三百十話 和室
文字数 1,783文字
二ヵ月の工事の末、都待望の和室が出来上がった。今日はそのお披露目会だ。
『おおー・・・!』
感嘆の声が重なる。
床のフローリングはそのまま、小上がりの畳が置かれている。なんだか良い香りだ。飴色の座卓に座布団が六つ。間仕切りのカーテンと壁紙は同じデザインで落ち着いた色合い。照明もモダンな雰囲気で素晴らしい。クローゼットは押し入れになっていた。
「おお! 掘り炬燵!」
「蓋もあるの。布団を敷いてお昼寝できるわよ」
千代が瞳をキラキラ輝かせながら言うと、都も嬉しそうに答えた。
「美代、ちょっとこっちに」
「はい」
都が靴を脱ぎ、畳に上がる。俺も倣った。
「間仕切りのカーテンは遮光性の高いものを選んだから、カーテンを閉めると良い具合に狭いのよ」
「キッチリした狭い空間って最高ですものねェ!!」
都が右のカーテンを閉めるので、俺は左のカーテンを閉めた。計算された造りだ。中央でカッチリと閉まって、外は見えない。
「どう? 美代」
「あは、いいね。凄く落ち着くよ」
「でしょう? ね、こっちからは向こうが見えないし、向こうからもこっちは見えないはずよ。どう?」
都が向こう側を見る。
「すげー。なんも見えないし、カーテンが洒落てるから圧迫感もない」
淳蔵が答えた。都がカーテンを開ける。
「細かい家具は後々揃えようと思ってね。冷蔵庫は買い替えようかな。あとね、皆とお鍋とかできたらいいなーって・・・」
都がちょっともじもじしながら言う。鍋は一条家には無い文化だ。
「辛いのは駄目だぞ?」
淳蔵が腰に両手をあてて、子供を諭す父親のように笑う。
「次の『肉』ですき焼きしてみるか?」
直治がそう言うと、都は嬉しそうに頷いた。
「ねえ、ちょっと皆で座ってみない?」
「座る座る」
「靴は脱ぐんだよな?」
「待ってましたァ!」
「掘り炬燵は初めてです」
皆で座布団に座り、足を下ろした。一番奥に都、その隣に俺と千代。都の向かいには淳蔵、直治、桜子が座る。
「淳蔵、どう?」
「良い感じ」
淳蔵がにこりと笑った。背に比例して足も長いので都は気遣っていたようだ。
「ポットとお茶とお茶菓子も置こうかしら。皆、ここは好きに使っていいからね。時間は朝八時から夜十時までね」
ぴく、と淳蔵が固まり、急に都から視線を逸らした。ちょっと顔を赤くしている。一瞬、どうしたのだろうと本気で心配したが、座卓の下でなにが起きたのか容易に想像がついて、呆れた。都にも淳蔵にもだ。直治は不機嫌になって横目で淳蔵を睨み、桜子はどこを見ればよいのか困ったらしく視線をぐるりと回し、千代は頬をぽりぽりと掻いていた。
二日後、午後十一時。
俺は都に和室に来るように言われていた。ノックはしないように、とも。そっとドアを開けて和室に入ると、長襦袢姿の都が掘り炬燵の中に足を下ろしていた。都の前と、対面に、湯飲みが置かれている。俺はドアを閉めた。ドアのすぐ横に、簡易に置かれたのであろうポットとお茶の葉、煎餅があった。俺は都の対面に座る。
「都」
「なあに?」
「淳蔵になにしたのさ」
都は妖艶に笑う。ぴく、と俺の身体が勝手に固まった。足が、都の足が、俺の足をするすると撫でている。
「なにをしたんだろうね?」
「・・・節操なし。他の社員が居る前でボディータッチするなんて、セクシャルハラスメントですよ」
「素直になったらどう?」
「早く、えっちなことしてほしい」
「じゃあ、」
都は右手を持ち上げると、ぱちん、と鳴らした。次の瞬間、俺は寝転がって天井を見上げていた。
「あっ・・・!?」
座卓を移動させて、掘り炬燵に蓋をして、布団を敷いて。その過程をブッ飛ばした、雰囲気を重視する都の計らい。
「今日はこのまま。でも、次は美代にも良いもの着せてあげる」
「和服?」
「そう。着付け方も教えてあげる」
「あは、脱ぐのにわざわざ・・・」
「乱れさせるのが良いんじゃない」
「・・・胸、苦しそうだね」
俺に覆い被さる都の胸元を、無理やりこじ開ける。大きな胸が零れそうになった。都は少し目を見開いて驚いたあと、にんまりと狐のように笑った。
「わかってるねえ・・・」
「でしょ? さ、俺でたっぷり遊んでよ・・・」
都が俺の耳朶を唇で挟む。くすぐったくて気持ち良い。
そういえば。
直治は都の着物姿に物凄く弱い。拾ってもらった時の赤い着物姿を忘れられないからだそうだ。順当にいけば次は直治の番。直治が鼻血で畳を汚さないよう、ちょっとだけ心配した。
『おおー・・・!』
感嘆の声が重なる。
床のフローリングはそのまま、小上がりの畳が置かれている。なんだか良い香りだ。飴色の座卓に座布団が六つ。間仕切りのカーテンと壁紙は同じデザインで落ち着いた色合い。照明もモダンな雰囲気で素晴らしい。クローゼットは押し入れになっていた。
「おお! 掘り炬燵!」
「蓋もあるの。布団を敷いてお昼寝できるわよ」
千代が瞳をキラキラ輝かせながら言うと、都も嬉しそうに答えた。
「美代、ちょっとこっちに」
「はい」
都が靴を脱ぎ、畳に上がる。俺も倣った。
「間仕切りのカーテンは遮光性の高いものを選んだから、カーテンを閉めると良い具合に狭いのよ」
「キッチリした狭い空間って最高ですものねェ!!」
都が右のカーテンを閉めるので、俺は左のカーテンを閉めた。計算された造りだ。中央でカッチリと閉まって、外は見えない。
「どう? 美代」
「あは、いいね。凄く落ち着くよ」
「でしょう? ね、こっちからは向こうが見えないし、向こうからもこっちは見えないはずよ。どう?」
都が向こう側を見る。
「すげー。なんも見えないし、カーテンが洒落てるから圧迫感もない」
淳蔵が答えた。都がカーテンを開ける。
「細かい家具は後々揃えようと思ってね。冷蔵庫は買い替えようかな。あとね、皆とお鍋とかできたらいいなーって・・・」
都がちょっともじもじしながら言う。鍋は一条家には無い文化だ。
「辛いのは駄目だぞ?」
淳蔵が腰に両手をあてて、子供を諭す父親のように笑う。
「次の『肉』ですき焼きしてみるか?」
直治がそう言うと、都は嬉しそうに頷いた。
「ねえ、ちょっと皆で座ってみない?」
「座る座る」
「靴は脱ぐんだよな?」
「待ってましたァ!」
「掘り炬燵は初めてです」
皆で座布団に座り、足を下ろした。一番奥に都、その隣に俺と千代。都の向かいには淳蔵、直治、桜子が座る。
「淳蔵、どう?」
「良い感じ」
淳蔵がにこりと笑った。背に比例して足も長いので都は気遣っていたようだ。
「ポットとお茶とお茶菓子も置こうかしら。皆、ここは好きに使っていいからね。時間は朝八時から夜十時までね」
ぴく、と淳蔵が固まり、急に都から視線を逸らした。ちょっと顔を赤くしている。一瞬、どうしたのだろうと本気で心配したが、座卓の下でなにが起きたのか容易に想像がついて、呆れた。都にも淳蔵にもだ。直治は不機嫌になって横目で淳蔵を睨み、桜子はどこを見ればよいのか困ったらしく視線をぐるりと回し、千代は頬をぽりぽりと掻いていた。
二日後、午後十一時。
俺は都に和室に来るように言われていた。ノックはしないように、とも。そっとドアを開けて和室に入ると、長襦袢姿の都が掘り炬燵の中に足を下ろしていた。都の前と、対面に、湯飲みが置かれている。俺はドアを閉めた。ドアのすぐ横に、簡易に置かれたのであろうポットとお茶の葉、煎餅があった。俺は都の対面に座る。
「都」
「なあに?」
「淳蔵になにしたのさ」
都は妖艶に笑う。ぴく、と俺の身体が勝手に固まった。足が、都の足が、俺の足をするすると撫でている。
「なにをしたんだろうね?」
「・・・節操なし。他の社員が居る前でボディータッチするなんて、セクシャルハラスメントですよ」
「素直になったらどう?」
「早く、えっちなことしてほしい」
「じゃあ、」
都は右手を持ち上げると、ぱちん、と鳴らした。次の瞬間、俺は寝転がって天井を見上げていた。
「あっ・・・!?」
座卓を移動させて、掘り炬燵に蓋をして、布団を敷いて。その過程をブッ飛ばした、雰囲気を重視する都の計らい。
「今日はこのまま。でも、次は美代にも良いもの着せてあげる」
「和服?」
「そう。着付け方も教えてあげる」
「あは、脱ぐのにわざわざ・・・」
「乱れさせるのが良いんじゃない」
「・・・胸、苦しそうだね」
俺に覆い被さる都の胸元を、無理やりこじ開ける。大きな胸が零れそうになった。都は少し目を見開いて驚いたあと、にんまりと狐のように笑った。
「わかってるねえ・・・」
「でしょ? さ、俺でたっぷり遊んでよ・・・」
都が俺の耳朶を唇で挟む。くすぐったくて気持ち良い。
そういえば。
直治は都の着物姿に物凄く弱い。拾ってもらった時の赤い着物姿を忘れられないからだそうだ。順当にいけば次は直治の番。直治が鼻血で畳を汚さないよう、ちょっとだけ心配した。