四十三話 男三人

文字数 2,075文字

雅は学校に、千代はジャスミンの散歩に、都は疲れが溜まったのか昼寝をしていたので、美代が作った昼飯を三人で摂っていた。


「なんで男三人で飯食わなきゃいけねーんだよむさっくるしい・・・」

「淳蔵、俺達の顔はかなり恵まれている方だと思うぞ」

「俺以外の雄は全員ブスですよ美代君」

「あ?」

「ああ?」

「やめないか馬鹿共が! 飯くらいゆっくり食わせろ!」

「直治さん、なにピリピリしてるの? 昨日都に虐めてもらった乳首が擦れて痛いんですか?」

「殺すぞ!」

「物騒だなァ」

「クソッ、千代は悪くないんだ千代は! 声がデカい以外は問題ない! 都も俺達の相手ばっかじゃ息が詰まるだろ!」

「お喋り上手なメイドは一人居た方が良いな」

「同性のお友達って感じで気さくに話してるみたいだしね」

「問題は雅だ! いちいち癪に障る!」

「落ちつけよ直治。ほんとに擦れて痛いのか?」

「・・・殺すぞ」

「あ、マジのやつだ。ごめんごめん」

「ああ、そうそう、父親始末してからは無茶して肉を喰わなくてもよくなったんだし、千代の周りはなるべく平和にしてやったほうがいいんじゃねーの?」

「賛成」

「半年に一回、都と決めた」

「わかった」

「淳蔵、雅はお前に懐いてるだろ。なんとか言って聞かせられねえのか」

「言って聞くような性格なら俺達ここまで苦労してないし、俺はちゃんと言ってる」

「だああクソッ、都が居なかったらとうの昔に死んでるゴミなのに! 情けかけてもらった分際で館の中を我が物顔で歩き回りやがって!」

「ねー、いつまでブスの悪口言うのー? 美代君の作った飯が不味くなるんですけどー」

「ケラケラ笑いながら言われてもね・・・」

「俺達に好奇心持つのは良いんだけど、都に敵対心持つのがいかんのよなあ」

「本能に従順な年頃の雌って感じだなァ。近くに競争相手が居たら威嚇しちまうんじゃねえの?」

「俺達はお前は都の喧嘩相手にはならないって言ったよな?」

「あいつ問題一つ解いたら一つ前の問題の答え忘れちゃう子だから・・・」

「馬鹿がッ!!」

「直治荒れてて怖いんですけど」

「なんかあったの?」

「都の履歴書作るのかってくらい根掘り葉掘り聞いてくるわ、俺達の過去について聞き出そうとするわ、千代と遊びたいがために俺の気を引こうとするわ、聞いてもない学園生活の話をしてくるわ、運転中の淳蔵が冷たいだの勉強中の美代が怖いだの、うんッざりだ!!」

「あちゃー、直治さん、耐えるタイプだから溜め込んで爆発しちゃったよ」

「お前は瞬間湯沸かし器みたいなもんだけど・・・」

「あ? 俺だって耐えてるんですけど?」

「やめやめ。ガキ一人に振り回されてると考えると悲しくなるぜ」

「ったく・・・」

「都の話しない?」

「それはそれで喧嘩になる」

「音楽性の違いでな」

「あー、つまんねーの。俺達共通の話題ないじゃん」

「料理の感想言い合うか? 美味いよ美代、ありがとう」

「きっも」

「駄目じゃねえか」

「黙って食えよ」

「凄く今更だな・・・」


八割がた食べ終わっていたが、残りは黙って食べた。千代が帰ってくる。


「ただいま戻りましたァ!」

「おかえり」

「おっきい犬って沢山歩きますねェ、おかげさまで痩せられそうです!」

「君、十分痩せてると思うんだけど」

「脱ぐと凄いですよ?」

「そ、そう」

「直治様ァ! 実は雅さんから相談されたことがありまして、」

「・・・なんだよ」

「学校のお昼を、美代様や私のお弁当ではなく、お友達と学食を楽しみたいと仰ってまして、お昼代を出してほしいそうです!」

「だ、だから・・・」

「はい?」

「都に言えッつってんだろッ!!」


俺がバンッとテーブルを叩くと、千代は、しまった、という顔をした。


「お前はッ、館を綺麗にするメイドッ、俺はメイドのスケジュールと客の管理をするただの管理人ッ! 美代は社長の秘書で淳蔵は運転手ッ!」

「あ、俺、運転手って扱いになってんの?」

「俺達の給料、もとい小遣いは都が決めて出してるッ! お前の給料もなッ! 雅を養っているのは誰なのか考えてから口を開けッ! いい加減にしろッ!」

「ごごご、ごべんなざい! みやびざんにおづだえじばずぅ! じづれいじばず!」


ジャスミンが俺の身体から怒りを取り除こうとして身体をくっつけようとしていたが、俺は手で追い払った。


「直治、無意識にやってるんだろうけど、その、シャツ破れるぞ?」

「わかっててやってる! 見せモンじゃねえぞ!」


俺はシャツを引っ張りながら頭を抱えた。怒りと羞恥で頭がいっぱいになる。


「うわッ!?」


ジャスミンは馬鹿力で重い椅子をひっくり返した。


「いッてえ・・・」

「そのまま大人しくしてろ。お前ちょっとキレすぎだから」

「ふざけんな! 正当な怒りだ!」

「まあまあ、大人しくしろって」


淳蔵と美代がぐいぐいとジャスミンを押し付ける。一瞬だ。頭の中が真っ白になって、すーっと消えていった。


「・・・はあ」

「落ち着いた?」

「馬ッ鹿馬鹿しい」

「成程ね、千代君を通して直治に要求がいってるからストレス溜まっちゃうわけだ」

「退けクソ犬。生きたまま煮るぞ」

「こわ」


ジャスミンは大きな身体をゆさゆさ揺らして、気ままに消えていった。
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