七十八話 芋好き
文字数 2,298文字
「こんぬつは、坂田愛美でつ、よおしくおえがいします」
あー、マジか。太り過ぎると頬に肉が付いて口の中を圧迫されるのか。
「社長の一条都です。こちらは息子の、」
「長男の淳蔵です。運転手をしています」
「次男の美代です。社長の秘書です」
「三男の直治です。メイドのスケジュールの管理と、お客様の宿泊の予定を管理しています」
「こちらは先輩の千代さんよ。千代さん、挨拶を」
「櫻田千代です! よろしくお願いしまァす!」
「愛美さん、直治が貴方の直属の上司になるわ。直治と千代さんの言うことをよく聞いて、しっかり働いてちょうだい」
「はい」
面通しはそれで終わった。昼過ぎ、淳蔵は雑誌を読みに、俺は気分転換に談話室に行く。直治はいつも一番遅い。
「直治がどんな状態で談話室に来るか賭けねぇ? 俺はブチギレだと思う」
「俺は項垂れてると思う」
「なに賭ける?」
「今日の夕食。お前が勝ったらお前の好きなポテトグラタン作ってやるよ。負けたら自腹でピザ十枚買って来い。一枚はじゃがマヨコーンのやつ」
「いいぜ」
暫く雑談していると、直治がやって来た。椅子に座ると頭を抱えて項垂れ、テーブルをダンッと叩いた。
「直治よぉ、ブチギレるか項垂れるかしてくれないと賭けになんねえだろ」
「俺で遊ぶな馬鹿共が!」
「で、どうしたの?」
直治は顔を両手で撫でた。
「いきなり都を敵対視してやがるッ!」
「ああ、そりゃ問題だなァ」
「まず、メモを取らない! なんで取らないのか聞いたら『私は字が汚いのであとで読み直してもわからないから』とか言いやがる!」
「ええ・・・」
「パソコンを使えるか聞いたら『使えます』と言うから、書類の電子化を頼んだ! 暫くして様子を見に行ったら何故か掃除しているから、『仕事はどうした』と聞いたら『緑のヤツの使い方がわからなかったので、千代さんと仕事を交代してもらった』と言いやがる!」
「あー、『Excel』ね」
「ええ・・・。あれ俺でも使えるぞ・・・。マジ?」
「マジだよクソッタレ! 挙句の果てには、キッチンで家電の使い方を俺と千代で教えていたら、千代の二の腕に身体がぶつかったらしくて急に興奮し始めた! 『二の腕の柔らかさとおっぱいの柔らかさは一緒なんですよ』とか言って!」
直治の口から『おっぱい』という単語が飛び出てきたので、俺と美代は思わず吹き出してしまった。
「笑ってんじゃねえ! 一生懸命仕事を教えている千代の胸を揉みだして、『Aカップですか?』とか聞いてるんだよ! 千代が顔を真っ赤にして『はい』と答えたら、今度は俺の二の腕を揉もうとしだした! 俺が『女性から女性へのボディタッチでもセクハラになるし、女性から男性へのボディタッチでもセクハラになるからやめろ』と言ったら、『照れ屋さんですね』とか言って笑ってんだよ! 仕事中だ! 仕! 事! 中! クソが!」
直治はテーブルを蹴り上げ、頭を抱えた。
「で、都を敵対視してるっていうのは?」
「ジャスミンの馬鹿が泥だらけの女物の下着を事務室に持ってきたんだよ! 丁度その時、千代と愛美が休憩を取りに来て、俺が下着を持ってるのを見られちまった! 千代は『またジャス公の仕業ですかァ』と言っていたが、愛美は俺を変態扱いだよ! 変態はお前だっつうの!」
冷静沈着な直治が怒り狂っている。
「千代に『洗って都に届けてくれ』と言ったのに愛美が受け取って、くるくる回転させてなにか調べてるんだよ! 俺も千代も吃驚して『なにしてるんだ?』って聞いたら、『カップ数を調べてます!』と言った! ホックの近くに付いているタグを見つけて、そこにカップ数が書いていたらしいな! 『ふうん、Gカップか。ちっちゃ』と言って千代に押し付けた! あいつ、続けてなんて言ったと思う!?」
バンッ! と両手で自分の膝を叩き、再び頭を抱える。
「『私はCカップなので都様より大きいですねぇ』だとよ! アルファベットもわからねーのか!」
俯き、荒く呼吸をする。静かになった。
「直治様ァ!」
「うるせえ休憩だな行ってこい!」
「ヒィ!? あの、愛美さんもいいですか?」
「・・・休憩に入りたかったら自分で申告するのがルールだ。自分で申告させにこい」
「は、はい・・・!」
千代のすぐ傍に居たのか、愛美が顔を覗かせる。
「あの、直治様」
「なんだ」
「休憩をお願いします」
「いいぞ」
「ありがとうございます」
「失礼しまァす!」
千代と愛美は去っていった。
「あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢・・・」
直治がブツブツ言い始めた。メイドは雇ってから最低二ヵ月は生かしておくので、最短で絞めたいのだろう。
「これブチギレ? 項垂れ?」
「うーん、中間だな」
「仕方ねえ。今日は直治の好きなモン作ってやれ」
「そうするか」
「あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢・・・」
俺がメイドを管理していた時でも、こんなに酷いメイドは居なかった。千代という最上級のメイド、もとい小鳥が一羽居るから、ジャスミンがメイドの採用基準を落としているのかもしれない。
「直治、お兄ちゃんがジャーマンポテト作ってやるから元気出せ」
「ああああああああ・・・」
直治はふらふらしながら事務室に帰って行った。
あー、マジか。太り過ぎると頬に肉が付いて口の中を圧迫されるのか。
「社長の一条都です。こちらは息子の、」
「長男の淳蔵です。運転手をしています」
「次男の美代です。社長の秘書です」
「三男の直治です。メイドのスケジュールの管理と、お客様の宿泊の予定を管理しています」
「こちらは先輩の千代さんよ。千代さん、挨拶を」
「櫻田千代です! よろしくお願いしまァす!」
「愛美さん、直治が貴方の直属の上司になるわ。直治と千代さんの言うことをよく聞いて、しっかり働いてちょうだい」
「はい」
面通しはそれで終わった。昼過ぎ、淳蔵は雑誌を読みに、俺は気分転換に談話室に行く。直治はいつも一番遅い。
「直治がどんな状態で談話室に来るか賭けねぇ? 俺はブチギレだと思う」
「俺は項垂れてると思う」
「なに賭ける?」
「今日の夕食。お前が勝ったらお前の好きなポテトグラタン作ってやるよ。負けたら自腹でピザ十枚買って来い。一枚はじゃがマヨコーンのやつ」
「いいぜ」
暫く雑談していると、直治がやって来た。椅子に座ると頭を抱えて項垂れ、テーブルをダンッと叩いた。
「直治よぉ、ブチギレるか項垂れるかしてくれないと賭けになんねえだろ」
「俺で遊ぶな馬鹿共が!」
「で、どうしたの?」
直治は顔を両手で撫でた。
「いきなり都を敵対視してやがるッ!」
「ああ、そりゃ問題だなァ」
「まず、メモを取らない! なんで取らないのか聞いたら『私は字が汚いのであとで読み直してもわからないから』とか言いやがる!」
「ええ・・・」
「パソコンを使えるか聞いたら『使えます』と言うから、書類の電子化を頼んだ! 暫くして様子を見に行ったら何故か掃除しているから、『仕事はどうした』と聞いたら『緑のヤツの使い方がわからなかったので、千代さんと仕事を交代してもらった』と言いやがる!」
「あー、『Excel』ね」
「ええ・・・。あれ俺でも使えるぞ・・・。マジ?」
「マジだよクソッタレ! 挙句の果てには、キッチンで家電の使い方を俺と千代で教えていたら、千代の二の腕に身体がぶつかったらしくて急に興奮し始めた! 『二の腕の柔らかさとおっぱいの柔らかさは一緒なんですよ』とか言って!」
直治の口から『おっぱい』という単語が飛び出てきたので、俺と美代は思わず吹き出してしまった。
「笑ってんじゃねえ! 一生懸命仕事を教えている千代の胸を揉みだして、『Aカップですか?』とか聞いてるんだよ! 千代が顔を真っ赤にして『はい』と答えたら、今度は俺の二の腕を揉もうとしだした! 俺が『女性から女性へのボディタッチでもセクハラになるし、女性から男性へのボディタッチでもセクハラになるからやめろ』と言ったら、『照れ屋さんですね』とか言って笑ってんだよ! 仕事中だ! 仕! 事! 中! クソが!」
直治はテーブルを蹴り上げ、頭を抱えた。
「で、都を敵対視してるっていうのは?」
「ジャスミンの馬鹿が泥だらけの女物の下着を事務室に持ってきたんだよ! 丁度その時、千代と愛美が休憩を取りに来て、俺が下着を持ってるのを見られちまった! 千代は『またジャス公の仕業ですかァ』と言っていたが、愛美は俺を変態扱いだよ! 変態はお前だっつうの!」
冷静沈着な直治が怒り狂っている。
「千代に『洗って都に届けてくれ』と言ったのに愛美が受け取って、くるくる回転させてなにか調べてるんだよ! 俺も千代も吃驚して『なにしてるんだ?』って聞いたら、『カップ数を調べてます!』と言った! ホックの近くに付いているタグを見つけて、そこにカップ数が書いていたらしいな! 『ふうん、Gカップか。ちっちゃ』と言って千代に押し付けた! あいつ、続けてなんて言ったと思う!?」
バンッ! と両手で自分の膝を叩き、再び頭を抱える。
「『私はCカップなので都様より大きいですねぇ』だとよ! アルファベットもわからねーのか!」
俯き、荒く呼吸をする。静かになった。
「直治様ァ!」
「うるせえ休憩だな行ってこい!」
「ヒィ!? あの、愛美さんもいいですか?」
「・・・休憩に入りたかったら自分で申告するのがルールだ。自分で申告させにこい」
「は、はい・・・!」
千代のすぐ傍に居たのか、愛美が顔を覗かせる。
「あの、直治様」
「なんだ」
「休憩をお願いします」
「いいぞ」
「ありがとうございます」
「失礼しまァす!」
千代と愛美は去っていった。
「あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢・・・」
直治がブツブツ言い始めた。メイドは雇ってから最低二ヵ月は生かしておくので、最短で絞めたいのだろう。
「これブチギレ? 項垂れ?」
「うーん、中間だな」
「仕方ねえ。今日は直治の好きなモン作ってやれ」
「そうするか」
「あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢あと二ヵ月の我慢・・・」
俺がメイドを管理していた時でも、こんなに酷いメイドは居なかった。千代という最上級のメイド、もとい小鳥が一羽居るから、ジャスミンがメイドの採用基準を落としているのかもしれない。
「直治、お兄ちゃんがジャーマンポテト作ってやるから元気出せ」
「ああああああああ・・・」
直治はふらふらしながら事務室に帰って行った。