第23話 コスモ山浦

文字数 995文字

「弟は今高崎市で介護士してます。母が早くに亡くなったので、私が親代わりしてたんです。

とにかく凄く馬鹿だから高校も卒業できるか怪しかったし、専門学校も入れるか怪しかったし、もう何するにしても手がかかっちゃって大変でした」

そう言うと丸山さんは神妙な顔つきになったので笑わせようと思った。

折角家に来てくれてるんだから、楽しく過ごしてほしい、そう思ったからだ。

「びっくりする程の馬鹿なので、色々伝説を残して来たんですけど」

丸山さんがいきなり立ち上がり仏壇の前に座った。ぽかんとしてる私を尻目に正座して手を合わせた。

何故だか涙が目に浮かぶ。

「丸山さん、本当にいい人ですね。家来ても仏壇あることに気づかない人多いのに。何だか泣けてきました。あっお茶いれてきます」

そう言うと台所に行きティッシュで涙を拭った。


お盆に冷たい麦茶を入れて部屋に戻った。

丸山さんは「山賊焼、凄く美味しかった。にんにくの風味がしっかり聞いているというか、レストラン出せるよ。コスモ山浦って名前で」と言ってくれた。

「その名前で出すとすぐ潰れそうですね」と彼と目を合わせて笑った。

「母が松本の出身で母の得意料理だったんです。弟がバカだから死ぬほど食べるんです、あれ十個は食べてたんですよ」

「弟さんは幸せだね、お姉さんにこんなに美味しい料理食べさせて貰って」

「今度はお世辞ですよって言いませんか?」「言わない」と丸山さんは優しい顔で言った。

「本当はレストランをご紹介できれば良かったんですが、教師って村の有名人なんです。

絶対誰かがどこかで見てて、次の日学校で噂になるんですよ。特に私独身なんで、弟とご飯食べてただけでも学校に苦情くるんですよ。ふしだらだって。

だから外出するのも億劫になっちゃって」

「それ凄くわかる。俺もどっか、出かけたらすぐに写真撮られてネットに流出だし、夜後輩と飲みに行く以外は休みの日は殆ど引きこもってるよ」

「丸山さんは全国規模だから大変ですね、私はまだ東京に出ると好き勝手できますもん」

そう言ってお茶を一口飲んだ。

すると丸山さんは箸を止めて

「じゃあデートは東京でするの?」と聞いてきた。

「だから、しませんってする相手いないですから」と笑うと「じゃあ東京でデートするならどこがいい?」と私の目をじっと見つめて聞かれた。

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