二百三十一話 拘束具3

文字数 2,568文字

「随分とまた大掛かりですねぇ・・・」


都の寝室。大きなベッドが片付けられて、部屋の中央に特注のものであろう拘束具が設置されていた。


「ちょっと大人しくしててほしいの。男は『けだもの』だからね」

「・・・仰る通りで」


俺は服を脱ぎ、太腿だけを支える形の椅子に座る。足が開く構造になっていて、恥ずかしい。触られてもいないのにゆるゆると勃起してしまう。都が俺の脛をベルトを使って固定すると、専用の台に設置された、首枷と手枷が一体になった一枚の板を指差した。

処刑器具の『ギロチン』のような拘束具だ。肌を痛めないためなのか、穴の内側には柔らかそうな布が敷き詰められている。都が板を開いた。俺が上体を倒して両手首と首を下の半円に置くと、都は俺の項に指を二本入れて髪を左右にわけ、首枷に挟まらないようにするためか、前に垂らした。上の半円が取り付けられる。俺は無様にも尻を突き出すような形で固定された。


「苦しくない?」

「屈辱的・・・」

「そりゃあ良かった」


都は腕を組み、俺の顔を覗き込む。


「淳蔵、左手をぎゅっと握りしめて」


俺は自分の左手を見て、ぎゅっと握る。


「絶対に手を開いちゃ駄目よ」


都と視線を合わせると、都の黒い瞳がアメジスト色に煌めいた。ガクン、と身体が揺れたが、錯覚だったのか、拘束具は軋む音を立てなかった。バッと俺の左手が勢いよく開かれる。


「なっ、都、なにを、」

「どうして手を開いているの?」

「俺の意志じゃない! 手が勝手に開いてんだよ!」


必死に握ろうとするが、握れない。動かしている左腕に連動して、首と右手首が布と擦れ合う。


「握って」


手が勝手に、握り拳を作る。


「開いて」


バッと開く。


「握って」


ぎゅっと握る。


「どういう意味か、わかる?」

「・・・操ってる、って感じじゃない。支配してる、のか?」

「怖いでしょう、私が」


都はなんの表情も浮かべていない。


「・・・なにを企んでる?」

「質問に答えなさい」

「怖くねーよ」

「・・・どうして? 怖くないの?」


俺はにやりと笑ってやった。


「マセガキ」


都が目を細める。俺は続ける。


「十五歳の思春期のガキを怖がるヤツがどこに居るんだよ。俺がそんなヘタレに見えんのか?」


目を細めたまま、都は片手で口元を覆った。俺は更に続ける。


「俺が怖いと思ってるモノ、教えてやるよ」


都の目を真っ直ぐに見つめて、言ってやった。


「『饅頭』と『一条都』が怖い」


都はくすっと笑った。口元から手を外して俺の髪を掬い上げ、肺に充満させるようににおいを嗅ぐ。ゾク、と背骨が甘く痺れる。


「綺麗な髪・・・」


都はうっとりと微笑む。


「これが私のものだと思うと・・・」


そう言ったあと、俺の身体の横に移動する。拘束されているので都の姿が見えなくなる。するり、と男根に指が絡みつく感触。都は折角の白魚の指で、俺の汚い男根をしごき始めた。


「はあっ・・・、ふっ・・・。んんっ、き、気持ち良い・・・」

「淳蔵、射精しちゃ駄目よ」

「ああっ、う、す、寸止めして遊ぶのか・・・?」

「ちょっと勃起した状態を維持してほしいだけ。頑張ってね?」


天使のような声で悪魔のようなことを言う。


「う、ううっ、う・・・」


快楽が身体に充満する。


「み、みやこぉ・・・。わ、わかんないんだろう、けど、い、痛いんだぞ・・・」

「あとで沢山ご褒美をあげるから」

「くぅ、あっ、あっ、あぅ、あ、い、いいぃいっ・・・!」


ガチガチと歯が鳴った。するん、と都の指が快楽責めから解放する。都は棚から、透明な液体が入った大きな瓶を取り出した。瓶の蓋を開け、液体を手で掬い上げる。ゼリーのようにぷるぷると震えていた。都はそれを俺に見せたあと、敏感になっている俺の男根に塗り始めた。


「な、なに企んでんだよぉ・・・」

「型を取るの」

「か、型・・・? ちょっ、なんで型なんか取ってんだよっ!」

「そりゃあ『コレクション』にするからですよ。バイブレーション機能もつけられるし、淳蔵が望むなら自分に犯される感覚を教えてあげてもいいよ」

「じょ、冗談じゃ、」

「萎えさせないで」


さわさわと尻の穴を撫でられる。


「ふあっ!? あっ!!」

「にーげーなーいーのー」

「くぅっ、んんんっ!!」


撫でるだけで、挿入はしない。


「週に一回は大きいのでズボズボされてるもんねえ、ぷっくり膨らんでるよ」

「や、やめ・・・」


恥ずかし過ぎる。敬愛している都が卑猥な言葉を言っている事実に、どうしようもなく興奮する。


「前立腺を指でコリコリされたいの? 指を三本挿れて中でバラバラに動かしてほしいの?」

「そんな、ことぉ・・・」

「後ろから腰を掴まれて、自分が男だってことを忘れるくらい滅茶苦茶に犯してほしい?」

「あ、あっ! あああああっ!」

「そろそろ固まったかな」


液体は硬化して、ゴムのようになっていた。ぎゅ、ぎゅ、とゴム越しに握られて、射精できない身体が敏感に反応する。最早拷問だ。都がゆっくりと、ゴムを抜き始めた。痛みを覚悟したが、意外にもすぽっと抜けて、解放感から息を深く吐いた。


「よしよし、良い感じ。さ、我慢した分、今日はいっぱい射精していいからね」

「はあっ・・・は・・・、こ、これは外してくれるんですよね?」

「いいえ?」


都は型を取ったゴムを引き出しに入れ、ローションとペニスバンドを取り出し、俺の後ろに立つ。


「ま、まさか、本当に、このまま、」

「気合い入れなさいね」


ぱちん、と都が指を鳴らすと、脛を固定していたベルトが外れた。都は俺の腰を持ち上げ、中途半端な状態で立たせる。ぶちゅぶちゅぶちゅ、と体内に異物が入ってきた。


「あぁああああああぁっ!!」


異物は快感でもあった。意識が飛びそうになる。


「さあ、淳蔵。今夜は男のプライドなんか忘れて、だらしない雌になっちゃいなさいね」


腰を突きながら、都が誘惑する。俺はそれに、抗えない。


「あぁあ! もっとぉ! もっと、はげしくっ! みやこさまのっ、雌穴にしてぇっ!」


頭の片隅に居る冷静な自分が『自分はなにを言っているんだ』と客観視することで羞恥を呼び起こす。本来ならその羞恥から逃れようとするのが正しい生きものなのだろうけれど、俺は調教されている愛玩動物だ。羞恥ですらご主人様から賜る至上の愛で、ご褒美だった。

一度目の射精。凄い量が出て、床を汚す。


「はっ・・・あぁあ・・・」


都が再び腰を振り始める。俺は余すことなく快楽を受け入れ、善がり続けた。
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