三百二十四話 そして現実を見失った
文字数 2,751文字
「あっ・・・?」
僕は意識を取り戻した。目の前には桜子が居る。
「おはようございます、高藤さん」
背後から一条の声が聞こえて振り返る。一条と、その後ろに息子達が横に並んで立っていた。
「もう少し穏やかな方法で済ませようと思ったんだけど、駄目みたいね。ほんと、男って射精のこと考えると知能が虫以下になるんだから」
くすくすと笑う一条の後ろで、息子達がバツの悪そうな顔をした。
「何故、僕を縛って、貴方達はなにを、」
「直治、説明を」
名前を呼ばれた筋肉質な男が頷いた。
「高藤賢一、二十八歳。『高藤コンサルティング』の社長。妻の栄子は二十六歳。夫の『浮気癖』、いや『女癖』の悪さに辟易して、一条家に助けを求めた」
「・・・は?」
違う、違う、疲れているのは僕だ。
「女性社員に手を出すのは当たり前。取引先の女性社員、飲み屋のアルバイトの女、水商売の女までなんでもあり。強引な態度と金に物を言わせ、靡かなかったら強引に肉体関係を持ってそれを弱味に従わせる」
「な、あ、う、ちが、違うッ!!」
「しかし女はとっかえひっかえで、長く持って半年、短ければ二ヵ月で『飽きて』『捨てる』。結婚すれば大人しくなるだろうと考えた馬鹿な両親に勧められた栄子を気に入ってすぐに結婚。しかし女癖は治らず、気付いた栄子があれやこれやと手を打つものの全く改善しなかった。悩んだ栄子は高藤賢一の恩師である存在と手を組み、栄子の言動を『独占欲』だと勘違いして疲れたつもりになっている高藤賢一を一条家に誘導することになった。だからお前はここに居る」
僕は呆けるしかなかった。それでも声を震わせた。
「嘘だ・・・嘘だ・・・! 僕は、確かに恋人が多かったけど、皆、大切にしていたし、すぐに別れたりしたのは相性の問題で・・・!」
「淳蔵が言ったでしょう。気持ちがなければ恋愛は成立しないって」
「栄子が、栄子が僕を罠に嵌めたんだな!?」
「・・・もういいわ」
一条は呆れたように溜息を吐いた。
「高藤さん、貴方はこれから三日三晩、こわーい夢を見るわ。二度と女を抱けなくなるかもしれない。栄子様はそれでもよいと仰った。でも、最後に、とっても甘美な夢を見せてあげる」
にっこりと一条は微笑んで、息子達を見た。
「見学はご自由に。途中退出も可能です。でも、出たら戻ってこないでね」
顔を真っ赤にしながらも、誰も部屋を出ていかない。
「ほんと馬鹿ね。まあ、一番馬鹿なのは桜子さんだけど・・・」
僕は一条と同時に桜子を見た。桜子も顔を真っ赤にして、服を脱ぎ始めた。蝶が贅沢にあしらわれた、『夢』で見たものと同じ黒い下着。
「私がデザインしたの」
一条が言う。桜子はよく見えるように、ゆっくりと、一回転した。
「似合う? 当然よね。私は桜子さんの身体を隅々まで知っているんですもの」
「都様ぁ・・・。恥ずかしいです・・・」
「ベッドに腰掛けて」
「はい・・・」
桜子は一条の命令通りベッドに深く腰掛け、一条は片膝を折り畳んでベッドに乗り、体重をかける。そして桜子の肩を抱いて頬を擦り寄せた。視線は、僕ではなく、後ろへ。後ろの息子達を見ていたのだ。
「貴方、恋人が沢山居たと言うわりには、女の扱いがなっていないようね。『女体』に夢を見ているからかしら? 撫で回せば濡れるわけじゃないし、突っ込めば気持ち良いってものでもないのよ。たっぷり見せ付けて教えてあげるから、栄子様の『種』に選ばれた時に精々励むのね」
ニヤリ、と一条は笑った。
「まず、爪は深爪するくらいしっかり切るのよ。女性、フフ、『桜子さん』は傷付きやすいからね。それから、顔はべたべた触らない。お化粧が落ちちゃうわ。キスはベテランの風俗嬢でも苦痛に感じるものなの。愛がなければね」
「もうっ、説明はいいですから、早くわたくしにキスをしてくださいっ」
「あらあら『変態さん』。見られる羞恥が癖になっちゃったの?」
「早くっ、早くっ・・・!」
「キスは相手の反応を見ながら、少しずつ深くね。ちゃんと呼吸のタイミングを合わせて息を吸わせてあげるのよ。貴方みたいに窒息させて面白がって『支配欲』を満たすんじゃあなくってね・・・」
二人は口付け合う。僕は、僕は混乱している。酷く侮辱されて、腹立たしい。ちゅくちゅくといやらしい音を立てて、舌を絡め合う。その間、一条も桜子も僕のことを一瞥すらしない。慈しむように互いを見つめ合う。
「舌も筋肉だから鍛えられるわよ。ま、貴方は飴でも舐めていればいいわ」
一条が桜子の首筋に舌を這わせる。
「あっ、ん・・・。み、都様、淳蔵様が目を逸らしています・・・」
「童貞には刺激が強過ぎたかな?」
「ひぅっ、あんん・・・」
「耳の軟骨の感触が面白いからって馬鹿みたいに噛まないことよ。唐揚げじゃないんだし。強く刺激したいのなら唇で包んだ歯でそっと挟むの。耳朶も吸わない。雛鳥が啄むように優しくするのよ」
「耳、やあっ・・・」
「胸も力任せに揉まない。形を維持するの大変なんだからね? そもそも揉まれれば気持ち良いってものじゃないから。自分の気分と相手が誰かが問題なの。ほら、緊張を解すように、ゆっくりと、手で包み込むのよ」
「あっ、ああ・・・」
「感情はストレートに伝えるの。とっても可愛いよ、桜子さん」
「ありがとう、ございますぅっ・・・。ち、乳首、こりこりしてください・・・」
「おねだりには応えてあげること」
「やんっ! あああっ!」
「自尊心を傷付けるような意地悪はしないこと。さて、寝転びましょうか、桜子さん」
「はいぃ・・・」
桜子が、横になり、一条が、服を脱いで、覆い被さる。
「『弱点』とか『必殺技』とか、子供みたいなこと飲み屋で披露しないことね」
桜子の、パンティーの中に、一条の、手が。
「あああっ! きもち、いいっ!」
「質問は『どこに入れてほしいの?』じゃなくて『痛くない?』よ」
「ひぎっ、イっちゃう! イっちゃいますぅ!!」
「アダルトビデオやアニメ、雑誌や漫画、ゲームで得た知識はなんの役にも立たないから捨てること。アレはぜぇんぶ演技なんだから。わかった?」
「都、さま、挿れて、ください・・・」
「愛液だけで大丈夫、なんて馬鹿なことも言わないことね。唾液をローションがわりにするなんてもってのほかよ」
僕の、桜子を、犯す、肉塊を模した塊が、
「ああ・・・大きくて立派です・・・。早く、早くブチ犯してください・・・」
「男も女も粘膜は傷付きやすいんだからね。高藤さん、貴方がやっていることはただの『摩擦』よ。膣に擦過傷を作っているに過ぎない。だから痛がられて嫌がられるの。貴方のが『大きいから』じゃないわ。それを相性がどうのこうの、馬ッ鹿じゃない? ・・・さて、チュートリアルのサービスタイムは終わり。桜子さん、ご褒美の時間よ」
「ああぁあああーっ!!」
僕は、現実を、見失った。
僕は意識を取り戻した。目の前には桜子が居る。
「おはようございます、高藤さん」
背後から一条の声が聞こえて振り返る。一条と、その後ろに息子達が横に並んで立っていた。
「もう少し穏やかな方法で済ませようと思ったんだけど、駄目みたいね。ほんと、男って射精のこと考えると知能が虫以下になるんだから」
くすくすと笑う一条の後ろで、息子達がバツの悪そうな顔をした。
「何故、僕を縛って、貴方達はなにを、」
「直治、説明を」
名前を呼ばれた筋肉質な男が頷いた。
「高藤賢一、二十八歳。『高藤コンサルティング』の社長。妻の栄子は二十六歳。夫の『浮気癖』、いや『女癖』の悪さに辟易して、一条家に助けを求めた」
「・・・は?」
違う、違う、疲れているのは僕だ。
「女性社員に手を出すのは当たり前。取引先の女性社員、飲み屋のアルバイトの女、水商売の女までなんでもあり。強引な態度と金に物を言わせ、靡かなかったら強引に肉体関係を持ってそれを弱味に従わせる」
「な、あ、う、ちが、違うッ!!」
「しかし女はとっかえひっかえで、長く持って半年、短ければ二ヵ月で『飽きて』『捨てる』。結婚すれば大人しくなるだろうと考えた馬鹿な両親に勧められた栄子を気に入ってすぐに結婚。しかし女癖は治らず、気付いた栄子があれやこれやと手を打つものの全く改善しなかった。悩んだ栄子は高藤賢一の恩師である存在と手を組み、栄子の言動を『独占欲』だと勘違いして疲れたつもりになっている高藤賢一を一条家に誘導することになった。だからお前はここに居る」
僕は呆けるしかなかった。それでも声を震わせた。
「嘘だ・・・嘘だ・・・! 僕は、確かに恋人が多かったけど、皆、大切にしていたし、すぐに別れたりしたのは相性の問題で・・・!」
「淳蔵が言ったでしょう。気持ちがなければ恋愛は成立しないって」
「栄子が、栄子が僕を罠に嵌めたんだな!?」
「・・・もういいわ」
一条は呆れたように溜息を吐いた。
「高藤さん、貴方はこれから三日三晩、こわーい夢を見るわ。二度と女を抱けなくなるかもしれない。栄子様はそれでもよいと仰った。でも、最後に、とっても甘美な夢を見せてあげる」
にっこりと一条は微笑んで、息子達を見た。
「見学はご自由に。途中退出も可能です。でも、出たら戻ってこないでね」
顔を真っ赤にしながらも、誰も部屋を出ていかない。
「ほんと馬鹿ね。まあ、一番馬鹿なのは桜子さんだけど・・・」
僕は一条と同時に桜子を見た。桜子も顔を真っ赤にして、服を脱ぎ始めた。蝶が贅沢にあしらわれた、『夢』で見たものと同じ黒い下着。
「私がデザインしたの」
一条が言う。桜子はよく見えるように、ゆっくりと、一回転した。
「似合う? 当然よね。私は桜子さんの身体を隅々まで知っているんですもの」
「都様ぁ・・・。恥ずかしいです・・・」
「ベッドに腰掛けて」
「はい・・・」
桜子は一条の命令通りベッドに深く腰掛け、一条は片膝を折り畳んでベッドに乗り、体重をかける。そして桜子の肩を抱いて頬を擦り寄せた。視線は、僕ではなく、後ろへ。後ろの息子達を見ていたのだ。
「貴方、恋人が沢山居たと言うわりには、女の扱いがなっていないようね。『女体』に夢を見ているからかしら? 撫で回せば濡れるわけじゃないし、突っ込めば気持ち良いってものでもないのよ。たっぷり見せ付けて教えてあげるから、栄子様の『種』に選ばれた時に精々励むのね」
ニヤリ、と一条は笑った。
「まず、爪は深爪するくらいしっかり切るのよ。女性、フフ、『桜子さん』は傷付きやすいからね。それから、顔はべたべた触らない。お化粧が落ちちゃうわ。キスはベテランの風俗嬢でも苦痛に感じるものなの。愛がなければね」
「もうっ、説明はいいですから、早くわたくしにキスをしてくださいっ」
「あらあら『変態さん』。見られる羞恥が癖になっちゃったの?」
「早くっ、早くっ・・・!」
「キスは相手の反応を見ながら、少しずつ深くね。ちゃんと呼吸のタイミングを合わせて息を吸わせてあげるのよ。貴方みたいに窒息させて面白がって『支配欲』を満たすんじゃあなくってね・・・」
二人は口付け合う。僕は、僕は混乱している。酷く侮辱されて、腹立たしい。ちゅくちゅくといやらしい音を立てて、舌を絡め合う。その間、一条も桜子も僕のことを一瞥すらしない。慈しむように互いを見つめ合う。
「舌も筋肉だから鍛えられるわよ。ま、貴方は飴でも舐めていればいいわ」
一条が桜子の首筋に舌を這わせる。
「あっ、ん・・・。み、都様、淳蔵様が目を逸らしています・・・」
「童貞には刺激が強過ぎたかな?」
「ひぅっ、あんん・・・」
「耳の軟骨の感触が面白いからって馬鹿みたいに噛まないことよ。唐揚げじゃないんだし。強く刺激したいのなら唇で包んだ歯でそっと挟むの。耳朶も吸わない。雛鳥が啄むように優しくするのよ」
「耳、やあっ・・・」
「胸も力任せに揉まない。形を維持するの大変なんだからね? そもそも揉まれれば気持ち良いってものじゃないから。自分の気分と相手が誰かが問題なの。ほら、緊張を解すように、ゆっくりと、手で包み込むのよ」
「あっ、ああ・・・」
「感情はストレートに伝えるの。とっても可愛いよ、桜子さん」
「ありがとう、ございますぅっ・・・。ち、乳首、こりこりしてください・・・」
「おねだりには応えてあげること」
「やんっ! あああっ!」
「自尊心を傷付けるような意地悪はしないこと。さて、寝転びましょうか、桜子さん」
「はいぃ・・・」
桜子が、横になり、一条が、服を脱いで、覆い被さる。
「『弱点』とか『必殺技』とか、子供みたいなこと飲み屋で披露しないことね」
桜子の、パンティーの中に、一条の、手が。
「あああっ! きもち、いいっ!」
「質問は『どこに入れてほしいの?』じゃなくて『痛くない?』よ」
「ひぎっ、イっちゃう! イっちゃいますぅ!!」
「アダルトビデオやアニメ、雑誌や漫画、ゲームで得た知識はなんの役にも立たないから捨てること。アレはぜぇんぶ演技なんだから。わかった?」
「都、さま、挿れて、ください・・・」
「愛液だけで大丈夫、なんて馬鹿なことも言わないことね。唾液をローションがわりにするなんてもってのほかよ」
僕の、桜子を、犯す、肉塊を模した塊が、
「ああ・・・大きくて立派です・・・。早く、早くブチ犯してください・・・」
「男も女も粘膜は傷付きやすいんだからね。高藤さん、貴方がやっていることはただの『摩擦』よ。膣に擦過傷を作っているに過ぎない。だから痛がられて嫌がられるの。貴方のが『大きいから』じゃないわ。それを相性がどうのこうの、馬ッ鹿じゃない? ・・・さて、チュートリアルのサービスタイムは終わり。桜子さん、ご褒美の時間よ」
「ああぁあああーっ!!」
僕は、現実を、見失った。