三百五十四話 聖母の微笑み

文字数 1,896文字

ちょっとしたことでマンネリは防げる。俺は整髪剤をつけて髪をオールバックにして、黒いレースの目隠しをした。目隠しといっても着けていても問題なく見えている。これは『されている方』ではなく『している方』が興奮するためのアイテムだ。都にはペニスバンドをつけた上でズボンを履いてもらった。


「ベッドの前に立ってくれ」


都が言われた通りにする。俺は目の前に跪き、股間の膨らみに顔を擦り付けた。


「ガチガチじゃん、おじさん」


笑いながら言うと、都は口を開けて息を吸い、ごくりと喉を鳴らした。


「口で抜いてあげるよ。座ってね」


都の両太腿に手をついて、そっと開かせる。顔をうずめ、引き手を歯で挟み、ファスナーを開ける。ジジ、ジジ、と音がして、酷くいやらしい。


「しゃぶるね」


これが本物だったら、都に肉体的な快楽を、暴力的なまでの快楽を与えられたらどれだけいいか。どうしてもそう考えてしまう。悔しくなって激しくしゃぶった。


「んっ、はあ・・・。こういうのは、どう?」


指輪の『スイッチ』を入れて舌を伸ばし、ペニスバンドに絡みつける。


「す、凄く、イイ・・・」


都はどこか呆けたように顔を蕩けさせていた。舌ごと咥えて、喉の奥まで挿れる。数度頭を前後させただけで、奉仕している身なのに我慢ができなくなってしまった。


「おじさんの、挿れたくなっちゃった。いいよね?」

「い、いいよ・・・」

「ベッドに仰向けになって」


都の上に跨り、腰を下ろす。


「っくふ、うああ・・・」

「無理しちゃ駄目だよ?」

「んん、あ、ありがとう・・・」


腰を振る。


「ああっ、ハハッ、こんなに、ん、大きいとぉっ、うっ、日常生活、んん、大変でしょ?」


気持ち良い。


「サービスで、キスしてあげるよ」


腰を振るのをやめ、唇を吸う。舌を絡める。暫く楽しんでいると、都が俺の太腿を掴んで強烈に腰を突きあげ始めた。


「あああッ!!」


ヤバい。気持ち良過ぎて、意識が。


「はッ激しッ、いッ、いッ・・・!!」


頭が、真っ白に。


「ああっ・・・あっ・・・ああ・・・。はあぁ・・・。お、おじさん、上手で、俺も気持ち良かったから、追加料金安くしといてあげるけど、どうする?」

「お願いしようかな」

「じゃあ・・・」


体位を何度もかえて、たっぷりと楽しんだあと。


「都・・・」

「ん?」

「この前言ってた、自分という意識って話。もっと聞きたい」

「いいよ。淳蔵と美代が良い例なの。淳蔵は時々、自分でいることをやめたくなる。犯罪者という過程を経て得た今の自分を認められない気持ちがあるのよ。美代は『可愛い美代』になろうと必死になってしまう時がある。理想の存在があるから起きることね」


都が舌で唇を濡らす。


「淳蔵と美代の究極に醜い姿が、かんなさんと幸恵さんよ」


と言って、声無く笑う。


「直治にだけ教えちゃおうかな。ジャスミンの狙いは淳蔵と美代が、かんなさんと幸恵さんに過去の自分の姿を重ねて色々考えることみたいだったんだけれど、今回は失敗。私は『失敗する』ってちゃんと忠告したんだけどね。あの子、なかなか頑固だから。直治も失敗すると思うでしょ、あんなに程度が違い過ぎるとさ」

「思う」

「ね? それよりも別のところで良い反応があったけどね」

「千代か?」

「そう。面白い提案をされたから承諾しちゃったよ」


都は悪戯っぽく笑った。

翌日。

談話室のテーブルを一つ片付けて床に巨大な紙を広げ、ひろを汚れてもいい服に着替えさせ、新品のクレヨンを三つ準備した。


「さあ、ひろ君、好きなだけお絵描きしてね」

「みやこちゃんっ! ママ! ほんとうにいいのおっ!?」


ひろはかなり興奮した様子だ。


「ひろ君、好きなものをいっぱい描いて、ママに見せてね」

「やったー!!」


喜んで握ったのは、茶色いクレヨン。いくつもの丸をぐるぐると描き始める。


「これね、ママのからあげ!」


ひろの言葉に紫苑は口元を両手でおさえた。瞳に涙が溜まって、すぐに溢れ出した。桜子が紫苑にハンカチを手渡し、紫苑はひろに気付かれないようにか、見守ると言っていたのに談話室を出ていってしまった。ひろは夢中で気付いていない。


「ひろ君、ママとさっちゃんにおやつを作ってもらおうね」

「うん!」


都が桜子に目で合図を送ると、桜子は頷いて談話室を出ていった。


「おやつー、おやつーはー、ぷりんにきゃんでぃー、こっとんきゃんーでぃー」


ひろが謎の歌を歌い出した。子供特有の創作なのか本当にある歌なのかはわからないが、わたあめをコットンキャンディーと言うとは洒落ている。都がひろの横にしゃがみ込む。

聖母の微笑みしてんじゃねえよ。

二歳児に嫉妬してしまう自分が情けなくて、溜息を溜め息だと気付かれないように、ゆっくりゆっくりと息を吐いた。
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