四十話 目覚め

文字数 1,999文字

「わああああああ!?」


私は吃驚して飛び起きた。


「・・・ゆ、」


夢?


「お、お腹、気持ち悪い・・・」


私は自室で寝ていた。いつもお母さんの香水を置いているところを見てみる。無い。


「都さん・・・」


てぽてぽ歩いて都の部屋に行く。こんこん、とノックをした。


『どうぞ』

「雅です・・・入っていいですか・・・」

『どうぞ』


ドアを開けて中に入る。千代以外全員居て、お酒を飲んでいた。


「ジャスミンは?」

「そこ」


ドアの死角になる場所で、ジャスミンがお腹を出して気持ち良さそうに寝ていた。


「私、昨日どうなったの?」

「どうって、淳蔵のお酒を飲みたいって我儘言うからちょこーっと飲ませたら、酔っぱらって寝ちゃったのよ」

「ええ・・・? 私、なんか変な夢見て・・・」

「どんな?」

「・・・なんか、怖い夢。あの、千代は?」

「三時間くらい前にお仕事は終わらせたわよ。もう寝てるんじゃない?」

「お腹、お腹気持ち悪い」

「痛いの?」

「ううん」

「うーん、お酒は合わない体質なのかもね」


からん、と淳蔵の持っているグラスの氷が鳴った。夢で見た獣みたいな表情の淳蔵を思い出して、私はどうしてかゾクゾクしてしまう。


「雅さん、高校を出たあとのことは考えてる?」

「へ?」

「就職? 大学?」

「ま、まだなにも」

「今からゆっくり考えておきなさいね。高校を卒業したら貴方はここを出て行くんだから」


突然そう言われたので、ショックを受けた。どうしていいかわからなくなる。


「そ、そんな・・・」

「女王は一匹だから女王って呼ぶのよ、わかる?」


私はお腹をおさえる手をぎゅっと握った。部屋の電気は消えていて、ランプのオレンジ色の灯りが皆を照らしている。皆、美形だから、うっとりするほど綺麗なはずなのに、凄く凄く怖かった。だって表情が無い。皆、無表情で私を見つめている。都がグラスを傾けて舐めるようにお酒を飲むと、私を馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「貴方じゃ私の喧嘩相手になりそうだし、とっとと消えてね」

「ならないならない。都に敵うわけないだろ」

「雅が突っかかってくるのならわかるけどね」

「これ以上都に迷惑かけるな」


都に続いて三人がいっぺんに喋り出したので、私は慌ててしまった。


「し、失礼します!」

「はい、おやすみ」


そっとそっと階段を降りて暫く考えたあと、私は千代の部屋に行ってみた。


「お? どうしましたァ、雅さん」

「あ、あのね、私、昨日の誕生日パーティーで、お酒飲んで寝ちゃったの?」

「ああ、はい。私も寝ちゃいました」

「えっ?」

「都様が飲んでいるお酒を、これ珍しいやつだからちょっと飲んでみる? ってな感じでちろっと舐めたら、ばったんきゅーですわ。今日は昼まで寝てましたよォ。都様にしこたま謝られて、ちょい複雑な気持ちでしたァ」

「・・・夢、見た?」

「はい! 滅茶苦茶面白いヤツを!」

「ど、どんな?」


千代は、私が誕生日パーティーの夜に体験したはずの出来事をそのまま語った。


「いやァ、私、直治様が好みだったんですけど、あ、これは口が滑ったってレベルじゃないっすね。ま、いいや。淳蔵様のあんな表情見せられたら、惚れちゃいますなァ」


照れ臭そうに頬をぽりぽりと掻いて視線を逸らしながら言うので、私はちょっと呆れてしまった。


「ねえ、私、千代のこと親友だと思っていい?」

「あららっ、私はもうどうしようもないくらいの駄目人間で、漸くここでお仕事にありつけた本当の駄目人間ですが、私で良いのなら、是非!」

「ありがと! 元気出た!」


あたしは千代に抱き着く。千代はぽんぽんと背中を叩いてくれた。


「おやすみ!」

「はい、おやすみなさい」


あれは夢だったんだ。だって、私は生きている。明日から、勉強頑張らなくちゃ。

あ、あれ?

この感覚は、何度も感じたことがある。酷く恥ずかしい夢を沢山見た。

私はジャスミンだった。


「あーあー、ジャスミン、どうして都ちゃんをお外に出してくれないのかなぁ・・・」


都が悲しそうに言う。


「食べ歩きとか食べ歩きとか食べ歩きとかしたかったなあ・・・」

「食い倒れじゃね?」

「だな。しかし淳蔵の趣味の資格勉強がこんなところで活きるなんてな」

「あれ猟銃か? 始めて見た」

「お前は統合失調症の前科があるから持てねーよ」

「前科じゃねえよ!」

「あのねえ、私から皆に発表があるんだけど・・・」


三人は都の方に顔を向ける。


「ジャスミンが、千代さんのこと、ものすッごく気に入ったんだって。肉にしないでずっと手元に置いておきたいって・・・」

「そんなんあり?」

「俺は面白いからあり」

「勘弁してくれ・・・」


メイドの管理をしている直治が頭を抱えた。


「えっちな夢はご褒美程度に、肉は普通に食べさせる。年老いて死ぬか自らの意志でここを出て行くまで普通のメイドとして扱う、ですって」

「あいつ罪人なんじゃないのかよ?」

「報われるヤツが居ても良いだろ」

「俺達みたいに?」


沈黙が流れ、全員が笑う。


「一羽目の小鳥の誕生に、改めて、乾杯」
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