二十八話 手枷足枷

文字数 2,212文字

その日は宿泊客が居ないので、俺達は揃って食堂で食事を摂る日だった。変化があった。淳蔵に憧れて髪を伸ばしていたみーちゃんが、自分で髪を切ったのか短い髪と荒い毛先で現れた。メイドの貴子と瞳が見てはいけないモノを見てしまったかのような反応をしている。


「いただきます」

『いただきます』


静かに食事が続く。と、突然、バン! とみーちゃんがテーブルを叩いた。全員の視線が集まる。


「私の髪について、なんもないの!?」


ヒステリックに叫ぶ。


「短い方が可愛いぞ」


滅多に反応を返さない淳蔵がこの時ばかりはそんなことを言うものだから、みーちゃんは顔をくしゃっと歪めた。


「ふざけないで! 私、全部知ってるんだから!」

「なにを?」


都が聞く。


「私・・・! 私・・・! 私、お爺さんに聞いて全部知ってるの!」


ぴく、と俺達は静止する。メイド達は困惑していた。


「お爺さん?」

「都のお父さん! 都はお母さんを殺してその罪をお父さんに擦り付けて、お父さんを追い出してこの館を乗っ取ったの!」


美代の機嫌がみるみる悪くなるのがわかる。


「それに・・・それに・・・! 都は淳蔵と、美代と、直治と・・・!」


バン! と再びテーブルが叩かれる。食器が悲痛な音を立てた。


「なんで私を引き取ったの!? 私は都の暇潰しの人形じゃない!!」

「いい加減にしろクソガキ!!」


美代が怒鳴る。みーちゃんはビクッと身を竦ませて、涙を浮かべた。


「美代、やめなさい。みーちゃんの言ってることは事実無根だから。そうでしょ?」


都は顔の前で祈るように指を組んだ。


「みーちゃん。いえ、雅さん。なにか勘違いしているようだけれど、私は貴方を引き取ったわけじゃないわ。お爺さん達と養子縁組をしたでしょう? 本来ならお爺さん達と一緒に暮らすべきところを、貴方が我儘言ってこの館に住み着いているだけ。出て行きたいならいつでも居場所はあるのよ?」


詩でも読むかのように都が言う。雅の顔は赤くなったり青くなったりを繰り返した。


「まあ、学校の問題があるからいきなりってわけにはいかないけれど、いつでも出て行ってくれて構わないわ。貴方が私のことをクソババアだと思っているように、私も貴方のことをクソガキだと思ってるからね」


満面の笑みでそう言い切るので、俺は都がちょっと怖くなった。淳蔵はいつも通り食事を続けていて、美代は雅の方を見もせずに鼻で笑って食事を再開した。


「都なんか死んじゃえ!!」


雅はそう叫んで食堂から出て行った。

その夜、都から呼び出された俺は気が気でなかった。都は不機嫌になると食欲をおさえきれないのか、今すぐ肉が食べたいと懇願される。俺はそれを断り切れない。


「あっ、直治ー! 見て見て!」


都は枷を二つ、俺に見せてきた。不機嫌ではないので取り敢えず安心する。


「これ、どこにつけると思う?」

「手と足じゃないのか?」

「手と足だよ」

「うん?」

「ん?」


二人で固まる。どうせ身体に教えられるんだからと、俺はさっさと服を脱ぐ。都も珍しく服を脱いで、珍しくセクシーな黒い下着を着ていた。見ているだけで身体が疼く。都は右手首と右足首、左手首と左足首をくっつけるように言った。嫌な予感がしたが、その通りになった。


「おい・・・!」

「ん?」

「『ん?』じゃない! そう縛るのかよ!」


都はメイド達の前では決して見せない下品な笑みを浮かべる。


「直治さん、授乳してくれます?」

「駄目!」

「そんなぁ」


赤ん坊のように乳首に吸いつかれ、下半身が反応する。


「み、都、話があるから、」

「んー?」

「今朝、雅が言ってたこと・・・」

「あー、あれね。ちょっとだけ嘘でちょっとだけ本当」

「なんだそりゃ。言えねえのか」

「淳蔵と美代にも言う?」

「・・・言う。運命共同体だから」

「おやまあ、直治からそんな言葉が出るなんて。ま、いつかバレることだし教えちゃおうかな」


都は俺の首筋に顔をうずめる。


「父は婿養子だったの。財産が欲しくなって母を殺したんだけど、その現場を私に見られた」


その現場が、俺の目に浮かぶ。都が怯えている。


「父は酷く興奮していてね。私の首を絞めているうちに、私を犯したくなった」


都が泡を吹く。酷く甘い声で鳴く。


「それをジャスミンが助けてくれたの」


光景が、消えた。


「親切な悪魔でしょ」


都は俺の乳首を抓む。


「っ、成程・・・」

「わかるのよ」


心底不快だというように綺麗な顔を歪める。


「いつか復讐しに来るってね」

「俺が探し出して殺してやる・・・」


チャリ、と枷についている鎖が擦れた。都は嬉しそうに笑った。


「だ、だからこれ、解いてくれよ。いつ都が危険な目に遭うかわからないのに、縛られてたら落ち着かねえ・・・」

「身代わりのお人形さんがいるから大丈夫ですよぉ? それより授乳してくれませんかぁ?」

「わかったよ! 吸え吸え!」


自棄になって叫ぶと、都は思いっきり乳首を吸いながら俺の男根をしごきはじめた。


「折角美人で、う、頭もいいのにっ、なんでそんな、変態なんだよっ」

「父親譲りなんじゃない?」

「自虐すんな馬鹿!」

「えへへ、ごめん・・・」

「あっ、も、もう・・・」


縛られている興奮も相まって、あっという間に果ててしまった。


「直治」

「は・・・、あ、なんだ?」

「乳首ってもう一個ありますよね」


一瞬ムカついたあと、はあーっと溜息を吐いて脱力した。


「・・・どうぞ」


男の乳首なんて吸ってなにが楽しいんだか。『黙っていれば美人』に似た言葉を探して、出てこなかったので、俺はなにも言わなかった。
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