第273話 追撃される
文字数 1,294文字
「熟女じゃない、まだ人妻のレベルだから!」
「結婚した覚えはないので人妻ではなく熟女ですね、はい論破」と彼はムカつく解答をした。私が何か言い換えそうと口を開こうとした時、サラちゃんが会話に割って入った。
「それに、丸山さん最近、髪型とか洋服気にしなくなったっていうか、多分この人付き合ってからじゃないんですか?」
そう言って私を一瞥した。
「ちょっと待って、それ私のせいにしないでよ。洋服がとか髪型がとかこの人が怠けてるだけでしょ?」
すると彼は私を指差すと「普段からこんな格好してる女と一緒にいると、合わせなきゃって気になるんだよな」と言った。
ふと自分の服を見ると高校のジャージを着ていた事に気がつく。
「うわっ、そういえばこのジャージ着てたんだった。こんな格好で人に会っちゃった」
「やっと気づいたの」と彼は手を叩いて笑った。
サラちゃんは私を何ランクも下のカーストにいる人間だと馬鹿にしたように見ていたので何とか弁解した。
「たまたま着てただけ。家の中だから、誰にも逢わないし楽なジャージ着たいでしょ?普段はもっとちゃんとした格好してるから」
「ここで俺がそれ着て待っててって言ったことがバレたら、テレビで言われかねないもんな」
彼の手のひらを思いっきりつねった。
「イタタ、ごめん、ごめんなさい。でもこの痛さが、興奮する」
彼が明らかにふざけ出したのをサラちゃんが遮った。
「丸山さんは何でこの人がいいの?女優さんからもアプローチ受けたけどゲイのふりして断ったって聞きました!他にももっと綺麗な人沢山いるのに、何で?」
本当にうるさいな、余りにしつこいので逆に追求することにした。
「逆に聞くけれどサラちゃんは何でこのおじさんがそんなにいいの?」
サラちゃんは急に笑顔になった。なんだかんだ言ってもまだ18歳なんだろう。
「丸山さんって優しいんです。北澤さんは世間のイメージと違って怖いんです!ネタ終わりごとにすぐに文句言って来るし、何かあったらすぐ説教してくるし。
でも丸山さんは一切そういうこと言わないんです、ネタ終わりも良かったよとか、何があっても別にいいんじゃないって言ってくれるし」
私の正論モンスターの血が騒ぐ。
「そんなの北澤さんの方が遥かに優しいでしょ!サラちゃん、人に怒るってエネルギー使うの、そのエネルギー使ってまで良くなって欲しいから北澤さんはわざわざ言ってくれてるの」
「でも北澤さんって凄く怖いし、厳しいし」
「北澤さんは後輩のこと考えてくれてるから!正反対にこの人は面倒で適当に優しい言葉振りまいてるだけ!後輩なんかどうでもいいと思ってんの!」
「チクショーバレたか」
と彼は苦笑いしている。
今まで表の顔しか見てなかったサラちゃんは唖然と彼を見つめている。
「面倒なんだよ、特に女ってちょっと何か言っただけですぐ泣くし。でも俺は団蔵とか親しい後輩にはちゃんと言うからな」
流石にここまで本性を曝け出せばサラちゃんも諦めると思った。ところがこの子はなかなか性根が座っている。
「じゃあ丸山さん!私にも言って下さい!私は絶対諦めません!もっと親しくなりたいです!」
困惑する彼に「だってさ」と私は追い討ちをかけた。