第218話 伊豆の踊子

文字数 1,283文字

「亜紀起きて、着いたよ」
彼に肩を叩かれて目を覚ますといつの間にかもう降りる駅についてた。「ごめん、寝てた」「いいよ、俺もかなりの時間を電話に費やしてたし。寝ててくれて有難いよ」

そう彼は優しく笑ってくれた。
「今日凄く電話してるけれど何かあったの?」
「あぁ大丈夫、たいしたことじゃない」
彼はそう言うと余り聞かれたくなさそうに車窓から海を眺めたのでそれ以上聞けなかった。

駅の改札を一歩でると、スーツを着た中年の男性と何やら彼が話している。ちょっとした知り合いのようだ。

「行こう」
そう言われるままについていくと、外国車が止まっていた。その車に乗って行くらしい。運転手さんらしき男性にドアを開けて貰うと後部座席に乗り込んだ。

「凄いね、右ハンドルの車初めて乗った」
そう彼に耳打ちした。
「俺は調子乗ってる頃、かっこいいと思って右ハンドルの車乗ってたけど駐車場の料金払う所にぶつけてやめた」
「それ最高にかっこ悪いね」「だろ?」
彼と目を合わせて笑った。

車は海から離れてどんどん山を登っていく。彼が手を繋いできたので寄りかかった。電車で沢山寝てしまったので体が寝るモードに入ってしまっている。彼はいつもなら何か話しかけてくる、けれど難しい顔をして何も喋らなかったからいつの間にか寝てしまった。

次に気がつくと洋館のような旅館が目の前にそびえ立っていた。「何ここ?外国?」「起きた?」「ごめん寝てた」「いいよ、疲れてるんだろ」そう言って車の外に出た。

外に出ると微かに潮の匂いがする。改めて建物を見ると赤煉瓦造りの建物に鮮やかな緑色のシダが絡まっていて昔の東欧のお城のような佇まいだ、

建物の向こうが断崖絶壁になっていて崖の下にコバルトブルーの海が広がっている。

「凄い、綺麗」思わず呟くと「だろ?」彼が得意気に言った。

建物の中に入ると天井が高い、うちの二階建てアパートよりもさらに高く、大きなシャンデリアがキラキラと存在感を主張している。

彼が何やら手続きをしている間、ロビーのソファに座って待っていた。自分の座っている椅子一つとっても花柄のレトロな柄で博物館にあってもおかしくない佇まいだ、相当な歴史があるんじゃなかろうか。

ドラマで見る執事みたいな人が私に紅茶を持ってきてくれた。

この紅茶凄く美味しいし、上品ないい匂いが鼻を抜けていく。

外を見るとロビーのガラス戸の向こうに広大な日本庭園が見える。奥に池が見えるし手前の松がしっかりと手入れされていて一本でも凄く立派で絵になっている。

彼が戻ってきたので「日本庭園凄いよ、見て」と言うと「庭園も好きなの?後で見にいこうか」と笑った。

案内係の執事みたいな人と一緒にエレベーターに乗ると豪華な壺に生花が活けてあり思わずため息が出た。

ここ高いんだろうな。

幾らするんだろう、6年前に前の学校の仲良い子達三人でボーナスが出た記念に行った草津温泉の高級旅館が三人で十万したから、三倍、四倍……三連休だから五倍?

そう想像すると冷や汗が出てくる。
こういう時に貧乏性の自分が嫌になる

何故だか膝がガクガクと震えてきた。
私にこの金額に見合うだけのことができるのだろうか。
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