百五十二話 人間らしさ

文字数 1,752文字

雅の死から半年。春の四月。俺達は談話室でいつも通り過ごしていた。


「あーつぞーうちゃーん」


ひょこ、と都が顔を出す。


「あーそびーましょー」


半年振りの、都の誘い。


「五分だけ待ってくれ」

「はあい」


都は上機嫌で去っていった。


「半年振り、だよな?」


俺は雑誌を綺麗に畳んでラックに戻す。


「俺は相手してもらってない」


美代が短く息を吐いた。


「俺も遊んでもらってない」


直治は腕を組んで背凭れに身体を預ける。


「立ち直った、か?」

「・・・かも?」

「開き直ったのかもな」

「・・・まァ、どっちだっていいさ」


俺は両膝を軽く叩いて立ち上がる。


「ヒィヒィ喘いで涎垂らしながら腰振ってくるわ」

「馬鹿が」

「アホめ」


悪態を吐かれながら、俺は都の部屋に行く。ノックせずに部屋に入ると、にんまり笑った都が無言で風呂場とトイレの方向を指差した。俺はおどけて肩を竦め、トイレに入る。都の誘い。嬉しい気持ちはあるが、素直には喜べなかった。『あの話題』に触れなければ、俺達に安寧は無いのだから。


「はあ・・・」


シャワーを浴びて、寝室に向かう。都は水色の可愛い下着姿でベッドに腰掛けていた。俺も横に腰掛ける。


「都」

「うん?」

「その・・・、雅のこと、落ち着いたのか?」

「おー、ずばっと聞くんだね」

「う、あの・・・。聞かれたくないことは、わかっています。ごめんなさい・・・」


都は俺から視線を外して目を伏せ、自分の唇を触る。


「御主人様の機嫌が悪いと、愛玩動物はビクビクして過ごさなくちゃいけなくてつらい、か?」


ぞわ、と鳥肌が立つ。俺は思わず下を向いた。


「舌触り滑らかな言葉で甘やかすだけが愛情じゃない」


都は怒ったような呆れたような声で続ける。


「だからあの親切な白い悪魔は、ジャスミンは、私を刺激する。人間らしい感情を忘れさせないようにする。私が怒り狂うのも、嘆き悲しむのも、痛みや苦しみを味わうのも、あの子にとっては、愛情表現なんだよ」


ちら、と都の方を見ると、都はベッドに手をつき、足をぱたぱたと泳ぐようにカーペットの上で滑らせていた。


「でもね、淳蔵」


恐る恐る、俺は都の顔を見る。


「楽しいだけの生活って、それもう死んでるのと同じだから」


そう言って、優しく、微笑んだ。


「飢えた経験があるから、初めて満ちるんだよ」


都が瞬く。


「淳蔵は、私が哀れだから満たしてくれるの? 機嫌をとらないと怖くてつらいから身体を捧げるの? 久しぶりのセックスが嬉しいの? それとも、全部?」

「全部、かな・・・」

「素直でよろしい。さて、久し振りだからちゃんと解さないと。自分で解す? 私が解す?」


都がどこからともなくローションを取り出してニタニタと下品に笑うので、俺は苦笑した。


「都の指、感じたい」

「いーっぱいぐちゅぐちゅしてあげるね」


あまり良くない感情で萎えていた男根が、ぴくぴくと反応する。俺は自分の足を抱いてひっくり返った蛙のようになって、都に身体を差し出した。


「ねえ、もしかしてオナニーしてた?」

「し、して、ました・・・」

「半年も触ってないのに、ぷっくり膨らんでるものね。オナニー、気持ち良かった?」


ちゅぷ、と都が俺の尻の穴に指を挿れる。


「あっ・・・。あ、き、気持ち、良かったです・・・」

「週に何回くらいしてたの?」

「さ、三回くらい・・・」

「どんなやり方で? 最初から最後まで詳しく教えて?」


指が増える。


「し、下準備、して、綺麗にしたら、都に貰った、ベージュ色の、アナルパールを・・・」

「それで?」


三本の指をぐぽぐぽと音を立てながら出し入れされる。


「あぁあっ・・・! い、イキみながら、手で、おちんちんしごいてっ、イ、イ、イく時に一気に、引き抜いてっ・・・!」

「ンフッ、今度、一人でするところ見せてもらおうかなあ?」

「ええっ!? や、やだよっ、ぜ、絶対やだからっ!!」

「おじさん、今日は淳蔵ちゃんの綺麗な髪を見ながらえっちなことしたいなあ」

「わっ、わかったよぉ・・・」


背面騎乗位。都が俺とする時に一番好きな体位。少し癖のある長い黒髪がさらさら揺れて、それが堪らなく良いらしい。


「はうッ、ああ、んうぅ・・・」

「この瞬間を額縁に入れて飾りたいね」

「ばっ、馬鹿ぁ・・・!」

「ゲヘヘヘヘ」

「・・・ほ、ほんとにっ、馬鹿なんだからぁ」


不安がバターのように溶けていく。また、静かな暮らしが戻ってくる。
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