二十七話 電動歯ブラシ

文字数 2,242文字

みーちゃんが十三歳になった春。


「おかあさん!? おかあさん!!」


美雪が死んだ。脳の血管が破裂したらしい。美雪の亡骸を食うことはジャスミンが許さなかったので、絶縁した美雪の両親に連絡を取り、引き取ってもらった。流石に娘が死んだら悲しかったらしい。葬儀には俺達も出席した。都は出られない。そのことにみーちゃんはとてつもない反感を抱いたらしく、それまで、みやねえ、みやねえ、と慕っていた都を嫌うようになった。だというのに、母方の祖父母と養子縁組をしたあとも変わらず、みーちゃんは俺達の暮らしている館に住み続けることになった。ガキの感情の機微なんて俺にはわからないが、亡き母親と長く暮らした場所、一方的に慕っている淳蔵、嫌いになってしまったが好きだった都への複雑な感情から、ここで厄介になることを選んだのだろうと推測する。好都合だ。

息子である俺達三人の間に秘密はない。喋っていないこともあるが、それは喋りたくないものだけで、基本的には些細な情報でも共有している。俺達はみーちゃんが成長するたび、都を襲撃するであろう人物が、いつその気になるのか、という思考でいっぱいになって、穏やかな日々を送っているとは言い難かった。


「考え事?」

「都のこと」

「私なら大丈夫だよ」


都は俺の頬に唇を寄せた。何度聞いても、都を殺そうとする男のことは教えてくれない。


「美代、知ってる?」

「うん?」

「みーちゃんね、最近、夢を見始めたのよ」


都はくすくすと笑った。俺もにやけるのをおさえきれない。


「それは大変だ」

「年頃の女の子には刺激がキツ過ぎるんじゃないかしら」

「ハハハ、ただでさえ淳蔵に懸念してるのになあ」


俺は都に口付けた。


「都、言われてたヤツ、あったんだよ」

「おお!」


ポケットから電動歯ブラシを取り出して都に渡す。


「磨いてる気がしなかったからあんまり使ってなかったんだけどね」

「今は良き思い出の大学時代のモノですかぁ」


カチ、と電源を入れると、歯ブラシは静かに回転を始めた。


「美代は大学に行って垢抜けたね」

「そう?」

「あはは・・・。あの時は『外』の世界の魅力に気付いて出て行かれたらどうしようと思って、おじさん結構焦っちゃったなあ・・・」


歯ブラシを持ったまま照れ臭そうに笑うので、俺は苦笑した。


「こんな魅力的なおねえさんを捨ててどっか行くなんて、どうかしてる」


胸をつつきながら言うと、都は更に照れて小さくなった。可愛い。


「いつになったら俺を虐めてくれるの?」

「今すぐ!」


カチ、と一旦電源を切ってベッドに置き、俺は服を脱ぐ。珍しく都も服を脱ぎ、これまた珍しく白のえっちな下着になった。


「おお・・・」

「これも脱ぐ?」

「意地悪な質問だな」


俺は寝転がって、俺専用の枕で口元をおさえる。都が俺の男根にローションを塗ったくって軽くしごいた。


「うう、あ、お、俺、これだけでイけそう」

「んー、ちょっと早漏かぁ?」

「あはは。歯ブラシ、痛いかな?」

「痛いの好きでしょ」

「都にされるのはね。だから泣いて痛がってもやめないで・・・」


カチ。心臓が飛び跳ねる。


「あああああああああああああああああああッ!!」

「おや、すっごい」

「いぎっ!! いううっ!! んっ、んっ!! くぅぅ!!」


尻の穴が勝手に窄まる。


「ふぎっ!? いいいいいいっ!! んんんんんっ!!」

「あははっ、まるで噴水だね」

「ぎいいっ!! ううううううっ!!」


強烈な痛みと快楽から一旦解放され、仰け反っていた身体がベッドに落ちる。


「あー! あー! ばかになるっ! こればかになるっ!」

「お利口な美代にはちょっとキツかったか」

「だめだめやめないで・・・! いしきとぶまでやって・・・!」

「あららぁ」


カチ。

次に目覚めた時、股間に猛烈な痛みを覚えた。それほど時間は経っていないらしく、下着姿の都がベッドに腰掛けて俺を見つめていた。


「おっ、美代君、おはよう!」

「お、おあよう・・・」

「電動歯ブラシってイマイチだねー。美代の言う通り磨いた気がしなかったよ」

「・・・は?」


俺はゆっくりと起き上がり、そのままの姿勢で問うた。


「つ、使ったの?」

「うん」


俺が使ってた歯ブラシを、

いや、

俺の汚いところ擦った歯ブラシを?


「み、都の馬鹿ぁ!」

「ええ!?」

「ただでさえ痛いのに勃起止まんないじゃん!」

「な、なんで?」


天然でこういうことをするので、侮れない。いやらしいことをできる状態ではないので、俺は都にお説教をした。


「・・・好奇心は猫を殺します。今、一匹の猫が死にました」

「は、はい・・・」

「一応、他人が使っていた物なんだから、許可を得るように」

「はい・・・」

「・・・は、ははっ」


俺が笑うと、都も申し訳なさそうにしながらも笑う。


「ねえ、都」

「うん?」

「淳蔵に聞いてからずっと考えてたんだけど、俺達が『外』に探しに行くのは・・・」

「ほっといても向こうから来るよ」


初めて、都が返答してくれた。


「・・・なにしに?」

「レイプして殺すんじゃない?」

「あ!?」


思わず鋭い声が出た。都が一瞬身を竦ませる。


「ああっ、ご、ごめん」

「び、吃驚した・・・」

「ごめんね」

「ううん・・・」

「・・・俺が命にかえても守るから」

「そんなことさせない」

「駄目。俺の存在意義が無くなっちゃう」


都が俺に抱き着いてきたので、抱きしめ返した。温かい。俺達は罪深い。拷問して惨殺しなければいけない存在かもしれない。それでも、都だけは、できれば永遠に幸せに生き続けてほしい。みーちゃんなんて知るか、くそったれ。


「愛してるよ」


嘘偽りない気持ちを、そっと囁いた。
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