百六十三話 貞〇帯

文字数 2,876文字

朝五時過ぎ。ジャスミンに朝飯を食べさせた都が部屋に戻ってくる。俺は部屋の前で待っていた。


「あら、直治。どうしたの?」

「ちょっと」


都は察したのか、にんまりと笑って部屋の鍵を開ける。二人で中に入り、俺が鍵をかけた。


「なあに?」

「ストレス溜まってるんだ。このままだと爆発して都を襲う」

「ま、怖い。じゃあそうならないようにしないとね・・・」


俺は黙ってズボンと下着を脱ぐ。都も黙って俺用の貞操帯を棚から取り出した。シリコン製で排尿が可能なものだ。都が俺に貞操帯を着け、南京錠を嵌める。この南京錠が、惨めな気持ちになって、恥ずかしくて、気持ち良い。


「もっと恥ずかしいことしたい?」

「・・・したい」


都はとんでもないものを取り出した。黒いおしゃぶりの先に短いアナルパールが付いているおもちゃと、黒いマスク。


「咥えて」


受け取り、口の中におもちゃを入れて、おしゃぶりを咥える。


「強く吸いつけば涎は垂れないよ、多分ね」


マスクを着け、口元を隠す。


「食事の時は外していいわよ」


俺は首を横に振った。


「食べないの?」


頷く。


「じゃ、朝食の時に、直治は喉の具合が悪いから食事には参加しないって皆に伝えておくわ。いい? 直治。いつも通りに過ごすのよ。首を横に振ったり頷いたり、文字で伝えたりで、一日くらいはなんとかなるでしょ?」


頷く。


「それから、」


都は俺の胸に手を這わせた。身体が勝手にびくんと跳ねる。


「淳蔵と美代になにか聞かれたら、マスクとおもちゃを目の前で外して、『いつも通りに接してくれ』って言いなさい」

「ぅぐ」

「返事は?」


俺は頷いた。

都の部屋を出て、事務室に向かう。強く吸いつかないと涎が垂れそうで怖いのに、変に口の中にモノを入れているせいで唾液がどんどん分泌される。んぐ、んぐ、と喉を鳴らしながら事務室に辿り着き、椅子に座る。仕事をしようとしたが、全く集中できなかった。デスクに肘をついて頭を抱える。

こんこん。


「んんッ」

『あれ? 直治さーん?』


精一杯の返事は聞こえなかったらしい。俺は慌ててドアを開けた。


「おはようございます! ありゃ、顔真っ赤ですけど、大丈夫ですか?」


俺は頷き、手帳から一ページ千切ってペンで文字を書き込む。


『中畑の教育は任せる』

「わかりました。あの、消化に良いものとお薬をお持ちしましょうか?」


首を横に振る。千代は気を遣って声をおさえている。


「中畑さんが来るまで事務室で待ってましょうか?」


頷く。ジャスミンが俺をおちょくりに来たのか、勝手に事務室に入ってきた。引き出しからブラシを取り出して千代に渡すと、千代は黙ってジャスミンのブラッシングを始める。まずい。千代が、人が居る。人にバレるかもしれないという状況に興奮して、乳首が勃起してきた。俺は慌ててシャツを引っ張る。

こんこんこん。


「どうぞォ」

『失礼します』


中畑が入ってくる。俺の顔を見ると、一瞬笑った。


「直治さん、大丈夫ですか?」


頷く。


「都さん、休ませてくれないンですか?」


首を横に振る。


「じゃあ休めばいいのに」

「中畑さん、お仕事の時間ですよォ」

「あ、ごめンなさい」

「では直治さん、失礼しまァす」

「失礼します」


二人が談話室を出て行く。苛立ちと羞恥でどうにかなりそうだった。勃起しそうになると睾丸が引っ張られて痛くて、その痛みで萎える。なのに、それが気持ち良くて、ずっと苦しい。

ジャスミンが鼻を鳴らす。俺に向かってオテとオカワリを繰り返していた。このクソ犬。ジャスミンは俺がカーテンレールにハンガーで引っ掛けている予備のパーカーの下に行き、座る。『着ろ』という意思表示らしい。大人しく従う。季節は六月。クーラーが入っているとはいえ、パーカーなんて着ていたら気分から暑くなる。じんわりと不快感が広がって快楽に集中できなくて、勃起できない苦しさは多少マシになった。乳首も隠れる。パソコンに向き直り、漸く仕事を始める。時々トイレに行ったが、普段通り排尿できず、ちょろちょろと垂れ流すようにしか排尿できなかった。

時間が来てしまった。

談話室に行く。


「直治、顔真っ赤だぞ、大丈夫か?」


美代が問う。淳蔵は雑誌を読む手を止めて心配そうに俺を見つめていた。俺はいつも通りソファーに座る。顔の前に持ってきた両手が震えている。決心がつかなくて、そのまま宙に留まった。


「おい、大丈夫じゃないだろ。都を呼んで、」


淳蔵が雑誌を畳む。俺はそっとマスクを外した。


「えっ」

「あっ」


ぴた、と二人が固まる。おしゃぶりを掴んで口から引っ張ると、ずろろろろ、と下品な音が響いて涎塗れのおもちゃが飛び出した。


「ゲホ、ゲホ! う、く、おえっ・・・」


俺は二人を睨みつけた。


「いッ、いつも通りにしろッ・・・!」


それだけ言って、おもちゃを口の中に入れ、おしゃぶりを咥え直してマスクを着けた。


「・・・お仕置きか?」


首を横に振る。


「好きでやってんのかよ・・・」


淳蔵は苦虫を噛み潰したような顔をした。


「勃起した乳首を隠すために六月にパーカー着てるわけね・・・」


美代も呆れたように溜息を吐く。


「下は貞操帯か?」


頷く。


「馬ッ鹿じゃねえの」

「呆れた。このド変態」


淳蔵がバサッと乱暴に雑誌を広げ直し、美代も黙ってノートパソコンのキーボードを叩き始める。んぐ、んぐ、と喉を鳴らしながら暫く耐えていると、千代と中畑がやってきた。


「直治さん、中畑さんと一緒に休憩頂きますね」


俺は手を挙げて頷く。千代は頬をぽりぽりと掻いて、困ったように視線を泳がせた。多分、バレている。腕時計で何度も時間を確認する。やっといつも事務室に帰る時間になって、俺はよろよろと立ち上がり、呆れと少しの羨望が混じった視線を背中に受けながら事務室に帰った。

空腹と水分不足でくらくらする。仕事もせずにぼーっと天井を見上げて過ごす。こんこん、とノックが聞こえたあとに、千代と中畑が『失礼します』と言って部屋に入ってきた。


「大丈夫ですか?」


頷く。


「今日のことは、明日報告しますね。いつも通り退勤させていただきます。お疲れ様でしたァ」

「直治さん、お疲れ様でした」


二人はタイムカードを打刻して、お辞儀をして事務室から出ていく。足音が完全に聞こえなくなってから、俺は都の部屋に行き、ノックせずに入った。


「あらあら」


俺はその場にゆっくりと崩れ落ちた。都は俺の顔からマスクとおもちゃを外すと、顎を持ち上げてペットボトルのスポーツドリンクを飲ませた。


「水分補給くらいしなさいよ」

「・・・っぷは、・・・はあ」


飲み切れなかった分が涎と共に口の両脇から零れ落ち、首を伝ってパーカーとシャツを濡らす。


「一人で脱げる?」

「はい・・・」


息を荒げながらズボンと下着を脱ぐ。都がかちゃかちゃと音を立てて、貞操帯を外した。途端に、物凄い解放感が身を包む。


「はやぐ、はやぐイがぜでっ!」

「もっと惨めにおねだりしなさい」

「み、みやござまっ、なおじを、あさましいなおじをいがぜでぐださいっ!」


都は妖しく笑って、俺の男根をしごきあげた。


「あああぁああ! ぜんぶでるぅ!」


一度目の射精。気持ち良過ぎて、目がちかちかする。そのあと、とろとろの時間を過ごした。
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