第235話 深夜の訪問者

文字数 1,154文字

伊豆から帰ってきた日は三連休の中日だったけれど、結局アパートに帰ってきたのは最終日の夜遅くだった。

あの後新幹線に乗って帰ろうと思っていたら、うまく言いくるめられ東京で過ごしていた。言いくるめられというのは適切な表現じゃない、私もそれを望んでいたのだ。

伊豆から帰ってきた日は東京駅の本屋に行って彼が面白いという太鼓判を押すミステリー小説を買って彼が事務所に行く間、駅の喫茶店で読みながら待っていた。

一時間半程かかっていたと思う、特に木村さんと仲が良かったことはみんな知っているから色々聞かれたのだろう。

戻ってきた彼は少々やつれていた。
「大丈夫だった?」
「色々聞かれた、木村君がアレな女と付き合ってるって有名だったから、特に今誰と付き合ってるんだ?ちゃんとした女なのか?っていう尋問が」
「そうなるよね」
「マネージャーが亜紀先生はちゃんとした人で凄くまともだって言ってくれたからこの時間で済んだ」
「マネージャーさんそんな事言ってくれてありがとう」
「後大事な時期だから車の運転はするなって言われた」
「それがいいと思う、気をつけてても事故って起こっちゃうし」

彼が気まずそに少し俯いた。
「後五年前の件掘り起こして二度と女遊びするなってキツく怒られた」
「そうだ、そうだ、二度と女遊びしないで」

彼の愚痴を聞いて慰めて「そういえば着替えがない」と騒ぐと二人で買い物に行った。

「群馬にも長野にも同じ店あるだろう、俺が買ってやるからもっとちゃんとした店で」と言われたけれど面倒だったので駅にあったウニクロで着替えを自分で買うと彼がブーブー文句を垂れていた。

なので彼が行きたいといった隠れ家的なレストランで食事をして、ここは素直に払って貰い彼の部屋に帰った。

夜眠る前に「今日は初めて24時間以上一緒にいたね」と言うと「こんなに長時間一緒にいても苛つかないのは相性がいいんだろうな」と彼が髪を撫でたので「そうだね」と答えた。
「明日は夕方六時までには帰って来れるからそれまで居てよ」
「うん、最終に乗れればいいから」
「あーもう駄目、俺もうおっさんだから体力がない眠い、絶対夜中服着ないで」と言い残し寝てしまった。

明日彼は朝の六時に迎えが来るらしい、彼が完全に寝たのを確認してそっとベッドから出て服を着る、裸で寝たら寒いし落ち着かないんだよね。


翌日の夕方、彼はなぜか新幹線の回数券をくれた。「何これ?」というと「金曜日の夜来れる?」「東京に?」「どうせ休みは読書してゲームしてDVD見てるだけだろ?」「悔しいけど何の反論もできない」「だったらそれこの部屋でやって」そういうと彼は得意気に笑った。

彼はこの先ずっと土日は仕事らしい、「新幹線移動は負担かけるけれど、俺たちが付き合っていくにはそれが一番いいだろ?」と言うので「確かに」と納得した。








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