第144話 夜の街で

文字数 1,279文字

午前0時の静寂が部屋を包み込んでいた。このまま寝るんだろう、そう思い私も目を閉じてウトウトと寝かかった頃、彼がまた口を開いた。

「あーやっぱ一人じゃ寝れない。俺が風俗になんて行くのあの時辞めてれば今日は一緒に寝れてたのに」

まだ私とするのを諦めていない口ぶりに腹が立った。

「ねぇ、何でそこまでして女の人と関係持ちたいの?そんなに病みつきになる程気持ちいいの?」

「今度は感度白状プレイさせられるのか……まぁいいけど。凄く気持ちいいよ、俺酒もタバコもギャンブルもやらないから、唯一のストレス発散法」

「草野球とかしてストレス発散してよ」
「余計にストレス溜まるだろ」
「じゃあ将棋」
「じじいになったらそれでもいい」

「じゃあ折り紙」
「不死鳥の一枚折りしてやるぞ」
「俳句」
「さっきから何でじじいが好きそうな渋いやつなの?もっと俺に合う若そうなこと言って」

「じゃあ机の引き出しにダンゴムシ集めたら?」
「やめろ!若すぎんだろ!背中ぞくっとした……そのうち亜紀が俺の相手してストレス発散してくれるから別にいいんだよ。優しいふりして俺で遊ぶな」

「バレた。女の代わりの趣味見つけてあげようと思ったんだよね」
「趣味女って冷静に考えると俺ってヤバい男だよな。女何人も作って遊びまくってた五年前までは依存症も入ってたよな」

「でしょうね、何で依存症になるくらい女遊びしたの?」
「何でかな……やっぱりこの仕事ってストレス溜まるんだよ」

「ぱっと見はやりたいことやって楽しそうだけど、やっぱりそうだよね、しげちゃんも大変なんだ」
「大変だよ、何が一番大変かって言ったらメンタル面がつらい。俺会社員じゃないから、もしこの先売れなくなったらどうしようとか常に不安なんだよね」

「何の根拠もなく言うけど大丈夫だよ。しげちゃんは天才だし面白いよ」

「亜紀ちゃんはいい奥さんだよな。この世界って次から次に新しい奴でてきては消えてくだろ?」
「うん、確かに」

「昔イケメン芸人って持ち上げられてる時が一番不安だったんだよな。イケメンだけじゃすぐ消えるってわかってたからさ、ストレス半端なかったな、で女に逃げると」

初めて聞いた彼の心の声を自分の心でしっかりと受け止め、暗闇の中で天井を見つめた。


「しげちゃんの気持ち全然考えたことなかったけど、厳しい世界にいるからそりゃあストレス溜まるよね……今は平気なの?」
「前よりはいいよ。地に足つけようと五年前から劇場の仕事を定期的に入れて貰って、今もちゃんとネタ作ってるから、テレビに呼んで貰えなくなっても劇場で残ってたいなっていうのが俺達の目標」

「そっか、私バラエティの面白おじさんしてる所しか見たことなかったから、今度ちゃんと漫才してる所見るね」

「俺ら漫才好きな奴らには評価されてるから」
「そうなんだ、凄いね」
「亜紀ちゃんが見たらイケメンだし面白いし惚れ直すだろうな」
「自分で言うの?」
「事実だからな」

彼がいつものセリフをいつものように自信たっぷりに言うので笑みが溢れた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み