第239話 二人のアキ

文字数 929文字

そして金曜日、夜六時の東京行きの新幹線に乗っていた。金、土、日と彼の部屋で過ごす為に。

水曜日にこっちに来たから会ったばかりだ。
どうかしてるのは自分でもよくわかっているけれど、会いたかったのだ。

七時過ぎに東京駅に着くと、夜ご飯に軽食を食べて地下鉄に乗り換えた。

最寄駅で降りるとマンションの頑丈なオートロックをなんとかパスし、合鍵で部屋の鍵を開けた。

やった開けられた、クッパ城前の迷路を一回でクリアできたような達成感。鞄をソファの横に置くとテレビをつける。

今日は九時過ぎには家に帰ってくると言っていたのでそれまで待っていよう。

新幹線の暖房が効きすぎて汗だくだったので、シャワーを借りてクリスマスイブの時に間違えて買ったホットパンツのパジャマに着替えた。

昨日の夜、電話越しに彼がどうしてもこれを着て待っていてくれと懇願したのだ。もし誰かに見られたら冷や汗物だけれど、神経質な彼の部屋には宅配便以外の人は来ない。

こんな格好はあんまりしたくない、一人の時でも嫌だ、けれどあそこまで頼まれると言うことを聞いてしまう自分がいる。どうかしてるのはよくわかっている、段々と恋にのめり込んでいく自分が怖い。

彼が帰ってくるまでリビングでテレビをみていた。

午後八時二十五分頃チャイムが鳴った。彼だったら「ただいま」とドアを開けるので彼ではない。宅配便だろうか?

出るべきかどうか考えた結果、応対のボタンを押した。「はーい」と返事をすると画面には初老の女の人が映っていた、すぐにそれが誰だかわかった。

この特徴的な切れ長な瞳、おでこの広さ、口の形、彼とそっくりだった。

彼のお母さんだ。

慌てて玄関に走りドアを開け、深々とお辞儀をした。

「あっ初めまして、私山浦亜紀と申します。」そう言うと「初めまして、丸山の母です」と深々と頭を下げられたから私も負けじと深く頭を下げた。

お母さんは七十代だという話を聞いていたが、ずっと若そうに見える。ショートカットにグレーの髪をワックスでしっかりとセットしてある。この時間なのにしっかりとメイクをしていて、お手伝いさんがいる家の奥さんなだけあって上品そうな雰囲気を纏っている。

「あの、まだ重明さん仕事から帰ってきてなくて、私が言うのも何なんですが中へどうぞ」
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