第217話 伊豆の踊子

文字数 1,163文字

昨晩考え過ぎて余り眠れなかったから体が限界だった。それにこの電車の揺れが心地いい。段々と睡魔に襲われていく。

ふと目が覚めると電車は海沿いを走行していた。太陽の日差しを浴び水面がキラキラと反射している。

隣でスマホをいじっていた彼が私を見て微笑んだ。
「目覚めた?」
「ごめん、寝てた。何分ぐらい寝たんだろ?」
「こっちこそごめん、俺ずっと電話してたし。俺戻ってきてからも二十分ぐらい寝てたよ」

「昨日何か眠れなかったんだよね」
「俺に抱かれる事想像したら興奮して眠れなかったの?」
「寝起きだとうまく頭が働かなくて言い返せない」
そういうと欠伸が出そうになったので慌てて口を押さえると、彼はどこからか買ってきた冷たいペットボトルのお茶をくれたので「ありがとう」と受け取った。

「ほら亜紀、さっきの質問の答え頂戴」
「何の質問?」
「亜紀が何されると嬉しいかだよ」
「えーっと、何か上手く頭が働かない、ほらさっき手を繋いでくれたのが嬉しかったかな」

「そんだけ?」
「後は……疲れてるのに夜とかに家来てくれるのも嬉しいかな」
「後は?」「えっ後は…ちゃんと毎日連絡くれるのも嬉しいし」
「他には?」「うーん何だろう、クリスマスにプレゼントくれたのも嬉しいし」

「後は」「単独ライブに呼んでくれたのとか」「もう一つぐらいない?」
「うーん風俗にもう行かないって約束してくれたこととか」「車の運転うまいって言ってくれたこと」「ちゃんと家に入るときに靴揃える」「ゴミをゴミ箱にすてる」「毎日洗濯してる」「ハゲかけてきたってネットに悪口かかれてても気にしない」「動物可愛いのにいつまでも嫌いなとことか」

「ちょっと待って!途中まで俺愛されてるなって気分良く聞いてたのに、最後の方悪口じゃんか」

「折角調子出てきたのに」
「じゃあ俺が今度は逆に言ってやる。俺がされて嬉しいのは手繋いで嬉しいとか毎日連絡くれて嬉しいって35なのに高校生みたいなこと言うこと」

「それ悪口でしょ!」「悪口じゃない、本当にそう思ってるよ」と彼がニヤリと笑い私が苦い顔をしていると

「じゃあ俺にキスされるのは好きなの?」
「うん」と頷くと「ここは誰も通らないから今から世界で二番目に甘いキスをしよう」
「何で二番目?」
「一番のやつは今夜だろ」
彼の甘い言葉に思わず笑ってしまった。
「またそれ」
彼は手を頬にあててきたので目を閉じた瞬間、彼の携帯が鳴った。

「ごめん、ちょっと出てくるわ」とデッキの方へ行ってしまった。何だか顔が暗い、大丈夫かな?

暫く経っても彼は戻ってこない、何かあったのかな?

スマホでまとめニュースを見ていたけれど、また電車の揺れが心地よく目蓋が重くなってきた。さっき一度寝てしまったから余計に眠い。私は果たして上手く乗り切れるのだろうか。

海沿いの駅を通過したなという記憶を最後にもう後は覚えていない。
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