第47話 ちゃんとした場所

文字数 1,120文字

そして放送翌日のこと、学校へ行くと村人や教職員、会う人会う人に昨日の番組の件で声をかけられ、少し対応にも疲れていた。

「丸山さんにあんなに好かれてたんだから、付き合えば良かったのに」と言われ「丸山さんは本気で言ってません、ネタです」と返すと「そうだよね」と納得するという、この三段構えを何回繰り返せばいいのだろうか。



放課後、図書室の前を通ると案の定、美雪先生と真美先生に引っ張り込まれた。

真美先生がえらく興奮しいる。

「ちょっと亜紀先生!どういうことですか?!」

「どういうことですかって何のことに対して?」

おそらく丸山さんのことだろうなと思ったけれど、シラを切り通した。


「丸山さんの事です!てっきり丸山さんが全員に平等に優しいんだと思ってたら、何かそうじゃないじゃないですか?」

私は嘘をつくのが下手くそだという自覚はある。でもここでは嘘を突き通すしかない。

「いや、だから私にも子供にも優しいじゃん」

「そういうことを言ってるんじゃなくて、丸山さん結構、亜紀先生のこと好きでしたよね?」

「いや、あの付き合いますかって言ってたのネタじゃないのかな?」

美雪先生はいつにも増して真剣に私を見ている。
「いやいや、VTR後のスタジオでも、丸山さんが亜紀先生のこと凄い好みのタイプだった。付き合いたいって言ってましたもんね」

そのシーンは電話対応で見てなかった。何でそんなことわざわざスタジオでも言う必要あるんだ。丸山さんってちょっとというか大分、変な人だ。

そして何があっても、私はこの言葉で乗り切るしかない。

「ネタじゃないかな?」

けれども美雪先生は首を振った。
「あの番組好きで良く見てますけど、丸山さん匂い嗅がせてなんて、一回もそんなこと言ったことなかったですよ」

私は壊れたレコードのように「ネタじゃないかな?」を連呼するしかなかった。

真美先生が真剣な表情で私を問い詰めるように話しだした。


「何が一番変かって言うと、亜紀先生、最近丸山さんの話すると挙動不審になりますよね?」

緊張感が図書室を走り抜ける。喉を潤そうと持っていたペットボトルのお茶を一口飲んだ。

「正直に言ってください。抱かれたんですか?」

思わずお茶が喉に詰まった。

「抱かれてません!」

美雪先生も追随した。「丸山さんと付き合ってるんですか?」

「付き合ってません!あっ教頭先生にサッカーボールの空気入れ頼まれてるんだった」

そう言って図書室を出てきた。

出る直前に「何か挙動不審過ぎて怪しすぎる!」と二人の声がした。

私自身がまだ混乱してるのに、人に丸山さんとの事を話せる訳はない。
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