百七話 拷問

文字数 2,513文字

ガチン!

トラバサミが獲物を捕らえた。


「ギャアアアアアアァアァアアアァッ!?!?」


俺は獲物を見下ろす。


「どーもぉ、死神です」

「あぅ、あっ、ああっ・・・」

「知ってるか? 鴉って蝋燭も食うんだぜ。あんたの命の蝋燭、食いに来たよ」

「いだ・・・いだい・・・だずげで・・・だず・・・」


がさがさと草を掻き分け、都が現れる。そして俺の腕に絡みついた。


「こんばんは、不法侵入者さん。森は不思議がいっぱい。怖い悪魔が出るかもよ?」


がさがさ。千代が出てきて、獲物、浩からトラバサミを外し、刃を閉じた状態でトラバサミに鍵をかける。そして浩が持ってきたのであろうナイフを拾った。


「あちゃ、おーきなナイフですねぇ。こんなんで刺されたらひとたまりもありませんねぇ」


都が俺から腕を放した。俺は鴉を数羽使って、浩が外壁に引っ掛けた梯子を持ち上げ、てこの原理を使って敷地内に放り込んだ。これで邪魔は入らないし、証拠も残らない。


「あの辺りの壁はちょっとでこぼこしているから梯子が引っ掛けやすかったのかしら? 壁に落書きして遊んでいた悪い子なら目敏く見つけるでしょうね」

「おね・・・おねがいじまず・・・きゅうきゅうしゃ・・・きゅうきゅうしゃよんでぐだざい・・・」

「淳蔵」

「ん」


俺は浩を持ち上げた。そのまま館に持っていき、地下室に運ぶ。


「ご苦労、淳蔵君」

「ハハッ、うるせーよ」


鼠と蛇が美代と直治のズボンの裾から中に戻っていった。見ていたらしい。


「男の肉って不味いんですよねェ?」

「腐った肉を食べた方がマシよ」

「おお、なんと・・・。では拷問かつ惨殺しかありませんかぁ・・・」


千代がチェシャ猫のように笑った。


「た、たずげっ、たず」

「はあ?」


都が腰に手を当てて心底苛ついたように言う。


「ねえ、私が『助けて』って言ったら、貴方、助けてくれるの?」

「ずみ、ずみまぜんでじだ・・・!」

「私の家でなにをするつもりだったのかしら? 強盗? 一家惨殺? 放火? レイプ? それとも全部?」

「ぢ、ぢがいまず・・・いだい・・・いだいでずぅ・・・」

「都様ァ、オムツしますかァ?」

「そうねえ、頼むわ」

「はァい!」


千代が爪でビリバリと衣服を裂き、オムツを着けさせる。


「都様ァ、鞭打ちなど如何ですかァ? 罪人はビシバシ! するのがお決まりですよォ!」

「じゃあ、一番可愛いの持ってきて」

「はァい!」


直治が浩に手枷を嵌めてフックに吊るし、背中を晒させる。千代は先端が大きなハートマークの形をした乗馬鞭を都に渡した。都はそれを右手に持つと、大きく振りかぶって浩の背中を叩いた。


「アアアアァアァアアアアァアアッ!!!!」

「やっぱり美代じゃないとそそられないなぁ」

「ちょ、恥ずかしいよ、都・・・」


美代は少女のように頬を染めて視線を逸らしている。ちょっと可愛いと思ってしまった自分にムカつく。


「おっと、何回叩いたか数えなきゃ。いーち」

「やめでぐだざいぃ! あやまりまず! なんでもじまずがらぁ!」


破裂音が鳴る。


「あがぁあぁああぁあああぁああぁああッ!!!!」

「にーい」

『さーん』

『よーん』

『ごーお』

『ろーく』

『なーな』

『はーち』

『きゅー』

『じゅー』


浩は小便を漏らしていた。


「あはっ、ねえ、不法侵入者さん。こんなに手加減してるのに、もうそのザマなの?」

「うううっ・・・。ううううっ・・・」

「この鞭、見た目が可愛いだけで全然痛くないでしょう? 背中は赤くなってるけど腫れてないもの」

「い、いだいでずぅ・・・。もうやめでぐだざい・・・」

「知ってる? 私ね、両利きなの。小さい頃は左利きだったんだけれど、お婆様とお母さんが右利きに修正しようとして、中学生の時に両利きになったのよ。ずっと右手を使っているから、細かい作業は右手でやる方が集中できるんだけど、力を入れる作業をする時は左手でやった方が、力が入るのよね。身体がそういう造りをしているのかしら?」

「な、なにを・・・」


都は美代に近付き。背中を鞭で叩く。


「あぅ!」

「ほら、痛がってないでしょ?」

「あはっ、痛いよ、都ぉ・・・」


美代の瞳が蕩ける。


「こっちはどうかな?」


鞭を左手に持ち替え、美代を叩く。


「あぐっ!! んっ!!」


美代は顔を真っ赤にして口元を手でおさえた。


「ね、痛がってるでしょ?」


都が浩の元に戻る。


「千代さん、バケツに水を汲んでおいて」

「はァい!」

「じゃ、いきますよ」


右手で叩いていた時よりも数段激しい破裂音が響いた。


「うあああああああああっ!?!?!?!?」

「いーち」

『にーい』

『さーん』

『よーん』


浩は気絶していた。千代が顔面目掛けてバケツの水をぶっかける。


「ゲホッゴホッオエエッ!!」

「吐いたら舐めとらせるわよ」

「お水汲んでおきまーす!」

「おっと、ここが痛いのも忘れないでね」


都は浩がトラバサミに挟んだ右足を鞭で叩いだ。


「ギョォオオォオォオオォオォッ!?!?!?」

「うーん、全然そそられないわ」

「よいしょ!」


千代が浩の顔に水をかける。


「・・・ごめんなざい、・・・ごめんなざい、・・・ごめんなざい」

「直治、フックを降ろして」


ソファーに座って酒を飲んでいた直治が立ち上がり、浩の手枷を引っかけていたフックを下に降ろす。浩はよたよたとした動きで土下座をし、謝り始めた。


「都様は魅力的な女性ですから、恋心を抱くのは仕方ありません。でもねぇ、この世のどんな存在よりも尊い都様を、ナイフを使って脅し、襲い、殺そうとしていたのなら、万死に値しますよォ?」


千代が浩の頭を踏む。


「で、私の家でなにをするつもりだったの? 強盗? 一家惨殺? 放火? レイプ? それとも全部?」

「・・・ナ、ナイフで脅して、レ、レイプして、首を絞めて、殺そうと、思いました」

「貴方は私が『命だけは助けてください』と言ったら、助けてくれるのかしら? 逆の立場になった以上、なにをされても文句は言えないわよね?」

「た、たすけ、」


都と千代の目が、汚物を見る目にかわる。最高の光景だ。俺は口の中でウィスキーを捏ねてから飲み干した。美代はさっきから勃起をおさえようと必死になって息を吐いていて、直治はそんな美代を見て苦笑している。


「都」

「なあに?」

「下種の血は不味いぞ」


俺が言うと、都は牙を見せて笑った。
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