第106話 初めて過ごした朝

文字数 1,888文字

午後八時ようやく自宅まで帰ってくると、ポストの中の二日間で溜まった郵便物を手に取ると部屋のドアを開けた。

やっと自分の部屋に帰って来ることができて安堵した。
お母さんの仏壇に手を合わせお父さんのことを報告する。あの女と別れてたって知ったらお母さん少しは気分が晴れるだろうか。

電話が鳴っている。しげちゃんからだった。「もしもし、うん、今自分の部屋に帰ってきてお母さんに報告した所、全てが終わってすっきりしたような気がする」

「何はともあれよかったな」
「うん、あの時お父さんに会うの躊躇してたのに背中を押してくれてありがとう」

心からそう言うと

「亜紀ちゃんが自分で決めたことだよ」と照れたように言われた。


「明け方目が覚めたら亜紀ちゃん抱きしめながら寝てたから、起きたらもう一回やろうと思って体触ってたら、あれ昨日やってないよなって気づいたんだけど」

「そんな事してないから、気づくの遅いよ」と笑うと「そこなの?結構体触ってたけどいいの?」「うーん寝てて覚えてないし別にいいや」

わざと明るくそう言い切った。彼なら別に体触られようが嫌ではないし。

「くっそ、そんなノリならじゃあもっと触っとけば良かった。服も脱がしとけばよかった」

「そこ迄したら起きるでしょ?」そう笑うと彼が不思議そうに呟いた、

「全く覚えてないけど、何であんな頭おかしい寝方したんだっけ?」

「夜中目覚めたら、しげちゃんが布団も掛けないで寝てたから風邪ひいちゃうよって起こしたんだけど起きなかったんだよね」

「それでどうしたの?」
「私の布団かけてあげた、そしたら自分が寒いなって思って」
「それで俺と一緒に寝たの?男と二人で同じ布団で寝るってどういうことかわかってる?」

「そんなこと私だってわかってるから、わかってて寝てたんじゃん」と彼には届かないように心の中で呟いた。

「だから、する気もないのにそんな事しちゃいけないって前言ったよね?」

彼はちょっと怒り出してしまった。どうしようかな、困っていると口がウズウズして勝手に喋り出した。

「だって二人とも寒くなかったじゃん、これが最適解」

しまったと思ったけれど後の祭り。本格的に怒らせてしまった。

「俺のことなんかほっとけ!小悪魔通り越して悪魔なんか?俺がどれだけ煩悩を振り払うの大変だったかわかる?」

別に煩悩を振り払わなくても良かったんだけど……これ以上怒らせたくないけれど、どうしたらいいかわからないのでとにかく明るく言い返そう。

「ごめんって、風邪ひいたら困るでしょ?」

「何でそんなに悪いと思ってない言い方するの?本物の悪魔じゃねえかよ」

更に彼を怒らせてしまった。どうしたらいいんだろう。苦し紛れに口が勝手に心の言葉を呟いた。

「……いや、だってしげちゃんの隣に寝たかったんだよね」

その一言に彼は急にトーンダウンした。

「あーもう仕方ねぇな、幸せそうな顔して寝てたけど俺に抱きしめられて寝たらそんなに気持ちよかったの?」
「そんな顔してた?」
「見たことないくらい気持ち良さそうな顔してたぞ」

恥ずかしい、そんな本心をさらけ出した顔を彼に見られたくなかった、こうなったら開き直るしかない。

「……最悪だ、普通の顔して寝てればいいのに。うん……あったかかったんだよね。なんかホッとしたんだよ。でも夏はあの寝方したらちょっと暑苦しいかも!」

逆ギレしながら言うと彼はようやく笑ってくれた。
「じゃあ夏はエアコン最低温度にセットするよ」
「寒いし、乾燥するよ」私も小さく笑った。

「とにかく亜紀ちゃんいい?次あの寝方するのはsexした後だから、わかった?」

それは露骨に言葉に出さずにぼかして言ってよ、もう、とにかく困ったら明るくいこう。

「うん、わかった」
「何でそんな軽い返しなんだよ!あーもう仕方ねぇな」

彼は笑った。というか軽く返事する以外にどんな言い方をすれば良かったんだよと、心の中で今度は私が彼に怒っている。

でも昨日そういう関係にならなくて良かった、考えてみると、あんなに女慣れしてそうな人相手に、どうやってしていいかわかんないから大恥かくとこだった。

「あっそう言えば鍵ちゃんとかかってた?」「かかってたよ」
「良かった、じゃあ今度会った時に鍵返すね」「いや持っててよ、俺の恋人だろ?」
言葉では上手く言えないけれど凄く嬉しかった。
「うん、わかった」


「だから、「うんわかった」が今日軽い」
と彼が笑ったので私も「そうかな」と笑った。そ



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