第184話 クリスマスイブ

文字数 1,388文字

「……人の物ってよく見えてついつい羨ましくなって盗りたくなりますよね、人間だもん。でも実際にとっちゃいけないでしょ?」
「えっ?」
林田さんは思っていた反応と違うようでぽかんと口を開けている。

「人の物って結局は人の物なんですよ、とった瞬間は楽しかったでしょ?でもそれあなたの人生にプラスになりました?あなたが生きてく上で役に立ってますか?」

彼は嫌そうに顔を顰めながらも、時代劇の悪役さながらの悪そうな顔をした。

「俺あいつの女ハメドリしたことあんだよ。喜んで撮らせてくれたわ、それ他の奴に見せた時のあいつの顔っていったらさ」

とんでもないことを言い出した。彼の気持ちがどうたらこうたらよりも女の人の裸の写真を撮影して第三者に見せるというこの卑劣な行為絶対に許せない。

リベンジポルノ関連のニュースを見るたびに加害者に強い憤りを感じていた。

「それ女の人の気持ち考えたことあります?そんなの他の人に見せられて女の人喜ぶと思います?撮らせる女が悪いっていう人もいるけれど、他人に見せる男はもっと最低!

他人を傷つけたらその分自分に返ってきますよ!それにそれリベンジポルノですよね?犯罪行為ですよね?」

「それがどうしたんだよ!」
「林田さんはご結婚されてますか?」
「してるよ」
「じゃあ貴方の奥さんが同じことされてたらどう思いますか?貴方の娘さん同じことされてたらどう思いますか?人にやった嫌なことって必ず自分に返ってきますよ」

林田さんは急に取り乱し掴みかかろうとしてきた。
「いい加減にしろ!この女!」
「林田さんちょっと落ち着いて」
急に男性が何人か現れて林田さんを取り押さえた。

林田さんはしばらく暴れていたけれど、その中の一人を見て急に大人しくなった。私もその人の顔をじっと見つめると見覚えがある、パンチングマシーンの木村さんだ。

木村さんは元ヤンを活かしてヤンキー漫才で人気な芸人さんだ。しげちゃんと同じ事務所で昔から仲がいいらしい。

木村さんが元ヤンらしく「お前何やってんだよ」とドスの効いた声で怒鳴ると林田さんはこの場から逃げていこうとした。

でも私はどうしても許せない。
「それに彼が昔付き合ってた人ってかなりいいお家のお嬢さんだと思いますよ。私絶対にその人に言いますから、変な写真持ってる男がいるって。どんな手使ってでも探して消させて下さいって。とにかく絶対に写真消して下さい!」

木村さんが全てを察したようで林田さんに詰め寄った。
「まだあれ持ってんの?今度誰かにそれ言ったり見せたりしたら俺ただじゃおかねぇからな!」
林田さんは木村さんが怖いようで「本当にすみませんでした」と平身低頭謝った。

女には強気に出るのに怖そうな男の人にはペコペコするんだ。こういう人はどこにでもいるけど余りに露骨でしょ。


木村さんがまだドスの効いた声で怒っている。
「お前いつまで丸ちゃんに粘着してんだよ、年齢なんか関係ないよ!お笑いやりたいならまたやればいいだろうが!」

林田さんを直接取り押さえている一人が団蔵さんだと言うことに気がついた。「団蔵さん」と小声で言うと「亜紀さん、はじめまして」と会釈をしてくれた。

団蔵さんは「林田さん外いきましょう。ほらこっち」と他の何人かの若い男性と林田さんを連れてどこかに行ってしまった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み