第70話 武道館の後で

文字数 1,010文字

日曜日の午後一時、新幹線を降りて東京駅に降り立った。ずっと前からこの日を楽しみに毎日を生きてきた。今日はホワイトアンドブラックの武道館スリーデイズの最終日だ。

三年前までは一緒に行ってくれる友人が二人いたし、ライブの日は始発で東京に来ていた。

けれども友人達は結婚、出産を経て幸せと引き換えに自由な時間を失ってしまった。

一人の友人はあと十年待ってくれたらまた一緒にライブにいけると思うと言っていた。

もう一人の友人は子供を誰かに預けて行きたいと行ったまま、あまり連絡が取れなくなってしまった。

こればっかりは仕方ないよね。

だから一人で行く、お一人様だって気楽でいいもんだ。

ライブの開場は15時、開演は16時。目標到着時間は15時半、座席指定だし、どうせ一人で行っても一時間会場で始まるのを待ってるのはつらい。

だからそれまでどこかに遊びにいこうと思う。

今日は東京江戸博物館に行った。職員室で修学旅行の話になりみんなから高評価の場所だったからだ。

行ってみると凄く精巧なミニチュアが沢山あり釘付けになった。江戸時代はこんな暮らしをしていたのかと感心しているといつの間にか14時半を回っている。

あわてて地下鉄に乗り九段下を目指した。

15時半きっかりに武道館前に着き、グッズを買う列に並んで15時45分に会場に入れた。

終わったのは18時半、凄く予定通り。よし、このまま東京駅近くの銭湯に行ってシャワー浴びて帰ろう。

そう思い駅を目指して歩いていた。

凄く気分良く今日のライブで歌われた曲を口ずさんでいた時、着信音が鳴った。


丸山さんからだったけれど、ライブの終わりのハイテンションで出た。

「もしもし、今私どこにいると思います?」「えっ、家かな?」
「ブッブーもっと凄い所です」
「えーっとじゃあ学校?」
「違いますね、正解は東京の武道館でした」「わぁこりゃ凄いな」

丸山さんの返答がわざとらしくて違和感を覚えた。

何かある、きっとある。

「丸山さんはどこにいるんですか?」

「アキちゃんの後ろにいる、道沿いに路駐してる。車に乗って」

完全に嵌められた。

後ろを見ると本当に丸山さんが車に乗っていた。

テンション高くクイズ出してた自分をぶん殴りたい。

あの車、村のレタス農家の佐藤さんが最近買い換えたんだよと自慢して乗っている車と同じ車だと意味もなく思った。
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