二百六十二話 どす黒い

文字数 2,704文字

「もう、都ったらすけべなんだから」

「ンフフフフ」


俺は都が用意した『衣装』を着て、都に披露していた。『みよ』と書かれたゼッケンを縫い付けてある体操着、赤いブルマ、白い靴下、シンプルな運動靴。


「ブルマなんて、今時の若い子、わかるのかなあ・・・」

「美代が学生の時には、もう廃れてたかな?」

「あったんだよなあ、これが。ほら、俺、麓の町の出身だから」

「あー、古い町だものね、色々と」

「そうそう・・・。今更だけど、俺の母親、変な女だなあ。夕方になったら『商売』をしに外に出て、昼過ぎに帰ってきて夕方まで寝て、夕方になったら祖母の作った食事を摂って、また『商売』に行く・・・。なんでなんにもない町で娼婦なんかやってたんだろ・・・?」


俺を撮影していた都がカメラを降ろし、少し困ったように笑う。


「ま、俺には都が居たけどね」


ポーズをとったまま俺がにこりと笑うと、都もにこりと笑って、カメラを置いた。


「ね、俺にいかがわしいことしてよ、おじさん」


都は今度はにやりと笑って、俺に近付く。抱き合ってキスをすると、気持ち良過ぎて、幸せ過ぎて、泣きだしそうになってしまう。


「美代、立ってなさいね」

「はい・・・」


ブルマの中に、都の手が這うように入り込んでくる。


「あっ! ううう・・・」


都の手はふかふかと柔らかくて、肌もつるつるだ。むにむにと揉まれて、立っているのがもうつらい。


「気持ち良い?」

「きもち、いい、ですぅ・・・」

「どんなふうに気持ち良いの?」


なんて意地悪なんだろう。


「んんっ、都の、手、あっ、柔らかくて、綺麗で、お、俺の汚いところを触ってるんだと思うと、も、もう、それだけで、うあっ・・・」


するりと手を抜くと、今度はブルマの上から形をなぞるように撫でられる。


「あっ! ああっ・・・。よ、汚しちゃうよぉ・・・」

「雄の本能かしら? 女装させられているのに、撫でられると腰をカクカク振って、手に擦り付けてくるんだから」

「は、恥ずかしい・・・んうぅあっ・・・」


擦れる音が、酷くいやらしい。


「さ、ベッドに凭れ掛かって、可愛いお尻を見せてよ」

「は、はいぃ・・・」


都が手を放す。俺の浅ましい本能が、都の手を追いかけるようにカクッカクッと二度、腰を揺らした。ベッドに凭れ掛かり、尻を突き出すと、都が円を描くように撫で始める。


「んん、んっ・・・」


都がブルマを下ろす。下着はつけていないので、勃起した男根が少し引っ掛かった反動でぶるんと飛び出した。恥ずかしさと解放感が身体に満ちる。


「ねえ、美代」

「な、なに・・・?」


後に居る都を見ると、都は俺に見せつけるように人差し指と親指で輪を作り、ぴん、と人差し指を弾いた。都は音も無く笑う。


「ひンッ!?」


尻の穴を指で弾かれる。


「あうっ!? や、やめ、ひうッ!? みっ、みやこっ、いぅっ!!」

「こぉんなに屈辱的なことされてるのに、感じちゃうの?」

「ご、ごめんなさい・・・」

「萎えるどころか涎を垂らして期待しちゃってさあ」


ぷにぷに、と会陰を人差し指で押されたあと、指で弾かれる。


「おひィッ!?」


間抜けな声が出てしまう。脳天まで突き上げられるような衝撃。痛みもあるはずなのに、どうしてだか、物凄く気持ち良い。


「ここにも欲しい?」


左の、睾丸。


「・・・ほ、欲しい、です」


痛いと、わかっているのに、わかっているのに。


「っぐゥ!!」


都が与えてくれる痛みだと思うと、嬉しくて堪らない。


「うーっ・・・! ううぅ・・・!」


ぷにぷに。右の睾丸を、都が人差し指でつつく。


「・・・み、右にも、ください」


ぴん。


「んぐぅっ!! ふーっ・・・! ふーっ・・・!」


痛みは、俺が都に隷属している証。


「痛いだけじゃ、嫌よね?」


快楽も、俺が都に隷属している証。


「あっ・・・!」


ローションをたっぷりと絡めた指が、俺の身体の中に入り込んでくる。都の人差し指と中指が交互に動く。


「おうっ・・・! あっ、んおっ、うぅう・・・!」

「フフッ、美代の中、熱くて気持ち良い・・・」

「あぅ・・・。んんっ、ふうっ・・・」

「入り口はぎゅうぎゅうに締め付けてくるのに、奥はとろとろで吸い付いてくるよ」

「んーっ・・・!」

「はいはい。挿れてあげますよ」


都が尻の穴から指を抜き、俺用の枕を目の前に置く。俺は枕にしがみつき、ボフンと顔をうずめた。今日は俺がリクエストした、ゴリッゴリッのイボ付きのモノだ。早く滅茶苦茶のズタズタにしてほしい。


「おっ・・・、お、おふっ」


精巧に作られたペニスバンドの鈴口とキスをするように、にゅぐにゅぐと浅く、尻の穴を押される。


「いくよ」


ごりゅごりゅごりゅごりゅ。


「おッ!? ぎぃぃっ・・・!! んおっ、おおおっ!!」


喘いでいるのではなく、鳴いている。


「おおっ!! っほ!! おおおっ!! んおおっ!! ああぁああぁっ!!」


なんてみっともないんだ。


「勝気で聡明な美人秘書の裏の顔は、淫乱なマゾだなんてね」

「ぐぃぃ、うう・・・!」


そんな、そんな言い方されたら、悔しくて堪らないはずなのに。


「なぁに興奮してんのよ」

「ごっ、ごめんなざっ、おおっ!! おおぉおぉっ!!」


女装して、張形をおねだりして、尻の穴に突っ込まれて、快楽に身を震わせて、あられもない声を上げている。俺の腰を掴む都の手から滲む汗が、愛おしい。


「ああぁあぁ!! もっどぉ!! もっどぉ!! みよはいんらんなまぞなのぉっ!! ひどいことしてえっ!! めちゃくちゃのっ、ぐちゃぐちゃにっ!!」

「フフ、溶ける程、甘やかしてあげる」


どうしてだろう。都は、俺の身体に傷跡を残さないようにする。キスマークや甘噛みの歯型といった、甘ったる過ぎるモノは残すのに。鞭で叩いてもらったのだって、もう何年前になるだろうか。俺は、殴ったり蹴ったり、叩いたり踏み付けたりしてほしい時がある。けれど、どんなに頼み込んでも都は決して聞き入れず、弱火で焦がすようなじれったさで甘やかされて、馬鹿な俺は射精して頭を空っぽにして、満足して部屋に帰って寝てしまうのだ。

でも、そのたびに、蓄積されていく。

苦痛も恐怖も汚辱すらも、都に支配されたいという欲求。

初めは俺が『アダルトチルドレン』を克服できていなかったからだった。子供の頃の家庭の経験を引き摺って、大人になっても『女の子のように可愛い美代』として生きなければいけない、という強迫観念に苛まれていた。だから誰かに『可愛い』と言われると満たされて、それは時に優越感にもなった。努力が認められて、自信が付いて、自己を肯定できていたのだ。

今は、違う。

都に全てを捧げたい。

都のためだけに生きたい。

都の全てが欲しい。

都のためだけに死にたい。

どす黒い希望。

いつか、都に、俺を喰い殺してほしい。
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