、最愛の人と肌を密着させてお喋りをする。二人っきりの、夢のような時間。


「んー、幸せ・・・」

「フフッ、私も・・・」


たっぷりと甘い時間を過ごした。

翌日。

談話室で淳蔵と話していると、一番最後に直治がやってくる。


「お、来た来た」

「ん?」

「都がさ、新しい服を買ったんだけど、普段着にするかどうか迷ってるんだって。俺達の反応を見て決めるらしいよ。もうすぐ見せに来るはずだ」

「ほお・・・。それで淳蔵は雑誌も読まずに待ってるのか」

「悪いかよ」

「いいや? 人のことすけべだのなんだの言えないと思ってな」

「やかましーわ」


ぱたぱたぱた、と上機嫌な都の足音。


「皆様、ご機嫌よう」

「顔だけ出してないで入ってきなさい」

「はあい」


する、と談話室に入ってきた。


「おばさんが着るのはキツい、かな・・・」


白い肌を透かせて際立たせる黒い花柄のレースのシースルー、襟にはすっきりとしたリボン。きゅっとくびれたウェストに、上品なロングスカート、シンプルな黒いパンプス。問題は胸だ。爆発している。


「あらぁ、都ちゃん、ちょっとおじさんの隣に座ってよーっく見せてみ?」


都が淳蔵の隣に座る。俺と直治は淳蔵を睨みつけた。


「うーん、良いですねえ・・・」

「どこ見て言ってるんだか」


淳蔵はだらしない顔をしている。都は左腕で胸を庇って、ぺち、と右手で淳蔵の頬を軽く叩いた。淳蔵はそれでもにへにへと笑っていた。


「美代はどう思う?」

「素敵だよ。でもおじさん達以外には肌を見せちゃ駄目だからね」

「ありがとう。気を付けますね」


都はくすっと笑う。


「直治は?」

「おじさんはもっとそういう服を着てほしいと思います」

「ありがと。さて、もう戻りますね」


都は淳蔵の頭をぽんぽんと撫でると、微笑みながら手を振って談話室を去っていった。


「うーん、良いおっぱいだったなァ」

「焼き鳥にするぞクソ鴉」

「俺は塩で」

「あんなにばるんばるんだったらどんな男でも釘付けになるって」

「今夜は焼き鳥だな」

「美代はタレ派だったな」

「にしても、可愛いよなァ。『可愛いから』って理由で服を買って、似合うかどうか気になって、おじさん達に恥ずかしがりながら見せにくるの」

「ほんと、十五歳の女の子って感じ」

「癒しだ・・・」

「お顔もお乳もお尻も最高ですよ」

「馬鹿が」

「アホめ。あ、お前らに話があるんだった。中畑が『変な夢』を見たらしくてな」

「ああ、それで食事の時、美代を見て固まってたのか。昨日のことを気にしてるのかと思ってたよ」

「んふ、お、わ、び、してもらったからね。一緒にお風呂も入ったし?」

「そうかよ。で、感情ぐちゃぐちゃになってたぞ。泣いたり怒ったり。もうどうしていいかわからんよ。夢と現実の区別もつかないのかね」

「おーお、可哀想に」

「本当に、可哀想にね」

「可哀想にな」


千代がひょこっと談話室に顔を出す。


「直治さァん」

「休憩だな、いいぞ」

「中畑さんも休憩ほしいそうですゥ」


千代の後ろからそっと現れた中畑は、俺を見るとびくっと身を竦ませた。俺がにっこり笑って手を振ると、視線を上下左右にぐるぐると回した。


「ん? どうしましたァ、中畑さん?」

「な、なんでもないです! 直治さん、休憩ください」

「どうぞ」

「失礼しまァす!」

「失礼します・・・」


二人が去っていく。


「さてさて、三ヵ月、耐えられるといいね・・・」
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