百五話 反撃準備

文字数 1,986文字

三日目のプレゼント。


「開けるぞ」


淳蔵が紙袋の中を開けた。そして思いっきり顔を顰めると、横に振った。


「なんだよ」

「美代、絶対キレるな。直治もだぞ」

「なんだっつの」

「・・・生理用品」

「あぁ!?」

「キーレーんーなーっつの!」


淳蔵が取り出したのは夜用の生理用品。未開封のものだが、パッケージはしわしわになっている。


「手紙だ、読むぞ」


『愛しの都様へ。

 女って大変だよね、
 生理すると働けなくなるから。
 俺の知り合いの女は、
 よくそれでお店を休んでたよ。
 アケミっていう女なんだけど、
 身体の関係はないから(笑)
 嫉妬しなくても大丈夫だからね!
 母さんは、生理してもバリバリ働いてた。
 都はどっちなの?
 働いてくれると嬉しいな。
 家事は家政婦にさせればいいんだし。
 俺? 俺は癒し系だから、
 君の疲れを癒してあ・げ・る! 
 生理つらいなら十ヵ月、とめてやんよ?

 未来の旦那様、浩より。』


「おごぉ・・・」

「美代の理性が・・・」

「で? 都も手紙とプレゼントの内容は知ってるんだろ? いつまで我慢するつもりなんだよ。俺達の方が先に潰れちまうぜ」

「内容にもよるが、証拠集めには最低でも一週間」

「ッチ、あと四日か・・・」

「中身入りのゴムとかこなきゃいいけど・・・」



四日目。


「開けるぞ」


淳蔵が紙袋の中を開けた。そして顔を引き攣らせる。


「美代、絶対キレんなよ、絶対キレんな」

「もうキレてるから大丈夫!」

「笑顔で言うなよ怖いな・・・」


記入済みの、婚姻届。


「ハハッ、面白い冗談だね!」

「ブチギレじゃねえか・・・」

「手紙読むぞー?」


『愛しの都様へ。

 お前はどうしたい? 返事はいらない。
 なんちゃって! 俺の好きな歌だよ。
 家事はしなくていいって言ったけど、
 都の手料理、食べたいなあ。
 ステーキを焼いてね。
 お肉にピッタリの赤ワインは、
 都の大きなおっぱいの谷間を
 ワイングラスにして、飲みたいな。
 そのままベッドイン、楽しみだね・・・。

 未来の旦那様、浩より』


「ハハッ、面白い冗談だね!」

「淳蔵、俺もキレそうだ。お前は?」

「美代がキレてるの見て冷静になってるけど、結構キてるよ」


五日目。


「開け・・・、なんかにおいがするんだけど」


六つに切り分けられたホールのアップルパイ。一つは齧りかけ。


「手紙読むぞ」


『愛しの都様へ。

 都はお菓子作りは好きかな?
 俺が好きなのは、
 母さんが作ったアップルパイ!
 食べさせてやるから、味を覚えろよ。
 母さんと同じ味のアップルパイを、
 俺のために一生懸命頑張って作ってね!
 一つは俺の、か・じ・り・か・け!
 つまり、間接キス・・・。
 俺の妄想でオナニーしちゃだめだよ(笑)

 未来の旦那様、浩より。』


「クソッ、食い物に罪は無いが、これは捨てるしかないな・・・」

「美代、今までのモノは保管して写真も撮ってるんだろ?」

「してる。都がストーカーに強い弁護士にも相談済みだ」



六日目。


「開けるぞ」


浩の写真が数枚。どれも自分で自分を撮影したもの、所謂『自撮り』だった。全てパンツ一枚の姿で撮影されている。舌を突き出して笑ったり、股間に手を当てていたり、とてもじゃないが正気とは思えない。


「手紙読むぞ」


『愛しの都様へ。

 なんで返事をくれないのかと
 思ってたんだけど、うっかりしてたね。
 連絡先を同封しておくよ。
 受け取ったらすぐに返事してね。
 俺、怒らせると結構怖いから。
 滅多に怒らないけどね(笑)
 社会人なんだから、
 返事はすぐってことくらいわかるよね?
 俺が仕事中だとか、
 そういうことは気にしなくていいよ。
 返事待ってます。

 未来の旦那様、浩より。』


「馬鹿だろこいつ・・・」

「馬鹿だからなにしでかすかわからないぞ。警戒を怠るなよ」

「おう」


七日目。


「開けるぞ」


小さなテディベア。


「手紙読むぞ」


『愛しの都様へ。

 どうして返事がこないのかな?
 怒ってないよ。
 返事できないほど仕事が忙しいとか?
 未来の旦那様相手に緊張して、
 なんて言葉を送ればいいのか
 わからないとか?
 そんなの簡単。
 たったの五文字。
 あ・い・し・て・る。
 俺も愛してるよ、都。
 早く一つになりたい・・・。

 未来の旦那様、浩より』


「淳蔵、美代、良いことを教えてやろう」

「なんだよ」

「ストーカー行為はプレゼントだけじゃない。一昨日、門扉の近くに監視カメラを仕掛けただろ? 不法侵入しようとして諦めた姿がばっちり映ってたよ。他にも、庭の外壁に性的なシンボルマークや、都と浩の相合傘、俺達に対する誹謗中傷の落書きの証拠も揃ってる。で、昨日、田崎夫妻に連絡したら、都のことを信用して、こっそり浩の部屋を調べてくれた。いくつか動かぬ証拠が出てきた。それと、パソコンを使ってインターネットで掲示板を作成して、都との有りもしない未来絵図を描いて遊んでいるらしいぞ」

「それ、ぜーんぶ証拠になるんだよな?」

「勿論」

「よし、反撃開始だ」
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