第１３７話　夜の街で

次の瞬間、彼に抱き締められた。

「本当にごめん、こんなことしといて信じて貰えないかもしれないけれど、帽子岳の中腹でフィールトオンヒューみたいですねって言われた時に、空を見上げながら俺この子と結婚するだろうなと思ったんだ」

「そのくだりで結婚しようと思う意味がわかんないし！それに店の女の人には最後までする癖に、何で私にはキスしかしないの？」

もうヤケクソだった。別に彼とそこまでしたいわけではないけれど、ただ店の女の人に嫉妬していたし、彼に怒っていた。

「していいんだったら幾らでもするけど、今日この状況で亜紀ちゃんと絶対しないから」

「何で？店の女にしてるみたいに私にもしてよ！」
そう怒鳴ってまた涙を流した。


「俺は頭の中で何百回も亜紀ちゃんのこと抱いてきた、でも本当に大切に思ってるから、ここまで待ってきた。亜紀ちゃんがヤケクソになってる時に絶対やらないから」

「大切に思ってるなら、どうして他の女としようと思うの？ありえない！もうバカバカバカ」

抱きしめればそのうち言うこと聞くだろうという考えが透けて見えた気がして、彼を離そうとしたけれど、強い力で抱きしめてくる。

力で到底叶わない。

「じゃあ私だって、誰かとしてくるから！腹いせに誰かとしてきてやる！」

本気では言ってない、何でこんな子供じみたことを言ったのかよくわらかないけれど、口が勝手に喋り出してしまった。

「それだけはやめろって！」

彼が怒ったように語調を強めた。

「何で？sexはスポーツなんでしょ？じゃあ私もスポーツしてくるから！この間まとめサイトで女性用風俗店って見たから、そこ行ってくる！」

「そんな事されたら俺の気が狂うからやめてくれ！」

彼が悲しそうに吐き捨てた。


「私をここまで狂わせたことしたの誰なの？バレなかったらいいやって甘いことして結局バレてんじゃん」

悔しくて泣いた。近所迷惑も考えずに子供みたいに大声で泣いて彼の肩を何回も叩いた。

彼は「ごめん、もう絶対行かない」と何度も呟いている。


そして彼は私を離した。

「あのさ、あきちゃん。服が薄いから俺の理性があるうちに何とかしてきて」

彼が困惑した表情で私を見ている。