百六十四話 息抜き

文字数 2,828文字

こんこん。


『どうぞ』


俺は都の部屋に入った。鍵はかけない。


「あら、淳蔵。どうしたの?」

「仕事をしている都に『悪戯』しに来た」

「まあ、悪い子」


都は椅子を引いて立ち上がり、ペニスバンドを着ける。俺はその間に机の下に四つん這いになって潜り込んだ。無駄に身体がデカいので、狭い。窮屈だ。都が戻ってきて椅子に座り、スカートをたくし上げてペニスバンドを見せる。俺は自分の顔に擦り付けた。


「自分のモノより大きいのを咥える気分って、どう?」

「すっげー惨め・・・。最高・・・」

「じゃ、咥えて」

「はい・・・」


れろれろと舐め上げ、ぢゅるる、と音を立ててしゃぶりつく。


「うーん、美人の顔が崩れるのは、いつ見ても良い・・・」

「んふっ」

「上手におしゃぶりできるようになったね。偉いよ」

「んぅ」


俺は咥えたまま、都に微笑みかける。都は俺の頭をぽんぽんと撫でると、スカートを降ろした。薄暗くて息苦しい空間で、都のすべすべの太腿に手を這わせながら、ぢゅぽぢゅぽと音を立ててしゃぶる。都がパソコンのキーボードを叩く音と、マウスを鳴らす音が聞こえる。このあと、このデカいので尻の穴を穿り返されて獣みたいな声を上げるのを想像すると、目がちかちかした。

こんこん。

誰か来た。ゾク、とスリルが肌を撫でる。都はスカートをたくしあげて、俺の顔を外気に晒す。


「どうぞ」

『失礼しまァす!』

『失礼します』


千代と中畑が入ってきた。俺は咥えたまま、上がった息を整える。


「あら、どうしたの?」

「中畑さんが外で食事をして、買い物をしたいとのことで、都さんに許可をとりに来ました! 私も一緒に出掛けてもよろしいですかァ?」

「いいわよ。息子の誰かに車の運転を頼んでちょうだい」

「あのっ、美代さんと直治さんはちょっと・・・」


中畑が言いづらそうに言葉を切る。俺は都の太腿をそっと叩いた。都が視線を下げて俺を見る。俺はゆっくりとペニスバンドから口を放した。


「なら淳蔵に頼みなさい」

「わかりまし、」

「いいですよ」


俺は机の下から、千代と中畑に向かって声を発する。都が少し驚いた顔をしたあと、薄く笑い、黙って椅子を引いた。俺は机の下から這い出て立ち上がり、口元の涎を袖で拭う。


「ありゃ・・・」

「えっ、えっ?」


千代は頬をぽりぽりと掻きながら視線を横に反らした。中畑は固まっている。


「準備してくるので、玄関で待っていてください」

「わかりましたァ」


勃起したまま都の部屋を出て、自室に戻る。トイレで軽くヌいてから服を着替え、携帯と財布と車の鍵を持って玄関で二人と合流し、駐車場に向かった。


「中畑さん、後部座席へどうぞ」

「・・・はい」


助手席に千代、後部座席に中畑を乗せ、車を出す。


「で、どこで食事したいんですか?」

「あの、ジャンクフードを・・・。館じゃデリバリーできないから・・・」

「ハンバーガーでいいですか?」

「はい。あ、あの、さっき、なにしてたンですか?」

「愛情表現」

「は・・・?」

「中畑さァん、日常茶飯事ですから、あんま気にしない方がいいですよォ?」

「・・・あっそ」


ルームミラーで中畑を見ると、真っ赤になりながら顔を歪めていた。車を暫く走らせ、麓の町のハンバーガーショップに着く。


「てりやきチキンバーガーと、ポテトLサイズと、バニラシェイクで」

「ベーコンレタスバーガーセット、飲み物は野菜ジュースでお願いします」

「アイスティーで」


店員が復唱し、支払金額を提示する。俺が携帯を操作して電子マネーで支払った。


「淳蔵さん、いいんですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます!」

「あ、ありがとうございます・・・」


商品を受け取る。中畑が窓際の席に座りたがったので、そこに移動した。


「淳蔵さん、椅子が小さいみたいですねェ」

「デカいってのも考えものだなァ」


千代と中畑が食事を始める。


「ンー! 染みるぅ! たまにはこういうのも食べないと、力が出ませンよねえ、千代さん!」

「そうですねェ!」


そういえば、久しく『肉』を喰っていない。中畑が出ていったら仕入れるように都に頼んでみようか。


「中畑さん。買い物はどこに行きたいんですか?」


食べて機嫌が直ったのか、中畑はにこにこ顔で答えた。


「スナック菓子とジュースを買いにスーパーに行きたいンです。館にはなンにもないから・・・」

「わかりました」

「あの、淳蔵さんは食べないンですか?」

「食事制限しているので」

「・・・あー、そうですか」


中畑はバニラシェイクにポテトをつけながら食べている。見ているだけで胸やけがしそうだ。都なら喜んでやりそうだが、健康にも美容にも悪そうなので黙っておこう。


「そういえば、直治さんが食事当番の時は、肉料理ばっかりですよね? 美代さんが当番の時の方が料理のレパートリーが豊富なのに、なンで私の教育係は美代さんじゃなくて直治さんなンですか?」


アホかこいつ。美代に散々ちょっかい出しといて、都が接点を作ってくれると本気で思っているのか。


「あー、美代さんはやめておいたほうがいいかと。かァなァりィ、厳しいので・・・」

「エッ」

「美代さんは温和で優しい人ですけれど、頑張った『結果』が出た時にしかご褒美をくれない『スパルタ』タイプですよ? 直治さんは不愛想で寡黙なので、冷たく厳しく感じるかもしれませんが、頑張ったこと自体を評価してくれて、『結果』が最悪でもご褒美をくれる『褒めて伸ばす』タイプです。ね、淳蔵さん?」

「・・・そうだなァ、千代の言う通りだ」


中畑が、何故か縋るような目で俺を見る。


「淳蔵さんは?」

「俺は料理できないんでね」

「そうですか・・・」


はあ、と溜息を吐いたあと、中畑は千代と談笑しながら食事を終える。スーパーでは別行動をとった。俺は都が好きそうな新商品と、定番のスナックを数種類、美代と直治にも土産を買う。車で待っていると、千代は大きな袋を一つ、中畑は大きな袋を三つ、手に持って帰ってきた。館に向けて車を走らせる。


「淳蔵さん、今日はありがとうございましたァ」

「ありがとうございました」

「どういたしまして。都の許可があれば、また付き合うよ」

「はァい!」

「はい」


館に戻る。都の部屋に行ってスナック菓子を渡すと、瞳を輝かせて喜んだ。


「いつもありがとうね」

「つ、づ、き。今夜な」

「ンフフフフ、わかりましたぁ」


安上がりな女だ。いや、俺もある意味安上がりかもしれないけど。

談話室で雑誌を読んでいると、美代がやってくる。


「おう。土産あるぜ」


美代は都と一夜を過ごすとすぐ喉を壊すので、色んなのど飴を試している。


「『薔薇みるくのど飴』かあ。美味そうだ。ありがとう」


直治もやってくる。


「お、来た来た。土産あるぜ」


酸っぱいパウダーに包まれたグミ。苛々した時に食べるとすっきりするらしい。


「おお、ありがとう」

「なあ、中畑が出ってたら、新しいメイドを雇うように頼んでみようぜ」

「俺も同じこと思ってた」

「俺もだ。このところちょっとタイミングが悪かったからな」

「・・・あと二ヵ月以上先、かあ」


『はあー』と、深い溜息が揃った。
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