六十二話 社交ダンス

文字数 2,262文字

シャワーを浴びて部屋に戻ると、都がベッドで寝転んでいた。


「おお、都、どうした?」

「虐めてほしいの」


数年に一度の、都のおねだり。俺は都に覆い被さって唇を吸った。都が俺の頭を抱きかかえる。服の下に手を滑らせて胸を揉むと、都は可愛い声で鳴いた。唇を離し、丁寧にブラウスのボタンを外し、下着を持ち上げて胸を晒させる。綺麗な肌だ。舐めているだけで気持ち良い。


「ん、ん・・・」


赤ん坊がするように乳首を吸い、もう片方は指で引っ張り上げた。


「っ、う」


歯で挟んで胸を揺らす。


「うんっ・・・」

「都」

「・・・なに?」

「話してごらん」

「・・・外」

「うん?」

「外に、出たい」

「・・・じゃ、今度ドライブするか」


都は黙って頷いた。


「都ちゃん、どんなおパンツ履いてるのかなァ?」


俺がおどけて言いながらスカートをたくし上げると、都は呆れたように笑う。


「変態だ」

「言われたくねーよ」


間違って膣に入ってはいけないので、布越しに撫で上げる。


「んっ・・・」


カリカリと引っ掻くように敏感な部分を弄る。


「く、ん・・・」


目をぎゅっと瞑り、太腿を痙攣させながら股を閉じた。イッたらしい。


「は、はあ・・・」

「もう一回する?」

「ううん、すっきりした・・・。お礼、するね?」


俺達は体勢を変えて、今度は都が俺に覆い被さる。啄むようなキスをしたあと、都は俺のモノをしゃぶった。傷心の都につけこんでいるようで悪いが、最高の夜だった。


「・・・もう父親はいねぇのに、なァんで外に出さねえんだよ」


談話室に向かいながら、独り言ちる。


「あの刺青の女みてぇのがいるからか? クソッ・・・」


直治が言っていた。刺青の女の胸倉を掴んだら手がビリビリ痺れたと。無理して掴んだせいで、二日程、使い物にならなくなっていた。中途半端な力しかないのが悔しい。


「・・・ん?」


玄関の方から奇妙な音が聞こえる。音楽と、足音?


「ッチ」


また妙なのが来たのかもしれない。足音を殺して玄関まで行き、そっと覗くと、都と雅が優雅に踊っていた。いや、優雅なのは都だけで、雅はどたばたしている。


「な、なにしてんだ?」

「アアッ、淳蔵! 都さん、休憩休憩!」


雅がぜいぜいと呼吸しながら言う。


「はいはい」


美代、直治、千代も居る。都は珍しくズボンを履いていた。ラジカセから流れていた音楽を、美代がボタンを押して止める。


「はあー・・・はあー・・・」

「雅さん、大丈夫?」

「ま、まだやりますぅ・・・」

「淳蔵様ァ、社交ダンスですって」

「はあ?」

「学校の授業であるんですってェ。雅さん、ダンスがかなり苦手みたいで、先生にお叱りを受けたそうなんですよォ。成績に響いてはいけないので、ダンスの経験がある都様が練習のお相手をしておりますゥ」

「へー、都、ダンスもできるの」

「男役はね。女役はあんまり」

「ん、なんで?」

「中学と高校の授業でやってたんだけど、背が高いせいで男役ばっかやらされてたからね」

「成程」

「ふう、ふう・・・、み、美代、音楽かけて」

「はいはい」


都と雅が手を取り合い、踊る。


「右、左、右、左、」

「みっ、ひだ、みみ、ひだ、」


ステップを声に出しているが、雅がワンテンポ遅れている。


「右、左、前、」

「あっ!」


雅が躓き、都の足を踏んだ。美代が音楽を止める。


「ご、ごめんなさい」

「いいのよ。やり始めの頃よりはマシになってるから。一回、呼吸が落ち着くまでゆっくり休憩しましょう」

「は、はい」

「都様、私にも教えてくーださい!」

「いいわよ。まずはホールドからね」


千代が都の目の前に立つ。


「もう少しひっついて。肩の力を抜いて、腕も垂れさせるイメージで、手をしっかり握って。そうそう、雅さんに教えていたのと同じステップね」

「はい!」

「美代、音楽を」


音楽が鳴る。


「右、左、右、左、」

「よ、っほ、よ、っほ、」

「右、左、右、前、後ろ、前、後ろ」

「おっ? 踊れてます?」

「才能あるかも」

「あはっ、ありがとうございましたァ」


音楽が止まる。


「な、いいだろ?」

「いいな」


俺と直治は小声で言い合った。


「あのォ、淳蔵様、都様と踊ってくださいませんか?」

「えっ」

「淳蔵様、ぜェェェッたい似合いますよ! ね? ね?」

「い、いや、あー・・・」


都とは踊りたいが、俺には社交ダンスなんて無理だ。


「ホールド! ホールドだけでいいんでェ!」

「あー・・・、いいぞ」

「やった!」

「うーん、私と淳蔵だと身長差がありすぎるからちょっと、」


視線を送られた直治が嫌そうな顔をする。俺も嫌だっつの。


「直治」

「嫌です」

「直治様ァ! 一生のお願いをここで使わせていただきます!」

「アホかお前は!」

「直治、従業員の士気を高めるために、ね?」

「・・・わかったよ」


美代が笑いを堪えている。俺は仕方なく直治と向き合った。


「もう少しひっついて。・・・もっとよ。そうそう。肩の力を抜いて、腕も垂れさせるイメージで、手をしっかり握って。淳蔵、ちょっと肩を下げて。直治は腕の力を抜いて。・・・うん、いいかな。あとは表情ね。睨み合わないの!」


俺は客用の笑顔を浮かべ、直治の手を握り潰す勢いで手に力を込めた。直治は口角だけ上げて俺を睨み付けながら、手を握り返してくる。直治の方が握力が強いので手が痛い。


「おわー! 淳蔵様、格好良いですゥ!」

「千代、ナイス提案! 淳蔵格好良いよー!」


千代と雅が喜んでやがる。


「弟よぉ、ちょっと力強すぎるんでないの」

「大好きな兄さんと手を繋げて緊張しちまってな」


都がくすっと笑った。

可愛い。

俺の都。

頼むから、誰もこの空間を壊さないでくれ。

馬鹿みてぇな祈り。

結局、千代と雅が満足するまで、俺達は手を握り続けた。
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