第12話 帽子岳の山頂で

文字数 1,265文字

何だか四年前の登山より随分楽しく、あっという間に登頂し下山した気がする。

午後三時ようやく学校まで戻ってこれた。

校舎の各教室から他の学年の子供達が「おかえりなさーい」「テレビだ!丸ちゃーん」と手を振っている。

見慣れた校庭で終わりの会をして解散すると、子供達は一目散に丸山さん達の所に走って行き、彼は一人ひとりに握手してくれた。

丸山さんってテレビで観るのと違い本当に親切な人だ。

子供達が帰ったのを見計らって、彼とスタッフの方々に近づき

「丸山さん、スタッフの皆さん今日はありがとうございました。子供達が本当に楽しそうで、何か感動しました。放送楽しみにしてます」と頭を下げた。

丸山さんがまた爽やかな笑顔をくれた。

「いえいえこちらこそ、本当にお世話になりました。あのアキ先生、さっきとった写真記念に欲しいんだけど、送ってくれない?」

「お安い御用です、えっと事務所に送ればいいですかね?」

「データーで欲しいのでメールで送って貰ってもいい?」

何故だかこの様子を見ていたスタッフの方達は爆笑した。

丸山さんは未開封のペットボトルをマネージャーさんから奪うと、スタッフの人が持っていたマジックで何やらアドレスを書き始めた私に渡した。

「はい、わかりました。ここですね!今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。」

そう言うと丸山さんは「じゃあ」と言って見送りの校長教頭先生に挨拶をして、ロケバスみたいな車に乗り込んで帰っていった。

職員室に帰り自分の机に座るも自然と大きなため息が出た。

疲れた、丸山さん達のおかげで楽しかった。けれどとても疲れた

一休みし、登山に使った救急袋を倉庫に片付けていると後ろから声をかけられた。

「山浦先生、お疲れ様です。」

森野先生が腕組みをしながら面白くない様子で立っていた。

一気に現実に引き戻される。そういえばこの人と派閥争いしてんだっけ。

彼女は私と同い年で子供も二人いるし家庭円満、私に全て勝っているのに私が嫌いなようでやけにつっかかってくる。

「全国放送ってすごいですね!しかもラビッツの丸ちゃんが来てたなんてずるくないですか?!」

「いや、ずるいって言われても、私四年生の担任で森野先生は一年生の担任、登山は四年の行事だから仕方ないでしょうが。

それに本当は私が一年担任する予定だったのに、親がうるさいから嫌だって直前で駄々こねたのあなたでしょ?」

そう言うと森野先生は「あーもう、山浦先生は本当口が上手くて嫌になっちゃう、あーいえばこういう」

そう言うとプリプリと怒りながら職員室へと入っていった。

少しの間の相手でもかなりの精神力を要した。疲れた。


私も作業を終えて職員室に帰ると机の上のペットボトルを見て丸山さんにお願いされていたことを思い出した。

スマホを広げると言われた通りに写真のデーターを送った。時刻は午後四時四十五分、勤務時間終了だ、家に帰ろう。

こうして長い長い学校登山がようやく終わった。
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