第127話 夜の街で

文字数 1,363文字

意外と美味しいノンアルコールのカクテルを上機嫌に飲んでいた。ジャズっぽいピアノ演奏がさらに気分をよくさせる。

「亜紀ちゃん聞いて、前言ってた北海道北の大地テレビの冠番組正式に決まったんだ」

彼はずっとテレビで冠番組が欲しいと言っていた。ラジオは何年もやっている関東ローカルの冠番組があるらしい。けれどテレビでも冠番組が欲しかったらしい。

冠番組とは自分たちの名前がタイトル入った番組らしくて例え地方番組でも芸人さんにとって相当嬉しいもののようだ。

三週間前ぐらいにこういう話があると喜んでいたから、本当に決まったんだ、良かった。

「良かったね、おめでとう」そう言って彼を見つめると「亜紀ちゃんのお陰だよ」と照れたように目を逸らされた。

「何で私のお陰なの?」
「事務所の社員曰く、亜紀ちゃんと付き合ってから女の人に対して変に尖った感じが無くなったらしいぞ」
「あー前まで女の人と一生分かり合えないとか言ってたもんね、確かに女性視聴者ドン引きだわ」

そう笑うと「今は何で急に彼女作ったの?って聞かれるから亜紀ちゃんへの愛を語ってれば女性視聴者も悪い気しないだろ?」と彼が得意気に言うので「勝手にネタにして」と苦笑いした。

彼は寂しそうに夜景に視線を移した。

「でもその分テレビの仕事も増えたし、冠番組で二週間に一回北海道行くことになるから更に忙しくなるよ。もっと亜紀ちゃんに寂しい想いさせるかも、嫌だな」

「別に大丈夫だよ、もう35だし五年間一人暮らししてるんだから寂しいも何もないから」
「亜紀ちゃんは本当に優しいな」

そう言って彼は手を私の肩に回した。

彼には寂しくても健気に耐える理解ある彼女に映っているのだろうけれども、私は彼以外誰とも付き合ったことがない。

だから彼に寂しい思いさせてごめんと言われてもぴんと来ない。こうやってたまに数時間会えるので充分満足している。というかこれ以外の付き合い方を知らないから、寂しいもなにもあったものじゃない。

「この間社員とマネージャーと北澤と話してたんだけど来年が俺たちにとって一番大事な年になるから、殺人的に忙しいかも」

「いいじゃん、忙しいって有難いでしょ」

そう相槌をうつ私の髪を撫でると彼はノンアルコールビールを一口飲んでまた机に置いた。

「何で三、四年前に出会わなかったんだろ、週三日は休みあったし、子供でもできてれば絶対俺のこと嫌いにならないって安心してこのスケジュールこなせたのに」

子供でもって……認識が軽すぎる。小さい子供がいたら余計に育児が大変だから旦那さんに居て欲しいってことを理解してないのだろうか。
独身の男の人の認識ってこんなものなのか。

フツフツと怒りが沸いてきたので少し話をそらそう。

「三、四年前は余裕あったんだね」
「もっと言うと例の事件があった直後は月2回しか仕事ない月あったから」
「シビアな世界、じゃあ忙しいって本当有難いじゃん、別に私は大丈夫だから思う存分仕事してよ」

心からそう言うと彼が急にキスをしてきた。されながら今週はずっと忙しくてやり方調べるの忘れてたと後悔した。

暫くして彼がキスを止めたので「人がいる店内とかでは止めて」そう抗議すると「わかったよ」と彼は余裕の表情で笑った。

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