三百二十二話 綺麗だ
文字数 1,973文字
始めて彼女を見た時、綺麗だ、と僕は思った。
「あの、お名前は」
「桜子です」
桜子。名前まで綺麗だ。
「お幾つですか?」
「二十四歳です」
僕より四つ年下とは思えない程、落ち着いた雰囲気を纏っている。女性にしては大きな身体を包む、時代にそぐわないメイド服。理知的な印象を与える綺麗な顔。青みがかった黒髪は真っ白な三角巾で飾るようにまとめられている。
「ここは、不思議な場所ですね・・・」
「フフ、高藤様、素敵な夢が見られるといいですね」
とす、とす、と小さな足音に似合わない大きな体躯の男が食堂の前に現れる。ホテルのオーナー、一条都の三人息子の内の誰かだろう。彼は僕を見ると、す、と頭を下げた。
「高藤様、失礼します」
彼女、桜子は、行ってしまった。どうしたものか。まだ彼女と話したい。桜子と入れ替わりに来たメイドに聞いてみたいが、もし妻に『妻以外の女性』と話したのがバレたらと思うと、話しかけられなかった。オーナーの一条はそういう事情を汲んで僕の逃避行を受け入れてくれたというのに、僕はなんということを。しかし、桜子には、最早魔力といっていい程の、不思議な魅力があったのだ。恩師に勧められ、癒しを求めた先で出会ったのは、夢ではなく、一人の女性だった。
だからかもしれない。
あんな『非現実的』な夢を見たのは。
いや、夢というもの自体がそもそも非現実的なものだとはわかっている。しかし、あまりにも、色の彩度も明度も、音も、においも、まるで何者かになってその場で窃視、いや、鑑賞しているようなリアリティーがあったのだ。
「もう、都様ったら・・・」
殆ど紐の、黒いフリルが付いたセクシーな下着。
「わたくしがお尻が大きいのを気にしているのを、知っているくせに・・・」
「フフ、見せてよ」
桜子の対面には、青い下着姿の、一条都。ベッドに腰掛けて足を組んでいる。
「もう・・・」
桜子は言われた通り、一条に背中を向けた。肉厚な尻がゆさゆさと揺れる。紐が喰い込んで、はちきれそうだ。いや、そんなことより、尻の穴が、ちらりと見え隠れしている。
「良いお尻」
「せめてお仕事中は見ないようにしてください・・・」
「見られてるとドキドキしちゃう?」
「はい・・・」
「ごめんなさい。つい目で追っちゃうの」
「・・・わたくしのお尻が、大きくて下品だからですか?」
「貴方のことが好きだから」
「都様の、えっち・・・」
いっそ冷たい程の美貌を持つ桜子の唇から、次々と飛び出てくる低能で卑猥な言葉。しかし僕は彼女を軽蔑するどころか、酷く、酷く興奮していた。
「背中も綺麗よ」
視線が勝手に桜子の背に上がる。僕は、驚いた。桜子は鍛えているのだろうか。みっしりとした筋肉の上に薄く乗った脂肪の膜。艶めかしい肩甲骨。見返り美人という言葉そのままに、桜子の頬は紅潮し、潤んだ瞳で一条を見つめていた。
「都様、もう・・・」
「おいで」
一条は深く腰掛け直した。
「失礼します・・・」
桜子が一条の上に乗る。二人は向かい合う形で座った。一条は桜子の腰を抱き、桜子は一条の首の後ろに腕を回す。暫し無言で見つめ合ったあと、桜子の方から口付けた。ちゅる、ちる、と小さな水音が鳴る。一条が桜子の尻の肉を鷲掴みにすると、桜子が『んっ』と声を出して唇を放した。
「今日は『どっち』?」
「・・・お、お尻で」
「すっかりお尻の魅力にハマっちゃったのね、変態さん」
桜子は黙って、俯いた。美しい女性同士でまぐわう光景は、生々しくも神秘的だった。片方が桜子だからかもしれない。僕は、一条に嫉妬の念を抱いた。
「さあ、おねだりを」
一条の言葉に桜子は俯いたまま頷き、ベッドの上で四つん這いになった。一条は下着の紐を人差し指に引っ掛け、くい、と持ち上げる。
「ああっ・・・」
「お尻の穴が丸見えよ」
「もっと・・・もっと見てください・・・」
僕は目を疑った。一条が桜子の尻の穴を舐め始めたからだ。
「やあっ・・・、力、抜けちゃうぅ・・・」
「嫌なの? じゃあやめるわね」
一条はそう言って、舐め続ける。桜子の顔は蕩け切って、下着から溢れ出した愛液が太腿まで伝っていた。シーツを握り締め、歯を食いしばって仰け反ると、上体を伏してぴくぴくと痙攣する。
「イっちゃったの?」
「は、はい・・・」
「フフ、さて、と・・・」
一条が指に潤滑液を絡めて、桜子の尻の穴を解す。
「うくっ、うぅ・・・」
「痛くない?」
「もう、もう挿れてくださいっ・・・!」
「もう少しね」
桜子が懇願しているのに、一条は執拗に指を動かした。
「・・・そろそろかな」
そう言う頃には、桜子は荒い息を吐くことしかしなくなっていた。一条が奇妙なものを履く。『アレ』は、まさか。初めて見た。女性が女性を、或いは女性が男性を犯す時の、いやらしい道具だ。
「挿れるよ」
桜子が震えながら頷く。
「ふあっ、ああっ、あああああっ!!」
桜子は、笑っていた。僕はそこで目が覚めた。
「あの、お名前は」
「桜子です」
桜子。名前まで綺麗だ。
「お幾つですか?」
「二十四歳です」
僕より四つ年下とは思えない程、落ち着いた雰囲気を纏っている。女性にしては大きな身体を包む、時代にそぐわないメイド服。理知的な印象を与える綺麗な顔。青みがかった黒髪は真っ白な三角巾で飾るようにまとめられている。
「ここは、不思議な場所ですね・・・」
「フフ、高藤様、素敵な夢が見られるといいですね」
とす、とす、と小さな足音に似合わない大きな体躯の男が食堂の前に現れる。ホテルのオーナー、一条都の三人息子の内の誰かだろう。彼は僕を見ると、す、と頭を下げた。
「高藤様、失礼します」
彼女、桜子は、行ってしまった。どうしたものか。まだ彼女と話したい。桜子と入れ替わりに来たメイドに聞いてみたいが、もし妻に『妻以外の女性』と話したのがバレたらと思うと、話しかけられなかった。オーナーの一条はそういう事情を汲んで僕の逃避行を受け入れてくれたというのに、僕はなんということを。しかし、桜子には、最早魔力といっていい程の、不思議な魅力があったのだ。恩師に勧められ、癒しを求めた先で出会ったのは、夢ではなく、一人の女性だった。
だからかもしれない。
あんな『非現実的』な夢を見たのは。
いや、夢というもの自体がそもそも非現実的なものだとはわかっている。しかし、あまりにも、色の彩度も明度も、音も、においも、まるで何者かになってその場で窃視、いや、鑑賞しているようなリアリティーがあったのだ。
「もう、都様ったら・・・」
殆ど紐の、黒いフリルが付いたセクシーな下着。
「わたくしがお尻が大きいのを気にしているのを、知っているくせに・・・」
「フフ、見せてよ」
桜子の対面には、青い下着姿の、一条都。ベッドに腰掛けて足を組んでいる。
「もう・・・」
桜子は言われた通り、一条に背中を向けた。肉厚な尻がゆさゆさと揺れる。紐が喰い込んで、はちきれそうだ。いや、そんなことより、尻の穴が、ちらりと見え隠れしている。
「良いお尻」
「せめてお仕事中は見ないようにしてください・・・」
「見られてるとドキドキしちゃう?」
「はい・・・」
「ごめんなさい。つい目で追っちゃうの」
「・・・わたくしのお尻が、大きくて下品だからですか?」
「貴方のことが好きだから」
「都様の、えっち・・・」
いっそ冷たい程の美貌を持つ桜子の唇から、次々と飛び出てくる低能で卑猥な言葉。しかし僕は彼女を軽蔑するどころか、酷く、酷く興奮していた。
「背中も綺麗よ」
視線が勝手に桜子の背に上がる。僕は、驚いた。桜子は鍛えているのだろうか。みっしりとした筋肉の上に薄く乗った脂肪の膜。艶めかしい肩甲骨。見返り美人という言葉そのままに、桜子の頬は紅潮し、潤んだ瞳で一条を見つめていた。
「都様、もう・・・」
「おいで」
一条は深く腰掛け直した。
「失礼します・・・」
桜子が一条の上に乗る。二人は向かい合う形で座った。一条は桜子の腰を抱き、桜子は一条の首の後ろに腕を回す。暫し無言で見つめ合ったあと、桜子の方から口付けた。ちゅる、ちる、と小さな水音が鳴る。一条が桜子の尻の肉を鷲掴みにすると、桜子が『んっ』と声を出して唇を放した。
「今日は『どっち』?」
「・・・お、お尻で」
「すっかりお尻の魅力にハマっちゃったのね、変態さん」
桜子は黙って、俯いた。美しい女性同士でまぐわう光景は、生々しくも神秘的だった。片方が桜子だからかもしれない。僕は、一条に嫉妬の念を抱いた。
「さあ、おねだりを」
一条の言葉に桜子は俯いたまま頷き、ベッドの上で四つん這いになった。一条は下着の紐を人差し指に引っ掛け、くい、と持ち上げる。
「ああっ・・・」
「お尻の穴が丸見えよ」
「もっと・・・もっと見てください・・・」
僕は目を疑った。一条が桜子の尻の穴を舐め始めたからだ。
「やあっ・・・、力、抜けちゃうぅ・・・」
「嫌なの? じゃあやめるわね」
一条はそう言って、舐め続ける。桜子の顔は蕩け切って、下着から溢れ出した愛液が太腿まで伝っていた。シーツを握り締め、歯を食いしばって仰け反ると、上体を伏してぴくぴくと痙攣する。
「イっちゃったの?」
「は、はい・・・」
「フフ、さて、と・・・」
一条が指に潤滑液を絡めて、桜子の尻の穴を解す。
「うくっ、うぅ・・・」
「痛くない?」
「もう、もう挿れてくださいっ・・・!」
「もう少しね」
桜子が懇願しているのに、一条は執拗に指を動かした。
「・・・そろそろかな」
そう言う頃には、桜子は荒い息を吐くことしかしなくなっていた。一条が奇妙なものを履く。『アレ』は、まさか。初めて見た。女性が女性を、或いは女性が男性を犯す時の、いやらしい道具だ。
「挿れるよ」
桜子が震えながら頷く。
「ふあっ、ああっ、あああああっ!!」
桜子は、笑っていた。僕はそこで目が覚めた。