三百十一話 できるの?

文字数 1,748文字

「ウフ、可愛い猫さん」

「にゃ、にゃあ・・・」


なんなんだ、この状況は。なんで俺はこんなこと喜んでやってるんだ。


「駄目でしょ直治。『目を逸らさない』の。ちゃんと『目を合わせて』」


鏡に映る自分と、俺は目を合わせる。猫耳のカチューシャ、ロンググローブ、ロングブーツ、殆ど紐の、上下の下着。上なんて乳首の部分がわざわざハートマークにくり抜かれている。なんで白猫なんだか。おまけに、尻尾まで。床に吸盤で貼り付けた『おもちゃ』だ。おもちゃにも尻の穴にもたっぷりとローションを塗り込んであるので、息をするだけで快楽が襲ってくる。大股を開いて跪いて腰を落とし、手を頭の後ろで組んでいる。


「男前よねえ・・・」


顎を掴んで無理やり鏡を見せられる。目を逸らすと、何度か顔の角度をかえられて無言の圧をかけられる。女々しい顔をしている。


「『甘いマスク』、ってヤツかしらね。そうそう、私、『イケメン』って言葉が嫌いなの。言い出したアーティストに悪い気持ちを抱いてるわけじゃないわよ。複雑な顔の造りを一言で要約するのが嫌いなの。貴方はどう?」

「にゃあ・・・」

「嫌いよね」


都はくすくす笑った。


「さあ、たっぷり楽しんでね」


かりかりと中指で乳首を引っ掻かれる。


「ああッ!! あ、あううぅうっ!!」


なんで、乳首で、こんなに。


「きもちいッ、はああッ!!」


中が苦しくて、堪らない。


「こ、これすごくイイッ!! し、しぬ!! しんじゃう!!」

「だーめ」

「あっ・・・」


指が離れていく。


「私がすると刺激が強過ぎるみたいね? 死なない程度に自分でどうぞ?」

「そんなぁ・・・」

「早くしなさい」

「・・・はい」


片手で扱き、片手で乳首を抓り、腰を振る。


「フフ、下品な音」

「ごっ、ごめんなさっ、いいいいっ!」

「鏡を見なさい。鞭で打つよ」

「やめっ、ううっ」


情けない姿、だらしない顔。


「今、握ってるそれ、立派よね。いいなあ。私も欲しいんだけど、こればっかりはね」


うっとりとした表情で言う都は、どうかしてる。


「私に精液をぶっかけられて、それを滑りにヌく想像してみてよ」

「なっ・・・」


想像を止められない。

男の都に、俺より大きい都に押し倒されて、組み敷かれて、力の差にひれ伏して、身体を舐められて快楽に身を震わせる。自ら進んで、咥えて、しゃぶって、『顔にかけて』と言って、舌を突き出して広げて卑猥な顔をして都のこころを煽る。かけられた精液を喜んで顔に塗り広げて、自分の勃起した男根にも塗って。

俺は笑っていた。


「・・・じ、おい、直治」

「あっ?」

「どうした? ぼーっとして」

「わ、悪い・・・」


淳蔵が首を傾げる。


「新しいメイドでなんか悩み事か? 明日からだろ」

「あ、まあ・・・」


美代が俺を少し睨む。


「淳蔵、付き合い長いのにわかんないのかよ」

「なんだよ」

「都のこと考えてる顔してるだろうが」

「あー・・・」


俺は俯き、シャツを引っ張ってしまった。肯定しているようなもの、いや、これは肯定だ。


「昨夜はお楽しみでしたね」

「そのネタわかるヤツ相当なレトロゲーマーだろ」

「惚気なら聞かないからな」


俺は引っ張ったシャツをそのまま、言った。


「・・・聞けよ」

「なんだよ」

「昨日、都が妙なことを言い出すから、俺も妙な想像を・・・」

「どんな?」

「都がもし、男だったらって・・・」


美代は目を見開き、淳蔵は下らないと言いたそうな顔をした。


「なんだそりゃ、女だから良いんだろうが」


やはり、下らないと思ったようだ。


「・・・・・・・・・あの、さ」


美代は、物凄く言いづらそうに、ぽそぽそと喋る。


「俺、ある」

「え?」

「俺もその想像したことある」


淳蔵は心底呆れた。


「で、都に言ってみたら、」

「なに言うとるねん」

「言ってみたら! 『性別を超越するのはちょっと難しいかな』だって・・・」


性別を超越するのは、ちょっと、難しい。


「・・・つまりその気になれば?」

「できるのかも」

「アホかお前ら! 都の言うことなんでもかんでも信じてんじゃねえよ!」

「でも竜にだってなれるわけだし・・・」

「マジで馬鹿じゃねえの、マジで」

「この話の終着点、どこだ・・・?」

「お前が言い出したんだろうが!」


なんだか意外だった。淳蔵は『女の都』に拘っている様子だ。いや、それとも、産まれたままの、ありのままの都がいいのかもしれない。俺はちょっと反省した。
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