四百九話 このばかものが

文字数 1,940文字

「なんなんだよこの格好は・・・っ!」

「『逆バニー』っていうんだって」

「・・・これ考えたヤツ馬鹿だろ」

「直治のために特別に作らせたんですけど・・・」

「馬鹿!」


俺は真っ赤になって叫んだ。着させられている衣装は一般的なバニースーツとは露出する部分が逆になっている。それだけでも馬鹿馬鹿しくて恥ずかしいのに、慣れないハイヒールに兎の耳のカチューシャ、尻尾が着いた殆ど紐の下着、乳首を隠すハートマークのシールまで着けているのだ。


「ずっと思ってたんだけどさあ・・・」

「・・・な、なんだよ?」

「直治、ポールダンスに興味ない?」

「は、ポ、ポールダンス?」

「空いてる部屋一つ潰すか」

「おい勝手に決めるな!」


都が立ち上がる。


「じゃあ増築するかな?」

「そういう問題じゃ、うっ・・・」


するりと撫でられる。


「冗談よ、直治。ポールダンスの練習をしていると『ポールキス』っていう痣ができるらしいからね。私がキスするのはいいけど他の誰かがするのは許せないよ」


なんて我儘なんだ。


「ねえ、こういうのはどう?」


都が右手の指をぱちんと鳴らす。ぶるんっと胸が揺れた。俺と同じ衣装を着ている。


「なっ・・・」


唯一違うのは、凶悪なペニスバンド。


「お揃いだよお」

「へ、変態・・・!」

「直治が脱いだら私も脱ぐよ。同じところをね」


都が首をくいと曲げる。揺れる兎の耳、胸。白い肌を際立たせる黒いレザー。滅多にコスプレしない都の扇情的な姿に体温が上がり、呼吸が荒くなる。


「・・・脱がねえよ。早く交尾してくれ」


都は唇を三日月のように歪めた。

気怠くも心地良い朝を迎え、いつも通りの日常に戻る。

こんこん。


「どうぞ」

『失礼します』


都だ。思わず緊張してしまう。


「ど、どうした?」

「新しい水着、見たい?」


少年のように笑っている。


「・・・み、見たい」


黒いブラウスに白い指が伸び、ぷちぷちとボタンが外されていく。二日連続でえっちなことしていいなんて今週はツイてる。


「じゃーん! 西瓜だよ!」


緑と黒の縦縞の水着だ。


「デケェ・・・」

「ウヘヘ、じゃあそういうことで、水浴びしてきます」

「あ?」

「え?」

「おいなんだ、見せに来ただけか?」

「そ、そうです、けど・・・」

「仕事中の男の部屋に『この水着は面白いぞ!』って意気込んで笑わせに来ただけか?」

「・・・あの、そうです、はい」

「ブチギレだぞおい」

「なっ、なんでえ!? 淳蔵は笑ってくれたのに・・・」

「なんで俺より先に淳蔵に見せに行ってんだよ。俺は何番目だ」

「えっと、あの、最後です・・・」

「はあ? 千代と桜子は?」

「あ、あの、あの、見せました・・・」

「ボケが。跪いて咥えろ」

「ヒィッ! あの、ごめんなさい! あの、でも、メイドさん達は仕事中だし、」

「俺も仕事中だ!」

「ごっごめんなさいごめんなさい!」

「早くしろ」

「は、はい・・・」


俺は前を寛げて足を開く。都を床に跪かせる。


「なにしてんだ」

「えっ?」

「水着を見せに来たんだろ。ボタンは全部外せ」

「はい・・・」


ちょっとやり過ぎなのはわかっているが、期待させられた分と後回しにされた分はどうしても清算させたい。


「水着、汚したくなかったら飲むしかないぞ。わかるな?」

「んん、ぁい・・・」


じゅぽじゅぽとしゃぶられる。

気持ち良い。

頭が真っ白になる。


「ねえ、淳蔵。新しい水着、見たい?」


ジャスミンが見せているのか。


「見たいです」


淳蔵は真剣に答える。こいつアホだろ。


「じゃーん! 西瓜だよ!」

「おお!? あははは! おもしれえことするなァ」

「でしょー?」


場面がかわる。


「千代さん、見て見てー! 新しい水着作ったの!」

「おお! 西瓜っすか! 面白いですねェ!」


また場面がかわる。


「桜子さん、新しい水着、見たい?」

「はい! 見たいです!」

「じゃーん! 西瓜だよ!」

「まあ! 都様ったら・・・」

「桜子さんもこういうの欲しい?」

「欲しいというか、見たいです。次はメロンで」

「メロンね! また作っちゃおうっと」


美代の事務室。


「新しい水着、見たい?」

「み、見たいです・・・!」


美代は期待に目を輝かせている。


「じゃーん! 西瓜だよ!」

「おお・・・!」

「可愛いでしょ?」

「うん。とっても可愛い・・・」

「えへへ、ありがと! じゃあ水浴びしてきます」

「あ?」

「えっ?」

「自分がなにをしているか理解していないの? 仕事をしている俺の部屋まで来て『この水着は面白いぞ!』ってちょっかいかけてそのまま帰る気?」

「あの・・・」

「ボタン閉め直すな。開けろ」

「は、はい・・・」


美代は俺と同じことをしていた。馬鹿美代め。都はしゃぶるのに夢中になっていてジャスミンがドアを開けたことに気付いていない。ジャスミンはじとっとした目で俺を見ると『この馬鹿者が』とでも言いたそうな顔をしてドアを閉め、鍵を閉め、去っていった。
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