第149話 夜の街で

文字数 1,640文字

翌朝、私は何故だか4時半に目が覚めた。夜中に彼が寝たのを確認してそっと腕枕を外したのに何故だかまた腕枕をされていた。

こんなこと彼に言えないけれど、腕枕って寝心地悪い。彼は腕が痛くないのだろうか、いや絶対痛いよね。それでも私が喜ぶと思ってやってくれてるんだろう。

すぐ隣で気持ちよさそうに彼はスヤスヤと寝ている、彼の無防備な寝顔を愛しくずっと眺めていた。

五時になったのでそっと布団から出ると洗面所で服を着替えて髪をとかした。そうこうしているうちに彼が起きて来たので、買い置きの歯ブラシを渡すと「サンキュー」と笑った。


ストーブが効いている部屋で私が化粧水をつけていると、彼がお茶を飲みながら私をじっと見てきたので「つけて欲しいの?」と彼の顔に両手でペチペチと塗りたくった。

彼はどこか嬉しそうに「やめろよ」と言っていたので、「乳液も塗ってあげる」と塗ってあげると「やめろ」と言いながらもやっぱり嬉しそうだった。

彼の頬を手でなぞって「スベスベ、でも髭のところ痛い、ジョリジョリする」と言うと手を握られた。

「こんなにいちゃついてる朝過ごしてるけど、俺たち体の関係持ってないんだぜ。これで何にもしないのに抱き合って眠る夜二日過ごしたから、これは頭がおかしい」

「誰がどれぐらいの割合で悪いの?」と私が睨むと「ごめんなさい、僕が200%悪いです」と素直に反省した。


私が眉毛を描いてると、「学校行くのに化粧してるの?」と聞かれたので「うん、軽くね」と答えた。

「この間バーに行った時はちょっとしてたけど、俺と会う時殆どメイクしてないのに?」
「……タオル返しにこっち来るって言われた時に、化粧バッチリしてたら「俺こいつに気があると思われたんだ、プププ」って思われたら嫌だなって思ってノーメイクだった」

「わざわざタオルだけ返しにくる馬鹿どこにいるんだよ。そこはもう勘違いしろ」と彼は笑った。

「だからさ、この間化粧してなかったのに今日してたら変だなっていう負の連鎖で今に至る」

「なんだよそれ」そう言って彼は笑った。
「じゃあ次会う時は濃い目に化粧して、スカート履いておしゃれしてて」

そう言われたので素直に頷いた。

「次いつ会えるんだろ、仕事入れられまくってるし」
「いつでもいいよ、待ってるから」
「じゃあ隙間見つけて突然来るから」
「うん、家かオゾンか学校にしか居ないから、居なかったら連絡して」

朝は忙しない、あっという間に時計が午前五時四十分を指した。

「俺そろそろ行くわ」「あっ駅まで送るよ」「いいや、新幹線の中で仕事の準備したいし、目覚ましがてら歩いてくよ」「わかった」

彼は色々と気難しそうなので思春期の男子だと思って接している。断られたことは深追いしない。

玄関で彼を見送る、彼は靴を履くとこちらを振り返り、そしてキスした。

「まだ怒ってるって言ったじゃん」と言うと彼は笑った。「行ってくるね」と言うので「いってらっしゃい」と見送った。

ドアが閉まって5秒後、彼が帽子を忘れてることに気がつき、慌ててドアを開け追いかけた。「帽子忘れてる!」


白い息を吐きながらアパートの駐車場で彼に追いついた。彼は帽子を受け取ると思いきや、何故だか抱きしめられ長いキスをした。

外でこんなことして誰かに見られたらどうしようかとヒヤヒヤした。村の人早朝に余った野菜勝手に持ってきたりするし。

「あーもう行かなきゃ」
彼がそう悲しそうに呟いたので思わず問い詰めた。
「絶対私のことちょろいって思ってるでしょ?」
「今更?凄く思ってるよ、でもチョロいって言葉が悪かった、亜紀ちゃんが好きそうな言葉で言えば、自分に厳しく俺に甘い。俺はそう言う人の方が好きだから、じゃあね」と行ってしまった。

どんどん小さくなっていく後ろ姿を見ながら考えた。

自分に厳しく俺に甘い。

……要するにチョロいってことだよね。私凄く甘く見られてない?
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