六十八話 正〇位

文字数 2,626文字

「あんっ、あ、ああっ! ああ、き、きもちぃ、からだ、とけるぅ・・・!」


たまにはシンプルに抱かれるのも、良い。俺は正常位で都に身体を捧げていた。


「み、みやこっ! い、いきたい!」

「はいはい」


二回も射精したあとなので、身体が疲れて尻だけではイけない。都は俺の男根に指を絡めて優しくしごいた。


「ああっ、あ、い、いくっ! んんんんんっ!」

「はい、お疲れ様」

「はあっ、はあっ、はあっー・・・」

「休憩する? おしまいにする?」

「きゅーけい・・・」

「水飲む?」

「のむ・・・」


ずるずるずる、と尻の穴からペニスバンドが抜かれる。


「くふぅ、うんっ・・・。はあー・・・」


俺は起き上がり、都からコップを受け取る。ぐいっと飲み干した。


「あー・・・」

「もうやめておいた方がいいんじゃない?」

「やだよ・・・。送迎と洗濯頑張ってるんだから・・・。ご褒美くれよ・・・」

「送迎、ねえ。もうすぐ七月だから、四月に出て行くとして、あと十ヵ月くらいかあ」

「半年以上先じゃねーかよ・・・」

「寂しい?」

「ンなわけねーだろ。寂しいのは都だろ? あいつ、時々帰ってきていいか都に許可とったら、都が『いいよ』って言ってたって・・・」

「んー、貴方達、特に美代は嫌がってるけど、良い経験にはなったでしょ? それに、私の相手ばっかりするっていうのも息が詰まらない?」

「本気で言ってるんだったら怒るぞ。俺達は都だけでいいんだよ」

「あらー・・・」


都は照れ臭そうに笑った。


「で? 都様。いつ哀れな淳蔵めを虐めてくださるんですか?」


後に手をつき、腰を突き出し、足を大きく広げる。都は捕食者のような笑いを浮かべて俺ににじり寄ると、ゆっくりとペニスバンドを挿入した。


「ああっ、ん、ぐう・・・」

「出会った頃は野犬みたいだったのに、国が傾くほどの美人になったねえ」

「意味っ、わかんねえ、う、なんで俺が、ああっ、美人で、美代が可愛い、で、直治が、あんっ、格好良い、なんだよっ」

「えー? 的確だと思うけどなあ・・・」


都が腰を振り始める。


「ふあっ、あ! あんんっ、んん!」


突かれるたび、髪がサラサラと揺れる。


「いつ見ても綺麗な髪だね、淳蔵」


都に髪を褒められると、天にも昇る気持ちになる。


「さわ、って、ああっ」


髪に感覚は無いはずなのに、都に触られると幸福感が溢れてくるし、都以外に触られると不快すぎて殺意がわく。客に触られて談話室を壊したこともあった。都に滅茶苦茶怒られて、いい歳した大人なのに一晩部屋で泣いたこともあった。その経験があったから、赤ん坊の時の雅に髪を引き千切られてもなんとか耐えられた。都が俺の髪を手で掬い、さらりと流す。それだけでもう、興奮してしまう。


「みやこに、ならっ、あう、鷲掴みにしてっ、振り回されてっ、引き千切られてもっ、いいっ」

「フフ、しないよ、そんなこと」

「ああっ、俺っ、丈夫だからっ、んんっ、乱暴にっ、してもいいからっ、う、も、もっと!」


都が遠慮なく俺をガツガツと抱く。今の俺は、ただの穴だ。この穴で都に肉体的な快楽を与えられたらどれだけ幸せだろう。でも、無機質な塊で俺を抱く都は本当に幸せそうで、そんな顔をされたらどうしたらいいのか、わけがわからなくなってしまう。


「ああっ! きもちいっ、んっ! ああ! くあ! んんん!」


快楽に痺れて腕で上体を支えるのがつらくなってしまって、俺は仰向けに倒れ込む。


「あいっ、あいしてる、みやこぉ! すき、だいすき! もっと、ああ! もっとぉ!」


ベッドのスプリングがギシギシと弾んでいる。


「あぐ! ああ! んぅ! うあ! はう! ううんっ! あっ! ああ!」


ぽと、ぽと、都の汗が俺の身体を濡らす。


「ああっ!? あっ!! み、みやこっ!! い、いぎっ、いぎたいっ!!」

「はいはい」


完全に勃起した俺の汚い男根を、都の綺麗な指が締め上げ、精液を絞り出そうと上下する。あの、食事中に綺麗に食器を持つ指が、美しい字を書く万年筆を持つ指が、カタカタと素早くキーボードを叩いて仕事に打ち込む指が、俺を射精させようとする。その事実に俺は堪らなくなって、四度目の射精を迎えた。


「はあ・・・。はあ・・・。んあ・・・。はあ・・・」

「はい、おしまい」

「だ、だめぇ・・・。きゅ、きゅーけい・・・」

「駄目。おーしーまーいー」


ずるるるる、とペニスバンドが引き抜かれる。


「あんん・・・」

「あはっ、おじさん、別の意味で腰が砕けちゃうよ」

「ばか・・・」

「眠い? 寝てもいいよ」

「・・・今、何時?」

「三時十二分」

「・・・部屋帰って寝るわ。雅の送りの時間になっても起きてこなかったら、千代に叩き起こすように言っといて」

「了解」

「おやすみなさいのキスしてくれ」

「・・・はい。おやすみなさい」

「・・・おやすみ」


都の部屋のシャワーを借り、身体の汚れを軽く落とし、床に脱ぎ捨てた服を着て部屋を出た。よたよたした足取りで自分の部屋に行く。尻の中が自分の肉で擦れて、疲れて勃起できないのにむずむず疼いて気持ち良い。髪の手入れを放ったらかしてベッドに横になると、あっという間に意識が無くなった。

結局、千代に起こされ、食事を摂らないまま雅を学校に送るために車を走らせる。睡眠時間は少ないがちゃんと寝られたので頭はすっきりしていた。


「淳蔵、あのね、もうすぐ七月でしょ? 七月は就職組が活動開始する時期なの。今まで三者面談は教育係の美代が来てくれてたけど、先生がお爺ちゃん達ともお話するべきだって言っててね。七月の三者面談にお爺ちゃん達も呼ぼうと思うの」

「ふうん」

「都さんにお願いしたら、お爺ちゃん達の送り迎えのタクシー代を払ってくれることになったの。それから、孫が暮らしているところはどんなものなのか見るために、一条家にお茶しにくるんだって」

「あ? 俺、そんなこと都から聞いてねーけど?」

「うん。今日の朝食の席で私が都さんに相談したから。あとで都さんが淳蔵に説明するって言ってたけど、私からも説明しておいた方がいいかなーと思って」

「ッチ、はあー・・・。あっそ」


ああ、面倒臭いことになる。


「朝は時間が無いから詳しく話せなかったんだけど、夜にまた談話室に皆に集まってもらって詳しい話をしようってことになったの。だから、今日の夜は予定を開けておいてね」

「はいはい」


就職。家を出て行く。もうそんな時期か。俺はちっとも寂しくないが、都が寂しがっているので館に居てほしいような気もする。そんな考えが馬鹿馬鹿しくなって、俺は運転に集中した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み