第169話 師走の夜

文字数 1,380文字

智がシャワーを浴びている後ろ姿のページをめくると「姉ちゃん、じゃあ今の兄ちゃんの裸と昔のパーマ兄ちゃんの裸どっちがいい?」とやけに響く声で言った。


「何言ってんのよ!馬鹿!」
彼は慌てふためく私をみてフッと笑うと智に鋭い視線を向けた。
「じゃあその質問に答えてもらう為にもう帰って貰えるかな」

「えー嫌だよ、もっと遊ぼうよ!でも兄ちゃん、よく姉ちゃんなんかとやろうと思うね、想像するだけで吐き気するよ」と言ってまた「オエー」と吐く真似をした。

私は無性に腹が立ってまた智を蹴飛ばした。

「うるさいわ!」そう言うと、彼が「姉ちゃんはいい女だから抱きたいだろ?」と謎のフォローを入れた。
「俺には理解できないけれど姉ちゃんと兄ちゃんラブラブだね」
「だから、ちょっと今日帰って」
「いやだ、もうちょっと遊ぼうよ」

「あのな、俺仕事が年末年始にかけてめちゃくちゃ忙しくて、次に二人きりで会えるの一月にならないと無理なの!」
「だから、今日ちょっと帰って」
「わかった、帰る」けれどその数秒後「と見せかけて帰らない」と智が言って彼は「おい!」と、大袈裟にリアクションをとった。

次に会えるの一月か……流石の私も彼に追随した。
「美子ちゃん、心配してるんじゃない?ちゃんと帰って謝った方がいいんじゃないの?」
「そっかな、心配してるかな」

「それに奥さんが妊娠中に如何わしい店行くって、奥さんからしたらあんまりじゃない?」
「いや、でも俺が行ったのってキャバクラに毛が生えた奴だからセーフ。なぁ兄ちゃん?」「俺にふるな!」「だって兄ちゃんだって苺クラブの連載で言ってたじゃんか」

彼は凄くあせりだした。
「お前、やめろそれ以上言うな!」
「俺ここに今月の持ってきた」
そう言って見るからにいかがわしそうな雑誌を取り出した。

彼が慌てて智の手から雑誌を奪い取った。「お前、俺が一番知られたくなかった仕事を」

私は彼の手から雑誌をスルリと取ると案の定裸の女の人が表紙の成人誌だった。表紙に書いてある字を読み上げた。
「丸山重明のセックスはスポーツだ。気になるけどでも読まない」私はそう言って雑誌を机に置いた。

「姉ちゃん何で?」
「仕事でやってることに何にも言いたくないし、仕事は仕事でしょ。それに多分聞きたくないようなこと沢山書いてあるだろうし」

彼は胸を撫で下ろしてこう言った。
「亜紀ちゃん、サンキュー」
「流石姉ちゃん太っ腹!今月号はオキニの嬢の好きな体位の紹介が書いてあったから、絶対読まない方がいいと思う」

場が一瞬静まり返った。

彼が例の雑誌を手に取った。
「お前!血が繋がってたら俺ぶん殴ってるからな」
「兄ちゃんごめんごめん!」

私のスマホの着信音が鳴った。
「あっ美子ちゃん」
そういうと智がビクッとなった。

「もしもし来てる。本当にごめんね、蹴り飛ばしておいたから。今日どうする?智今から家帰せばいい?」

「お姉さん家に一晩置いてもらっていいですか?怒りでお腹張っちゃって」
「そりゃあ大変だ。美子ちゃんの体が第一だから!うんわかった、明日の朝ちゃんと家に帰らせて土下座させるから、はいじゃあね」

会話が聞こえていたらしく彼が頭を抱えて座り込んだ、智は「ごめん、俺邪魔だけど家泊めて。エヘヘ」と言って頭をかいた。
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