第187話 クリスマスイブ

文字数 1,385文字

三人で外に出ようと通路を歩いていた。通路のソファで談笑する人達の話を立ち聞きすると出口と反対方向に行けば楽屋に行けるらしい、けれど有名な人が沢山いる中で流石に行きにくい。

「あの亜紀さんですか?」
また誰かに話しかけられた。振り向くと一人のとても綺麗な女性が立っていた。年の頃は二十歳ぐらいだろうか。170センチ位の長身でストレートの明るい茶色い髪が照明に照らされて輝いている。

「……はい」
モデルの人かな、気遅れしながらも返事をした。

「折角の単独ライブなのに関係者席でトラブル起こすのやめて下さい!今日のためにどれだけラビッツの二人が準備してきたと思ってるんですか?」

彼女に至極真っ当なことを怒られて心から謝罪した。
「本当に申し訳ありません」

この女性の言う通りだ、どうしてあの人をもっと上手く交わせなかったんだろう。しげちゃんと北澤さんもそうだし関係者の皆さんに本当に申し訳ない。

「トラブルって姉ちゃん何したの?あの連れてかれてたヤクザみたいな人に何か注意しちゃったんだろ?」
「あんたはちょっと黙ってて!」
通路にいた人達が何事かとこちらを見ている。

暫くの間の後に彼女は私を下から上まで眺め馬鹿にしたように笑った。

「あの、悪いけど丸山さんに釣り合ってませんよ、もっとちゃんとしたらどうですか?」
私はその一言に唖然とした。韓国ドラマの悪役が言いそうなセリフを実生活で使う人を初めて見たからだ。
智と美子ちゃんも唖然と見ている。

一応私なりにちゃんと雑誌見て通販で服買って選んで、化粧もバッチリして、イヤリングまでしてるんだけどまだ駄目なのか。

こんなにわかりやすい悪意に遭遇したのは久しぶりだ。高校のクラスに一人はこんな人がいた。高飛車で地味なグループを見下して嫌な事言ってくる人が。必ず二学期の後半になると周りが離れていき結局一人になっちゃうちょっと馬鹿な人。

「丸山さんって凄くモテるんですよ、背も高いし、優しいし、売れてるし、面白いし。何であなたみたいな一般人中の一般人のこと選んだんですかね」

普段なら「それ私も聞きたいです」と言い返していただろう。でも舞台の上で輝いて、沢山の人を笑わせてる彼をみて、更には関係者席でトラブル起こした後だったので気後れして何にも言えなかった。

私のことを何にも言い返してこない格下と認定した彼女は勝ち誇ったようにこう言った。
「あなたも身の程弁えて下さい。芸能界にいる人と一般人は違う世界に住んでるんですよ!」

韓国ドラマでしか聞かないようなクサイセリフだったけれど、今日の舞台を見た後では本気で傷ついてしまった。

関係者の人達が何事かと私達を見ている。
木村さんがまた助けに入ってくれた。

「サラちゃん何言ってんだよ」
「じゃあこれから芸能人と関係者だけで豪華な打ち上げなので失礼します、一般人は門前払いですよ」

聞いているこっちがポッと恥ずかしくなるようなセリフを吐き捨てると、さっと私たちに背を向け人の流れに逆行して楽屋方面に行こうした。

その瞬間、智がよく通る馬鹿でかい声で言った。
「あのとうもろこしの髭みたいな髪の女何なんだよ!」
私達を見ていた周りの人達が一斉に吹き出した。木村さんは手を叩いて爆笑している。

女性は人をかき分け全速力で中へ入って行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み