二百九十二話 鏡のようだね

文字数 2,497文字

「こ、これ、『俺』なの・・・?」


俺はベッドに腰掛けた都の足の間で跪いていた。


「フフ、そうだよ。可愛い顔してえげつないモノ持ってるよねえ・・・」


都は親指と中指で雁首を挟み、鈴口を人差し指で撫でる。凄くいやらしい光景だ。身体のどこにも触れられていないのに、ビリビリと快感が肌に広がる。


「さ、どうぞ」

「はい・・・」


俺は深呼吸をしてから、そっと、舌を伸ばした。

舐め、ちゃった。

こんな経験をした人間、世界に何人居るんだろう。


「フフ、美代になった気分・・・」

「お、おれ・・・変だよぉ・・・いつもより興奮して・・・くらくらする・・・」


ゆっくりと咥え、頭を前後に動かす。それと同時に、利き手で男根をしごいた。


「しゅおい・・・きもふぃい・・・」

「もっと気持ち良くしてほしい?」

「おえがいしあふ・・・」


都は右足を上げると、足を組むようにして俺の頭を抱え込んだ。


「うぼっ!?」

「イったら放してあげる」

「おぶっ、おっ・・・!」


俺は必死に利き手を動かした。苦しい。喉が。なのにどうして俺は吸い付いているんだろう。舌を動かしているんだろう。都に肉体的な快楽は与えられないのに。それでも都は笑っている。牙を見せて鋭く笑っている。


「おやまあ、すーぐイっちゃった」

「ゲホッ! ゲホッ・・・! ぐ、あ、がっ、はあッ、は、はああ・・・」

「さあ、美代。お尻の穴を手で広げて、私に見せて」

「はい・・・」


俺は立ち上がり、都に背を向ける。両手で尻の肉を掴んで手で広げ、都に尻を突き出す。


「気分はどう?」

「は、恥ずかしい・・・」

「それだけ?」

「・・・こ、興奮、する」

「全部喋って?」


俺は唇を噛み締め、喉をごくりと鳴らしてから、口を開いた。


「いっ、今から、虐めてもらえるのかと、思うと、ドキドキして、心臓、破裂しそう・・・」


ふう、と息を吹きかけられる。


「ああっ!! こ、こんな恥ずかしいことさせられてるのに、も、もっと恥ずかしいこと、してほしくて、あたまっ、おかしくなりそう・・・!!」


れろ、と舐められる。


「ひンッ!? あっ・・・、き、気持ち良い・・・! や、やめないでぇ・・・!」


つぷ、と舌が中に入ってくる。


「へ、変態っ! 都の変態っ! なんでそんなにえっちなのっ! お、俺、都のせいで、あっ、変態に、なっちゃったんだから、んんっ、せ、責任取ってよっ!」


都の吐息は焼けるように熱くて、粘膜がぢりぢりする。うねる舌が抜かれると身体から力も抜ける。それでも俺は手で尻の肉を掴んで穴を広げ続けた。


「責任かあ。どうすればいいのかな?」

「・・・お腹、破れるくらい、突いてよ」

「じゃ、そのまま座って」


俺は静かに息を吸い、深く吐くと、ゆっくりと腰を下ろした。ぴと、と先端があたる。今から俺は、自分で自分を犯す。


「あ・・・」


留まらぬ快感が怖い。


「きもちいっ・・・」


普通に生きていたら味わえない。


「ぜ、全部、入っちゃった・・・」


するりと都が俺の身体に腕を絡める。


「もう少し食べなくちゃね」

「十分食べてるよ・・・」

「あばらが薄っすら浮いてるじゃないの」

「無茶言わないでよ・・・」


本当に十分、十分過ぎるくらい食べているのだ。それでも肉も脂もつかないんだからどうしようもない。


「都・・・」

「なあに?」

「いつか、俺のこと喰い殺してくれるなら、もう少し、食べてもいいよ・・・」


言ってしまってから、気付いた。都は沈黙している。俺の身体を撫でていた手もぴたりと止まった。唇が、震える。


「み、都、俺、今のは、いッ!?」


左の肩甲骨の辺りに激痛が走った。血が出る程、都に噛み付かれている。ぎりぎりぎりぎりと、都の牙が喰い込み、肉を抉っていく。喰われる。喰われている。痛い。怖い。なのに、凄く幸せだ。


「あっ、うぅ・・・」

「不味い」

「ご、ごめんなさい・・・」

「あほくさ」


そう不機嫌に吐き捨て、都は俺の腕を掴んで無理に立ち上がった。中途半端に中腰になり、両腕を後ろに引っ張られる。都はそのまま、激しく腰を振り始めた。


「あっあうっ! やっ、やめ、はげしすぎっ、こ、こわれるッ!」

「誰に命令してんだか」

「ちっちがうっあっ! ほっほんとにこわれる!」


喋ったら舌を噛みそうな勢いで揺さぶられる。俺の体重を支えているのは俺の足ではなく、俺の腕を掴む都の腕力だけになっていた。肩が外れてしまう。身体の中でキシキシと音が鳴っているのがわかる。


「交換条件なんて、何様なの?」

「ごっごべんなざっ、おっ、おおっ、おッ!!」

「・・・ッチ、馬鹿が」

「ひっ、ゆ、ゆるじでぐだっあっあああっ!!」


こんな状況なのに、イってしまった。


「困ったね、なにをしても『ご褒美』になっちゃうんだから」


都は腰を引いてペニスバンドを抜くと、俺を乱暴にベッドに放り投げる。


「うぅ・・・」


ひっくり返されて仰向けになる。都は俺に覆い被さると、薄っすらと笑って、俺の頬を片手で掴んだ。


「なんにもわかってないね。この可愛い顔が泣いたり怒ったり、物を食べたり、笑ったりするのがいいんじゃない」


ゆっくりと、挿入される。


「んああっ・・・!」

「興を削ぐな」

「は、はい・・・。ごめんなさい・・・」


ゆっくりと、突かれる。


「ふあっ・・・き、きもちいい・・・」

「変態」

「こ、これ、すっごく、きもちいい・・・!」

「背徳感? それとも相性?」

「んあ、両方っ・・・! あ、あとで『兜合わせ』したいっ・・・!」

「あはっ、いいね、それ。最高だよ・・・」

「もっと、もっと恥ずかしい格好で、強く突いてっ・・・!」


都は俺の両足首を掴んで足を広げさせ、釘を板に打ち付けるように腰を振る。


「おッ! おおッ! おッ! おあぁああぁッ!!」

「忘れないでね、美代。貴方は私の『代理人』であって、『代用品』ではないということを」


優しい声。


「自分のことを大切にしてね。私がいくらでも壊してあげるから」

「・・・許して。都のために生きる俺を、許して」

「鏡みたいだね、私達。だから、美代が許してくれるなら・・・」


互いに惹かれ合い、互いに騙し合って俺達は生きている。

欠けて、足りなくて、歪んでいる。

だからこそわかる。どう満たしてほしいのか。

この夜、俺は初めて、一条都の『理解者』になれた気がした。
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