十九話 ミニスカポリス

文字数 1,907文字

こんこん。ノックは快楽の音。本当に? 本当に?


『どうぞ』


俺はドアを開けた。


「都、なん・・・、」


部屋の中央に、ミニスカートの婦警の服が飾られていた。


「あー・・・」

「特注だよ!」

「うん、そうだな・・・」


俺は追求せずに服を脱ぎ、着替えた。


「うーん、最高だ。筋肉があるからこういうの似合う・・・」


都はカメラで写真を撮っている。


「美代の話なんだが」

「うん」

「客の受け入れは休止する方向で決まった」

「そっかー」

「メイドは増やす。だから一人喰っちまおう」

「いいね」

「最近、不穏な動きをしていたのは美代のためだったのか?」

「そうみたい。私が悩んでる美代を見てられなかったせいだね」

「都のせいじゃない」

「直治は優しいね」

「俺達は都に幸せになってほしいだけだ。そのために存在するからな」

「・・・私も皆に幸せになってほしい」

「そう考えたら行動してくれるじゃないか」


俺は突然、馬鹿馬鹿しくなって、


「こんな格好でする話じゃねえな」


と言って笑った。都も笑った。


「さて、そろそろ婦警さんにえっちな悪戯しちゃおうかなぁー!」

「おっさんくさいぞ・・・」


都は腰掛けている俺の前に立ち、思いっきり胸を鷲掴みにする。


「ん・・・」

「ほんとに引き締まったねぇ。言っちゃ悪いけど出会ったときは脂ぎってたのに」

「もう鍛えてないと落ち着かない身体になっちまった」

「健康的でいいね」


制服のボタンを外して手を滑りこませ、乳首を抓られる。


「っ、そこ・・・」

「今度ピアス開けてみる?」

「やだよっ・・・」

「あは、冗談」


抓ったり捻ったり捏ねたり。


「金庫の鍵じゃねえんだからっ・・・」

「えー? 直治さん、変態だから乳首だけでもイケるじゃないですかぁ」

「ほ、ほんとに、やばっ・・・」


寸前で、都は指を離してしまう。俺は荒い呼吸を繰り返した。


「射精できない苦しみを味わうの好きでしょ?」

「勘弁してくれ・・・」


俺は泣きそうだった。


「泣きそうなのは私よォッ!!」


女には味わえない快楽の虜にしておいて、それを寸止めして、男共にかまけて私を愛してくれなくて。


「小鳥なんて馬鹿馬鹿しい!!」


私の処女を奪っておいて!


「絵葉さん? 叫び声が聞こえたけどどうし、きゃっ!?」


部屋を出ると、どうせ食われてしまう邪魔な美雪が居たので私は跳ね飛ばした。階段を駆け上がり、都様の、都の部屋のドアを開けようとする。ガチャガチャガチャ。鍵がかかっている。バンバンバン。思いっきり叩いた。中から僅かに直治の喘ぎ声と、都の笑い声が聞こえる。


「都様ッ!! 都ッ!! 中に居るんでしょッ!? 出てきなさいッ!!」

「絵葉、やめろ」


振り返ると、淳蔵と美代、そして美雪とジャスミンが居た。淳蔵はいつも通りの人を見下した瞳で私を見て、美代は腕を組んで無表情である。美雪は淳蔵の後ろで怯えていて、ジャスミンもその足元で怯えた様子だった。


「絵葉、やめろ」


再び美代が言った。私は無視してドアを開けようとする。


「お前は都のことをなにもわかっていない」

「だから話をするんじゃないッ!! 出てきなさいよッ!!」


美代が軽く舌打ちをして溜息を吐いた。


「お前、都の愛人にでもなったつもりか?」


美代が呆れたように言う。私は美代を睨んだ。


「俺達は『愛玩動物』だ」

「あ、あいがんどうぶつ?」


美雪が繰り返す。


「愛玩動物である条件は三つ。一つ、自由奔放に生きて飼い主を楽しませること。二つ、飼い主の愛情を受容すること。三つ、命に代えて飼い主を守ること。お前はなにひとつ条件を満たしていない」

「私は動物じゃないッ!! 人間よッ!!」

「人間ならやめただろ?」

「う・・・!」


そうだ。私は先輩の百子さんを殺そうとした。
そして、後輩の恵美ちゃんを殺して食べた。


「ここで働くのもやめて人間社会に戻るか? それもいいかもな」


美代は勝ち誇ったように笑った。


「ここでの思い出を胸に、一生を生きていくのもいいかもな」

「そんな・・・」


焦げるほど甘美な夢を見て、もう二度と味わえないなんて。できない。恐ろしい罪を犯して、罰を受けることなく、一人で抱えて生きていくなんて。できない。


「たった二年働いてるだけのお前が俺達に敵うとでも思ってんのか? 立場を弁えろよ」


淳蔵が言う。その通りすぎてなにも言い返せない。


「前にも言ったはずだ。都の寵愛が欲しいのなら都のことだけ考えていろ。お前の意思を尊重してくれるのは都だけなんだからな」


淳蔵と美代は去っていった。私はドアの前で泣き崩れる。


「絵葉さん・・・」

「構わないで・・・放っておいて・・・」

「・・・ジャスミン、行くよ」


美雪とジャスミンも去っていった。私は暫くそこで泣いていたが、どうにも情けなくなって、とぼとぼと自分の部屋に歩いて戻った。
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