百三十六話 甘く苦い思い出

文字数 1,912文字

「ああっ! あっ、み、みやこっ! も、もうっ!」


俺は都に乗っかって自分で腰を振っていた。


「直治、乳首弄っていいよ」

「は、はいっ」


体勢を立て直し、一番弱くて恥ずかしいところに手を伸ばそうとした時だった。

ぷるるるるるる。

都の仕事用の携帯が鳴る。俺は反射的に手を止めた。都が仕事の電話に出る時は静かにしていなければいけないからだ。


「はい、一条都です」


都が電話に出る。


「こんばんは、保田さん。・・・ご予約の件ですね。少しだけお待ちいただけますか? すぐに戻りますのでお電話はこのままで、はい、ありがとうございます」


都は電話をミュートにしたのか、俺を押し倒して寝かせると、ペニスバンドを引き抜く。


「んあああ! ううあっ!」

「静かにしてなさい」


有無を言わさぬ声。俺は細かく頷き、必死に呼吸を整える。


「お待たせしました。ただいま戻りました。・・・まあ、ペットホテルをキャンセルされてしまったんですか。・・・あら、そんな理不尽な理由で」


まずい。常連の話し好きの保田だ。早くもう一回突っ込んでほしいのに。


「・・・ええ、マナーウェア、ですか。そういう事でしたら構いませんよ。使い捨ての手袋とゴミ袋は無料でご提供します。・・・ごはんとお水ですか? はい、持ってきてくださっても構いませんし、ジャスミンと同じものでよければご提供します。・・・はい、『元気印のワンちゃんシリーズ』です。青いパッケージの。ダイエット用の緑のパッケージのものもありますよ」


早くイきたい。早く乳首を弄りたい。


「・・・はい。ジャスミンの予備のものがありますよ。新品ですからご安心ください。ごはんのお皿とお水のお皿、ペット用のベッド、あとはおもちゃも。いえ、買取だなんてそんな。いえいえ、お気になさらず。リリちゃんさえよければジャスミンと一緒に庭の森をお散歩しましょう。・・・はい、・・・はい。では、二日後、お待ちしております。はい、失礼します」


都が電話を切った。


「みやこっ」

「ごめんごめん、萎えちゃった?」

「見りゃわかるだろっ、はやくっ」


萎えるどころか、焦らされて、乳首も男根もガチガチに勃起していた。


「ほら、直治の一番好きな体位でしてあげるから」


都はつま先を立てて正座すると、足を広げる。俺は都の上に座る形でペニスバンドを挿入した。


「んうっ、う、うごくなよっ」

「はいはい」


自分で腰を動かし、乳首を思いっきり抓る。俺の太腿の裏に都の太腿がぶつかって気持ち良い。


「はあッ、ああ、んくっ、ううんっ!」


あっという間にイッてしまった。俺はそのまま腰を下ろし、挿入したまま息を整える。


「ま、前、弄ってくれ・・・」

「わかりました」


都が左手で根元を持って、右手で先端を軽くしごき始める。俺は自分の乳首を弄り回しながら、腰を上下させた。


「ああっ! あっ、あたまぁっ、おかしくなるっ!」


気持ち良い。頭が、真っ白に。


「あはっ、ふあ、あうう、ああんぅ!」


涎がべろべろ垂れる。


「あっ、ああっ、あ、あああああーっ!」


都に奉仕しなければいけない立場なのに、後ろに居る都の負担なんて忘れて、俺はただ腰を振り続けた。

二日後。

雌の柴犬のリリを連れた保田夫婦がやってきた。談話室にあるテーブルを一つ片付けてジャスミンとリリが遊ぶスペースを作り、二匹が遊ぶ様子を見守りながら都と保田夫婦が談笑する。


「ジャスミン君、優しいですねえ、とーっても紳士的ですねえ」

「ありがとうございます」

「うちの子、やっと換毛期が終わったんですよ。柴犬の換毛はもう凄くって。お茶を摘むように毛がポンポン取れるから、柴マニアの間では『柴摘み』なんて呼ばれているんですよ」

「あら、うちのジャスミンもやっと換毛が終わったんですよ。やっぱり室内飼いだと遅れますよねえ」

「ですよねですよね。でもねえ、時代は新しくなってるんですから、犬は外飼いで番犬、猫は外に出して自由を満喫させるなんて考え、古いと思うんですよ。昭和なんてもう何世代前のお話ですか、って思うんです。換毛が遅れているのは幸せな犬の証だと思うんですよ」


犬、もとい親切な白い悪魔は、正真正銘の犬のリリと、カラフルで太い縄のおもちゃを引っ張り合って遊んでいる。仮にジャスミンが本当の犬だとしても、40kgを超えるジャスミンと、10kg前後であろうリリの力量差は見ればわかる。ジャスミンは相当手加減しているんだろう。二匹とも尻尾をぴんと立てたりぶんぶん振ったりしている。

ジャスミンはなにが楽しくて犬なんてやっているんだろう、と常々考えているが、少し前に俺は性欲をおさえきれなくなって、仕事中に都の部屋に行き、ジャスミンの首輪をつけて犬の真似をしていたことを思い出して、自分が情けなくなった。
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