第60話 ちゃんとした場所

文字数 1,407文字

「それでさっきの斎藤君は現村長の息子さんなんです。ミュージシャンになりたくて上京してたんですけど売れないまま30歳になったし、この村を二分する騒動で呼び戻されたんです。最初、金髪で役場にいるから、びっくりしました、流石村長の息子さんって」

「今も山の上村って書いた服に不釣り合いな結構明るい茶色でびっくりしたわ」

彼がそう呟いた。

「斎藤君が戻って来てから、小さい村だから噂って流れて来るじゃないですか。斉藤くんはどうやら、対立する前村長が何にも言えなくするように前村長の仕事関係の恩人の娘さんと政略結婚させられるらしいって聞いて、あんな今風の人なのに大変だなって思ってました。っていう話です」

私がそう言って黙ると、テレビでは保育園のりんご狩りのニュースが流れている。外は段々と日が落ちて来てテレビの画面が眩しい。

「色々大事な所端折ってるだろ?ちゃんと俺に向き合う気があるなら、しっかり話して」

丸山さんは私が彼のことを好きな前提で話してきて少し腹がたった。いつ丸山さんのことを好きだって言ったのか、まぁその通りなんだけどさ。

それでも仕方ないので話を続けた。

大きく息を吐いて吸った。

「夏休みに役場の仕事体験をしなくちゃいけなくて、それで斎藤君が担当してくれたんです。

ボンクラなボンボンかと思ってたら、話すと村のこと真剣に考えてるし凄く真面目ないい人だなって思いました。

それで夏休みの特に暑い日に仕事体験がようやく終わって家でほっとしてると、斎藤君から電話がかかってきたんです。

何かと思ったら「天体望遠鏡買ったから、今から星見に行きません?僕東京から戻ってきたばっかりだから友達いないんです」と言われました。

あれこの人確か政略結婚させられるはずじゃと思ったんですけど、でもいい人だから私相手にそんな深い意味はないだろう。

本当に友達いないんだって思ってオゾンで待ち合わせして行きました」



私がそこで話を止めて一呼吸置くと丸山さんはテレビのチャンネルをまた変えた。

「三年前で三十ってことは年下でしょ?前に年下は無理って言ってたよね。あーローカルニュースしかやってないな。……何か凄く聞いて後悔しそうな話だけど、最後まで聞くよ」

丸山さんが適当に変えたテレビの画面はやけにポップな冷凍食品のCMが流れていた。

「佐久平から一時間ぐらいで野辺山って天体観測で有名な所に着くんですけど」

「そこロケで行ったよ、でかいアンテナある所だろ?」

「そうです、それで私車に乗ってても望遠鏡見ててもずっと楽しくて、彼についていったこと後悔しました。

やっぱり私この人のこと好きなんだって再確認しちゃって。人を好きになるのに私が婚活で出してた条件の年齢なんか関係なかったです」

横目で彼を見ると何も言わずに外の景色を見ていた。

「もうこれ以上関わったら絶対ダメだってわかってたんです。深入りしちゃいけないって、自分がそのうち傷つくだけだってわかってたんですけど、でも誘われたら嬉しくて一緒にいちゃうんです。ちょうど今の丸山さんみたいに」

そう言って自虐的に笑った。

どうしてこんな事を丸山さんに言ったのか理解ができない。けれども脳で考えるよりも口が先に喋ってしまった。

「……俺は政略結婚しないから、まぁいいや今はこっちの話終わらすことが先だから、続きは?」
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