第282話 追撃される

文字数 1,233文字

備えあれば憂いなし。
もしもの時を考えて行動することにした、味方は多い方がいい。

雑誌発売当日2月12日水曜日の夕方、図書室を覗くと予想通り真美先生と美雪先生がいた。

「ちょっと二人に見てほしい物があって」
スマホの写真で撮った週刊誌のページを見せると二人は爆笑した。特に真美先生は笑いすぎて過呼吸を起こしそうになっている。

「亜紀先生、何でこんな不幸な目にいつも遭うんですか?」

真美先生は息も絶え絶えになりながら何とか言うと、堪えきれなくなりまた机を叩いて笑い出した。

「知らないよ私が聞きたい。私は有名人じゃないのに、なんでこんな場面写真に撮られなきゃいけないの?」

美雪先生が心配そうに口を開いた。
「村の人に見られたら何言われるかわからないですね、これいつ発売するんですか?来月?」
「……今日」

二人はまた爆笑した。
真美先生が「おまけに金曜日またテレビ来るんですよね?丸山さん来るんですか?」と嬉しそうに聞いた。
「来るって」

二人はまた笑った。
「ねぇ、これどうしたら村の人にバレないようにできると思う?」

真美先生が図書館司書らしく有益な情報を教えてくれた。

「あー村の柿の木商店にこの雑誌置いてあるので、それとオゾンの本屋の買い占めれば大丈夫じゃないですか?」

私は二人にお礼を言うと、すぐさま村で唯一の本を取り扱っている柿の木商店にいった。

こじんまりとした個人商店で本の他にお菓子と煙草を売っている。本コーナーをくまなく見渡すと、週刊水曜日が今日の売れ残り新聞の背後でひっそりとたたずんでいた。

二冊まとめて手に取ると他の週刊誌も二冊ずつアリバイ工作の為に手に取った。

店番のおばあちゃんに聞かれた。

「アキ先生、何か学校で使うの?」
「情報リテラシーの授業で使うんです」

今年一番の爽やかな顔で答えた。

そして山を降りるとオゾンの本屋に行き店頭に出ていた15冊全て買い占めた。

計1万5千円の出費だ。もっと有益なことに使いたかったけれど仕方がない。



翌朝、13日木曜日、学校に行っても職員室の先生達も子供達もいつもと変わらない様子だ。私の思惑通り誰も週刊誌を見ていないようだ。


放課後、明日のロケ概要の説明が職員会議の冒頭であった。

空気の読めない教頭先生が厳粛な雰囲気の中、「明日は丸山さん来るのかな?北澤さんが来るっていう話もあってわかんないだよね」と言い出した。

嫌な予感がする
「山浦先生、丸山さんから何か聞いてない?」
「聞いてません!」
職員室中の人が気まずそうに顔を下げた。聞いているけれど素直に言う訳ないでしょう?

校長先生が「教頭先生!」と渋い顔で教頭先生を咎めると流石の教頭先生もそれ以上何も言わなかった。


その後、全職員で学校の玄関や教室などのカメラに映りそうな所を念入りに掃除して夕方六時、いつもより早くに家に帰ってきた。

明日職員室の先生たちはなんとも言えない表情で見ていると思うけれど、それは仕方がない。

とにかく明日、チラチラっと撮影して何事もなく終わる、そう信じていたのだけれど……
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