三百五十二話 京子

文字数 2,269文字

談話室で雑誌を読んでいると、かんなが廊下を通った。そして戻ってきた。


「淳蔵様、お茶を淹れましょうか?」


こいつなに言ってんだ。


「要らねえ」

「あの・・・、はあっ、はあぁ・・・」


急になんだよ。


「す、すみませっ、京子が、暴れて・・・」

「おー、大丈夫か?」

「はあっ、はあっ、ちょ、ちょっと、座って、いいですかっ・・・」

「どうぞ」


かんなは太った身体を揺らしながらソファーに座った。俯いて荒く呼吸している、振りをしているのだろう。不快な音だ。俺は構わず雑誌を読み続ける。いけない葉っぱが合法化した国が増えたらしい。マジか。流通を政府の管理下に置くことで、闇市場での粗悪品の取り引きによる健康被害や未成年者の仕様を防ぐのが目的。ふうん。


「ねえなんで雑誌読んでるのぉ?」


かんながそう言った。


「京子、漫画の方が好きだよっ。フォフォフォフォフォッ」


細い手を上品に口元に添えて、少女のようにくすくすと笑っている、つもりだろう。実際は芋虫のような指とジャガイモのような手を急に口に叩き付けて、不気味に笑って身体を揺らしているだけである。面倒なので『無視してますよ』の意思表示のために俺は足を組んだ。骨盤の歪みに繋がるのであまりやりたくない。


「ねえ京子と遊ぼぉ? 淳蔵君!」


俺は淳蔵ちゃんだっての。


「・・・京子のこと無視しないでよッ!!」


かんなが立ち上がる。


「やめてっ・・・! やめて京子っ・・・、やめてぇ・・・! 煩いかんなッ!! あんたは黙っててッ!! あああぁあ・・・! 出てこないでっ、出てこないでえぇっ・・・! ぎゃああああッ!!」


かんながソファーとテーブルの間をゴロゴロと転がる。休憩に談話室にやってきた美代がそれを見て吃驚して俺に視線を送ってきた。俺は肩を竦めてみせた。


「す、すみ、ませっ、美代様っ、京子が久し振りに、出て、きて、暴れて・・・。い、今、おさえつけましたから・・・」

「ああ、そう・・・。そこ、直治が座るから、座るなら一番奥に行ってくれる?」

「あ、はい」


かんながソファーにドカッと座る。


「淳蔵様、すみません、京子、『お茶は要らない』と言われたのが気に喰わなかったみたいで・・・」

「ああそう」

「京子は、なんだかんだ私のこと、大切にしてくれるんです・・・。別人格とはいっても、姉妹のように可愛がってくれるので・・・。まあ、理不尽な姉のような感じですけれども・・・」

「へえ」


かんなの顔が真っ赤になる。まあ当然か。こいつは構われたくて病人の振りをしているのだから。直治が少し早めにやってきて、かんなを見て眉を顰める。そして無言でソファーに座り、腕を組んで背凭れに身体を預けた。俺は漸く組んでいた足を下ろすことができた。


「すみません直治様、さっき京子が出てきて暴れてしまいまして、淳蔵様にご迷惑をおかけしました・・・」

「そうか」

「・・・あの、ほんとすみません、ご心配をおかけして、」

「別に心配してない」


直治はきっぱりと言い切った。公私混同するべきではないと注意したいが、アホに付き合わされて疲れたので見逃した。とてとて、ぱたぱた、足音が二つ近付いてくる。


「あっ、いたー! みーくん! なおさん! あーそぼっ!」


ひろが都を連れて、談話室に来た。都が持っていた画用紙とクレヨンをひろに渡すと、かんなを見てにこりと微笑む。


「あら、かんなさん、休憩中?」

「いえ」

「あら?」


都が首を傾げると、かんなは気まずそうに談話室を出ていった。最高権力には逆らわないのか逆らえないのか、僅かな社会性を持っているのが逆に性質が悪い。


「ねえ、ひろ君、絵の才能があると思うのよ。今度談話室のテーブルを一つ片付けて、床いっぱいに紙を広げて絵を描かせてみようと思うの。どうかしら?」

「おや、都に認められるなんて、やるじゃんひろ」

「えへへ・・・」

「さて、あっちゃんは都ちゃんと遊びましょ」


都がにやりと笑う。それでさっき『みーくんとなおさん』だけだったのか。美代は一瞬呆れた顔を、直治は不機嫌を隠しもしなかった。


「ひろ、またあとでな」

「うん! またねー!」


二人で都の部屋に行き、俺が鍵をかける。


「で? ママ、なにして遊ぶんだよ」

「うーん、なにしよっかなー?」


細い手を上品に口元に添えて、少女のようにくすくすと笑っている。俺が見たいのはこれだ。その手首を捕まえて、強引に抱き寄せる。この変態おじさんは不意打ちに弱い。俺がにやりと笑って顔を覗き込むと、都は吃驚しながら顔を真っ赤にした。


「ママの太腿で遊びたいな」

「び、吃驚した・・・。馬鹿、変態、すけべ」

「言われたくねー」


都が可愛くてセクシーな白の下着とガーターベルトに着替えて、仰向けになった俺に乗る。太腿にたっぷりとローションを垂らしてから、俺は太腿の間に挿入した。ムチムチしていて堪らない。俺は必死に情けなく腰をカクカク振る。都はいやらしい笑みを浮かべていて、俺が突き上げて下ろすたびに胸が揺れて、疑似的に膣に挿入しているような光景に興奮して。最高に気持ち良くてあっという間に出てしまった。


「もう一戦交えてもよくってよ」

「う、後ろからしたいです・・・」

「今日は雄の気分なの? 下着をつけたままでいいなら」

「いいです・・・お願いします・・・」


四つん這いになった都の後ろから挿入して、快楽を得るために再び腰を振る。主導権は俺にあるはずなのに支配されている感覚が強い。悔しくなって胸を鷲掴みにする。


「あうっ・・・、ら、乱暴しないでよね」

「み、都、あとで、後ろでも・・・」

「今してるじゃない?」

「そうじゃなくってえっ」

「フフッ、わかってるよ」
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