四百十五話 協力関係
文字数 1,753文字
『上手くいかなかったねえ』
「重荷になれば皆切り捨てると思ったんだがな」
『忠誠心を甘く見た結果だね』
「あんたが変な設定山盛りにしたからじゃねえの? 声は兎も角、金と人脈はそのままにしちゃいかんだろ」
『ハハッ! 君は持ったことがないからわからないんだろうけどね、使いこなせなくちゃどちらも無駄なものだよ』
「金はねえけど人脈はあるっつうの。ま、いいさ。それより気付かれてないだろうな?」
『純度の高い夢を見せたからね、大丈夫だよ』
「『大丈夫』じゃ困るんだよ」
『ハハッ! 何事にも『絶対』はないからね』
「お前『仕事』として受けたんだから100%の力でやれよ」
『やったさ! 君こそもう少し強くなったらどうかね!』
「うるっせえなあ。もういい、解散だ」
『呼び出しておいて追い返すだなんて君は我儘な子だなあ。ま、いいや。それではまた・・・』
クリエイターは帰っていった。
メイド服に着替えて出勤する。
「おはようございます、直治様」
「おう」
この様子だと気付かれていない。こいつは忍耐力がないから我慢できずに殴りかかってきてもおかしくない。キッチンへ行き朝食の準備を手伝う。
「美月さん、おはようございまァす!」
「美月さん、おはようございます」
「千代さん、桜子さん、おはようございます」
特に変わった様子はない。こいつらも気付いていないようだ。紫苑、小夜が順にキッチンに来て準備を手伝い、食堂に料理を運んでいく。淳蔵も美代も特に反応はない。
「おはよう」
都さんが来た。
「おはようございます、都様」
「おはよう、美月さん」
機嫌は良さそうだが、油断してはいけない。朝食は問題なく終わった。メイドとしての仕事中もいつも通りでなにも起きない。キレた誰かが喧嘩でも吹っ掛けてくりゃ面白かったのに。
「みーづきさん」
「都様」
「旅行に行きたくなあい?」
「旅行、ですか?」
「そう!」
都さんはにっこりと笑っている。
「このところ、みーんな働き詰めだからね。休日とお礼をあげたくて。紫苑さんとひろ君は二泊三日の旅行をプレゼントしたの。テーマパークへの旅行よ。テーマホテルのディナーはバイキング形式で、ホテルでは映画が見放題。淳蔵と美代と千代さんと桜子さんには四泊五日の韓国旅行。千代さんったら『夢が叶う!』っておおはしゃぎしてたわ。小夜さんは一泊二日で大阪へバスツアー旅行。高校時代のお友達と日程を合わせて行きますと言うから、お友達の分の旅費も出してあげることにしたの。大喜びだったわ」
「おや? 直治様は?」
「あの子は駄目。旅行の話をしたら『足の甲に釘を刺してでもここから動かない』ですって。まあ、直治が居るから淳蔵も美代も出掛けてもいいってことになったんだけどね」
やはりあの男の『一条都』に対する執着は常軌を逸している。
「都様、お気持ちは嬉しいのですが、私は目立ちますから旅行は・・・」
「じゃあ、お肉はどう? 叙々苑の個室で好きなだけ飲食していいわよ」
「おや、お酒もですか?」
「サイドメニューもデザートも好きなだけ食べちゃっていいわよ」
「お店が潰れてしまいますよ?」
「潰してきちゃいなさいな」
「・・・そうですか。では、ありがたく頂戴します」
「ところで」
「はい」
「気付いていないと思った?」
「・・・やっぱり、気付いていました?」
都さんは、にい、と笑う。
「面白い映画だったわ」
「演者達に出演料として旅行をプレゼントですか?」
「まあ、そんなところ。脚本家の貴方にも『いいもの』を観させてもらったお礼。ああ、監督に伝えておいて。『出所おめでとうございます』って。じゃあ、またね」
上機嫌で去っていく。
「・・・ンだよおい、気付かれてんじゃねえか」
自称『クリエイター』は、人間の世界でいう『刑務所』に長い間務めていたため、『白い男』がジャスミンという名の犬になって人間の少女と暮らしていると知らなかったらしい。クリエイターはジャスミンと因縁があるらしく、復讐の機会を伺っている。そのために一条家に何度も接触しているうちに私を見つけ、互いに協力することにした。
「一筋縄ではいかねえなあ・・・」
一条都を倒し、『悪魔祓い』として名を馳せる夢は、必ず叶える。そのためなら似合わないメイドの服を着て人間として仕事をすることだって耐えてみせる。
「・・・肉、肉かあ。調子狂うからやめろよな」
「重荷になれば皆切り捨てると思ったんだがな」
『忠誠心を甘く見た結果だね』
「あんたが変な設定山盛りにしたからじゃねえの? 声は兎も角、金と人脈はそのままにしちゃいかんだろ」
『ハハッ! 君は持ったことがないからわからないんだろうけどね、使いこなせなくちゃどちらも無駄なものだよ』
「金はねえけど人脈はあるっつうの。ま、いいさ。それより気付かれてないだろうな?」
『純度の高い夢を見せたからね、大丈夫だよ』
「『大丈夫』じゃ困るんだよ」
『ハハッ! 何事にも『絶対』はないからね』
「お前『仕事』として受けたんだから100%の力でやれよ」
『やったさ! 君こそもう少し強くなったらどうかね!』
「うるっせえなあ。もういい、解散だ」
『呼び出しておいて追い返すだなんて君は我儘な子だなあ。ま、いいや。それではまた・・・』
クリエイターは帰っていった。
メイド服に着替えて出勤する。
「おはようございます、直治様」
「おう」
この様子だと気付かれていない。こいつは忍耐力がないから我慢できずに殴りかかってきてもおかしくない。キッチンへ行き朝食の準備を手伝う。
「美月さん、おはようございまァす!」
「美月さん、おはようございます」
「千代さん、桜子さん、おはようございます」
特に変わった様子はない。こいつらも気付いていないようだ。紫苑、小夜が順にキッチンに来て準備を手伝い、食堂に料理を運んでいく。淳蔵も美代も特に反応はない。
「おはよう」
都さんが来た。
「おはようございます、都様」
「おはよう、美月さん」
機嫌は良さそうだが、油断してはいけない。朝食は問題なく終わった。メイドとしての仕事中もいつも通りでなにも起きない。キレた誰かが喧嘩でも吹っ掛けてくりゃ面白かったのに。
「みーづきさん」
「都様」
「旅行に行きたくなあい?」
「旅行、ですか?」
「そう!」
都さんはにっこりと笑っている。
「このところ、みーんな働き詰めだからね。休日とお礼をあげたくて。紫苑さんとひろ君は二泊三日の旅行をプレゼントしたの。テーマパークへの旅行よ。テーマホテルのディナーはバイキング形式で、ホテルでは映画が見放題。淳蔵と美代と千代さんと桜子さんには四泊五日の韓国旅行。千代さんったら『夢が叶う!』っておおはしゃぎしてたわ。小夜さんは一泊二日で大阪へバスツアー旅行。高校時代のお友達と日程を合わせて行きますと言うから、お友達の分の旅費も出してあげることにしたの。大喜びだったわ」
「おや? 直治様は?」
「あの子は駄目。旅行の話をしたら『足の甲に釘を刺してでもここから動かない』ですって。まあ、直治が居るから淳蔵も美代も出掛けてもいいってことになったんだけどね」
やはりあの男の『一条都』に対する執着は常軌を逸している。
「都様、お気持ちは嬉しいのですが、私は目立ちますから旅行は・・・」
「じゃあ、お肉はどう? 叙々苑の個室で好きなだけ飲食していいわよ」
「おや、お酒もですか?」
「サイドメニューもデザートも好きなだけ食べちゃっていいわよ」
「お店が潰れてしまいますよ?」
「潰してきちゃいなさいな」
「・・・そうですか。では、ありがたく頂戴します」
「ところで」
「はい」
「気付いていないと思った?」
「・・・やっぱり、気付いていました?」
都さんは、にい、と笑う。
「面白い映画だったわ」
「演者達に出演料として旅行をプレゼントですか?」
「まあ、そんなところ。脚本家の貴方にも『いいもの』を観させてもらったお礼。ああ、監督に伝えておいて。『出所おめでとうございます』って。じゃあ、またね」
上機嫌で去っていく。
「・・・ンだよおい、気付かれてんじゃねえか」
自称『クリエイター』は、人間の世界でいう『刑務所』に長い間務めていたため、『白い男』がジャスミンという名の犬になって人間の少女と暮らしていると知らなかったらしい。クリエイターはジャスミンと因縁があるらしく、復讐の機会を伺っている。そのために一条家に何度も接触しているうちに私を見つけ、互いに協力することにした。
「一筋縄ではいかねえなあ・・・」
一条都を倒し、『悪魔祓い』として名を馳せる夢は、必ず叶える。そのためなら似合わないメイドの服を着て人間として仕事をすることだって耐えてみせる。
「・・・肉、肉かあ。調子狂うからやめろよな」