第205話 再会は突然に

文字数 1,158文字

とにかく事実確認をしなければならない。トラブルが起こったときの基本だ。震える声で
「後は何か言ってた?」と言うと、馬鹿な方の弟はまた嬉しそうに話し始めた。

「それしか聞いてないけど、俺父ちゃんが死んだ時に姉ちゃんは兄ちゃんの家泊まってったから、絶対その時やったと思っててさ、あそこまで手出してないって兄ちゃんって意外と凄く紳士なんだって感動したよ」

何で弟にこんなこと感動されなければならないのだ、イケメンな方の弟が引きつった顔で言った。

「他のみんなは爆笑してたけど、俺場所とか登場人物とかリアルに思い浮かんで気まずくて聞いてられなかったよ」

「お姉さん、そんな時に喧嘩してごめんなさい」と何故か美子ちゃんに謝られた。


ちょうどその瞬間に私のスマホが鳴った。ちょうどよく彼からだった。

「もしもし、今東京駅に帰ってきたの?ちょうど良かった凄く会いたかったんだよね。うん、今京浜東北線のホームの階段下、近いね絶対すぐ来てね」

私がそう言って電話を切った数秒後、彼が本当にやってきたのを見て、まずは健が「俺帰らなきゃな」と逃げた。そして私の殺気を感じ取った智と美子ちゃんも「お姉さんじゃあこれで」と逃げた。

彼が私の所に来て「何であいつら俺の顔見たら逃げてったの?」と聞いてきたのでありったけの大声でこう叫んだ。
「早く乳首見せろってどう言うこと!」

彼は声にならない声をあげて焦り出した。
私の大声に道行く人達は一瞬こちらを見たけれど、すぐに興味を失いまた自分の世界へと入っていく。

「くそっ、あいつら俺を売りやがって」
「あなたが笑いのために私を売ったんでしょ!」

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」と彼は素直に認めたので「こういう職業の人と付き合ってるからある程度は仕方ない。何ネタにされてもいいけど、あの夜のことだけは言っちゃいけないでしょ?」と青筋を立てながら怒った。

「本当にごめんなさい、本当に乳首が見たかったんです」

「はぁ!?」
彼は困ったらわざと下品なことを言って誤魔化そうとする癖がある。

「この間少しだけ触ったけど、あいつが隣に寝てたから見れなかったんだよ」
「はぁ?!」

「なぁ亜紀いいか?男は目で見て興奮する生き物なんだぞ、だから俺に乳首みせてくれ」
「はぁ?!」

私の怒りが頂点に達した時、後ろから誰かに話しかけられた。

「お取り込み中すみません、これ営業先の人から貰った仙台銘菓のオギの月です」そう言ってマネージャーさんが彼に紙袋を渡した。

「あっ、マネージャーさん」私がそういうと「亜紀先生お取り込み中申し訳ありません」と頭を下げられた。


「僕はこれで」マネージャーさんはそう言って頭を下げると「北澤さんが明日のラジオ収録楽しみだなって言ってました」と言い残し足早に人混みの中へ消えていった。

ふーん、今この場面を北澤さんも見てたんだ。
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