五十三話 久しぶりの
文字数 2,281文字
雅が二年生になった。なったのはいいが、面倒なことにもなった。クラス替えで友達とばらばらになったらしい。おまけに意地悪してくる子がいるとかなんとかで、夜、不安定になって泣いている。自室で一人で泣いてりゃいいものを、誰かに構ってもらいたいらしく、人目の付くところで泣いている。それを知らせにジャスミンの馬鹿が起こしに来るのだ。鍵をかけていたってこの馬鹿には通用しない。今日も俺は起こされ、雅を探していた。
すん、すん、鼻をすする音が聞こえる。はいはい、キッチンね。
「雅、また泣いて・・・、」
寝巻の都がシンクに涙を落していた。俺に吃驚すると手の平で乱暴に顔を擦って涙を消し、慌てた様子で出て行こうとする。
「ちょ、待てって!」
抱き留めて肩を掴むと、都は恥ずかしがっている時の顔をした。
「泣いてるの?」
「もう平気」
「平気じゃないじゃん。そんな涙声で。ちょっと座れよ、な?」
都は大人しく椅子に座った。俺は目の前にしゃがみ込み、視線を合わせる。
「どうした?」
「怖い夢見ただけ」
「ジャスミンか?」
「ううん、『普通』に」
「どんな夢?」
話すのを躊躇ったあと、小さな声で、
「父親の夢」
と言った。
「部屋の、ベッドの上で、襲われてたから、自室に居るのは嫌になって、ここに来て泣いちゃった」
「あのクソ野郎・・・」
俺は跪き直し、都の手を取る。そして忠誠を誓うため指先に口付けた。
「俺のお姫様。あのクソ野郎がまたやって来たら、王子様の俺が撃ち殺してやるよ」
「うん・・・」
時折、幼い反応をするのが可愛い。堪らなくなる。
「俺の部屋来るか?」
「行く・・・」
この夜ばかりはジャスミンに感謝した。
「・・・てぇことがあってな?」
あの男は確実に始末したが、念のため、美代と直治と情報共有しておく。
「なんだ自慢かよ」
「情報共有つってんだろ」
「いいや、自慢だ。聞いて損した」
「にしても最近、ちょっと情緒不安定じゃね?」
「肉喰ってないからだろ」
「あ、成程」
「直治、なんとかしろ」
「仕入れは都が嫌がってるんだから仕方ねえだろ」
「町で適当な女ひっかけて攫ってくるかァ?」
俺が冗談を言うと、二人共呆れて笑った。
「不味そうな肉だな・・・」
「肉、喰いたいよなぁ・・・」
こんこん、とドアをノックする音がした。ここは美代の事務室だ。
「どうぞ」
『失礼しまァす!』
千代の声がしたのに、ドアを開けて入ってきたのは都だった。千代はその後ろでダンボールを抱えている。
「これ、なんだと思う?」
都がダンボールを指差す。俺達は中を覗き込んだ。
「・・・ゴミにしか見えないけど」
「正解」
酒の空き缶と、菓子類の空き袋。
「ジャスミンが庭で見つけたの。どうも不法侵入者が居るらしいわ」
それは、招き入れているということである。
「安っぽい酒と肴よね。若い子かしらね? 千代さんに確認してもらったんだけど、毎朝ゴミが落ちてるから、毎晩不法侵入して酒盛りしているみたいなの。今晩、現場をおさえて警察に通報しようと思うの。淳蔵、美代、直治、着いて来てくれるでしょう?」
「勿論」
「相手はなにをやらかすかわかんないお馬鹿さんだから、千代さんと雅さんは安全のために館から出ないようにお願いするから。じゃあ、またあとで」
「失礼しまァす!」
都達は去っていった。
「やばいな」
「喰う気だな」
「ジャスミンの野郎、なんだかんだきっちり仕事しやがる」
俺達はほくそ笑んだ。
夜。
都を先頭に庭の森の奥へ歩いていく。懐中電灯と携帯のライトで灯りをとりながら、べたっと座り込んで酒盛りをしている馬鹿共を見つけた。男が三人、女が二人。
「うわっ!?」
男の一人が声を上げた。
「あ、おい、こいつら雅と同じ制服着てるぞ」
俺が言うと、女の一人がにやりと笑って立ち上がった。
「おばさーん、こんばんはー! 雅ちゃんの、おっともだちでーす! お邪魔してまーす!」
「こんばんは。どうして勝手に庭に入っているの?」
「えー? なんかめっちゃゴッツい壁があったからぁ、中ってどうなってるんだろうと思ってぇ、肝試し感覚でよじ登って中に入ってみたらぁ、それがたまたま、雅ちゃんのおうちだっただけでーす!」
「えっ、ヤバッ! 男の方めっちゃ格好良くない!?」
もう一人の女がライトで直治の顔を照らした。
「ここが雅さんの家だということを知っているのね?」
「有名ですよー? あたしねぇ? 二年生になってから雅ちゃんと同じクラスになったからお友達になってあげたのに、雅ちゃん、お友達料金支払うの嫌がるんですよぉ。ちょっとおばさんから注意してくださいよォ!」
「おばさんも可愛いじゃん。俺さ、」
立ち上がって都に触ろうとした男の首を、雅が腕を振り抜いて180度回転させる。男は二、三歩歩いたあと、ドウッと倒れた。馬鹿共はぽかんとしている。
「要するに、雅さんにちょっかいをかける一環で庭に不法侵入したのね?」
「えう、あ、えっ?」
「悪い子ね。お仕置きしなくちゃ」
都は女の胸倉を掴み上げると、剥ぐように服をはだけさせて首筋に噛みついた。女の絶叫が少しずつ小さくなっていく。絶命した女に覆い被さり、都は女を貪り始めた。
「みーやこ、俺達はもう一匹を分け合うから、それは独り占めしちゃいなよ」
美代が嬉しそうに言う。直治が腰を抜かしている男の首の骨を折った。もう一人の男が逃げ出そうとしたので、俺は捕まえて首の骨を折る。こうしておけば、あとでジャスミンが勝手に食う。
「血塗れの都はいつ見てもえっちだなあ」
「珍しく意見が合うじゃないか」
「ッチ、こいつ漏らしてやがる。きたねえな」
久しぶりに肉を喰った充実感を得られたが、下拵えしていない肉は、想定通り不味かった。
すん、すん、鼻をすする音が聞こえる。はいはい、キッチンね。
「雅、また泣いて・・・、」
寝巻の都がシンクに涙を落していた。俺に吃驚すると手の平で乱暴に顔を擦って涙を消し、慌てた様子で出て行こうとする。
「ちょ、待てって!」
抱き留めて肩を掴むと、都は恥ずかしがっている時の顔をした。
「泣いてるの?」
「もう平気」
「平気じゃないじゃん。そんな涙声で。ちょっと座れよ、な?」
都は大人しく椅子に座った。俺は目の前にしゃがみ込み、視線を合わせる。
「どうした?」
「怖い夢見ただけ」
「ジャスミンか?」
「ううん、『普通』に」
「どんな夢?」
話すのを躊躇ったあと、小さな声で、
「父親の夢」
と言った。
「部屋の、ベッドの上で、襲われてたから、自室に居るのは嫌になって、ここに来て泣いちゃった」
「あのクソ野郎・・・」
俺は跪き直し、都の手を取る。そして忠誠を誓うため指先に口付けた。
「俺のお姫様。あのクソ野郎がまたやって来たら、王子様の俺が撃ち殺してやるよ」
「うん・・・」
時折、幼い反応をするのが可愛い。堪らなくなる。
「俺の部屋来るか?」
「行く・・・」
この夜ばかりはジャスミンに感謝した。
「・・・てぇことがあってな?」
あの男は確実に始末したが、念のため、美代と直治と情報共有しておく。
「なんだ自慢かよ」
「情報共有つってんだろ」
「いいや、自慢だ。聞いて損した」
「にしても最近、ちょっと情緒不安定じゃね?」
「肉喰ってないからだろ」
「あ、成程」
「直治、なんとかしろ」
「仕入れは都が嫌がってるんだから仕方ねえだろ」
「町で適当な女ひっかけて攫ってくるかァ?」
俺が冗談を言うと、二人共呆れて笑った。
「不味そうな肉だな・・・」
「肉、喰いたいよなぁ・・・」
こんこん、とドアをノックする音がした。ここは美代の事務室だ。
「どうぞ」
『失礼しまァす!』
千代の声がしたのに、ドアを開けて入ってきたのは都だった。千代はその後ろでダンボールを抱えている。
「これ、なんだと思う?」
都がダンボールを指差す。俺達は中を覗き込んだ。
「・・・ゴミにしか見えないけど」
「正解」
酒の空き缶と、菓子類の空き袋。
「ジャスミンが庭で見つけたの。どうも不法侵入者が居るらしいわ」
それは、招き入れているということである。
「安っぽい酒と肴よね。若い子かしらね? 千代さんに確認してもらったんだけど、毎朝ゴミが落ちてるから、毎晩不法侵入して酒盛りしているみたいなの。今晩、現場をおさえて警察に通報しようと思うの。淳蔵、美代、直治、着いて来てくれるでしょう?」
「勿論」
「相手はなにをやらかすかわかんないお馬鹿さんだから、千代さんと雅さんは安全のために館から出ないようにお願いするから。じゃあ、またあとで」
「失礼しまァす!」
都達は去っていった。
「やばいな」
「喰う気だな」
「ジャスミンの野郎、なんだかんだきっちり仕事しやがる」
俺達はほくそ笑んだ。
夜。
都を先頭に庭の森の奥へ歩いていく。懐中電灯と携帯のライトで灯りをとりながら、べたっと座り込んで酒盛りをしている馬鹿共を見つけた。男が三人、女が二人。
「うわっ!?」
男の一人が声を上げた。
「あ、おい、こいつら雅と同じ制服着てるぞ」
俺が言うと、女の一人がにやりと笑って立ち上がった。
「おばさーん、こんばんはー! 雅ちゃんの、おっともだちでーす! お邪魔してまーす!」
「こんばんは。どうして勝手に庭に入っているの?」
「えー? なんかめっちゃゴッツい壁があったからぁ、中ってどうなってるんだろうと思ってぇ、肝試し感覚でよじ登って中に入ってみたらぁ、それがたまたま、雅ちゃんのおうちだっただけでーす!」
「えっ、ヤバッ! 男の方めっちゃ格好良くない!?」
もう一人の女がライトで直治の顔を照らした。
「ここが雅さんの家だということを知っているのね?」
「有名ですよー? あたしねぇ? 二年生になってから雅ちゃんと同じクラスになったからお友達になってあげたのに、雅ちゃん、お友達料金支払うの嫌がるんですよぉ。ちょっとおばさんから注意してくださいよォ!」
「おばさんも可愛いじゃん。俺さ、」
立ち上がって都に触ろうとした男の首を、雅が腕を振り抜いて180度回転させる。男は二、三歩歩いたあと、ドウッと倒れた。馬鹿共はぽかんとしている。
「要するに、雅さんにちょっかいをかける一環で庭に不法侵入したのね?」
「えう、あ、えっ?」
「悪い子ね。お仕置きしなくちゃ」
都は女の胸倉を掴み上げると、剥ぐように服をはだけさせて首筋に噛みついた。女の絶叫が少しずつ小さくなっていく。絶命した女に覆い被さり、都は女を貪り始めた。
「みーやこ、俺達はもう一匹を分け合うから、それは独り占めしちゃいなよ」
美代が嬉しそうに言う。直治が腰を抜かしている男の首の骨を折った。もう一人の男が逃げ出そうとしたので、俺は捕まえて首の骨を折る。こうしておけば、あとでジャスミンが勝手に食う。
「血塗れの都はいつ見てもえっちだなあ」
「珍しく意見が合うじゃないか」
「ッチ、こいつ漏らしてやがる。きたねえな」
久しぶりに肉を喰った充実感を得られたが、下拵えしていない肉は、想定通り不味かった。