第202話 再会は突然に

文字数 1,863文字

叔父さんがビールを一口飲むとゆっくりと喋り出した。

「亜紀さん達のお母さんが亡くなったときに家内が健くん引き取りたいと言ってたんだけれどもその頃家業が上手く行ってなくて、とてもじゃないけど引き取れる状態じゃなかったんだ。本当にすまない」

叔父さんが深々と頭を下げた。

「いや、大丈夫っす。智もいたしそれはそれで楽しく生活してたし、亜紀には苦労かけたけど」

「苦労じゃないって」私はまた反論した」

「亜紀ちゃんが大学行きながら智くんと健の世話もしてたって聞いて、亜紀ちゃんに頭が上がらないよ。本当にありがとう」
叔母さんがまた涙をハンカチで拭った。

「確かに大変だったのは大変だったんだけど、でもこの二人がいたから、私も何とかやってこれたし、もし健がいなかったら私が働いてる間智寂しかっただろうし、本当に健が居たから今までやってこれたっていうか」

私も叔母さんにつられて涙を流していた。本当に健がいてくれた事に心から感謝している。健も美子ちゃんも泣いていた。

何故かここで智が張り切り出した。

「おばちゃんとおじちゃん大丈夫だよ、姉ちゃん大学のときに家庭教師してて、金持ちの家行って十万貰ったことあるから」

「その話今言うな!」

何故だか私と美子ちゃんの声が揃った。

でも智のおかげで暗くならずに済んだ、その点では感謝している。

叔父さんが「お父さんこの間亡くなったとお聞きしました。この度はご愁傷様です」と頭を下げた。叔母さんが「兄の葬儀にもいけなくて申し訳ないです」とまた頭を下げた。

「いやいや、高山の叔母ちゃんから聞いたと思いますけど、お父さんあんな事なっちゃってたし、知ってる人には来られたくなかったかもしれないから」
「そうそう、叔母ちゃん、俺まだ小さかったから父ちゃんのことあんまり覚えてないんだ。父ちゃんってどんな人だった?」

叔母さんが呑気な智を見て微笑んだ。

「私は母親は違うけどしょっ中会ってたんだよ、小さい村だし。兄さんは小さい頃からあーだから。うまい話にすぐ乗っかって、痛い目見るっていうか。若い時に東京に出て騙されて借金作って逃げ帰ってきたこともあるし」
叔母さんが懐かしそうに回想している。

「父ちゃんって本当にアホだな」と智が言って美子ちゃんに怒られていた。

「でもね、異母兄弟なのに私の事すごく可愛がってくれて優しかったよ」

叔母さんの一言で優しい気持ちになれた。
「なんか私が知らない父の話聞けて嬉しいです。母のことは何か覚えてることありますか?」

叔母さんの顔がパァっと明るくなった。
「お母さんは本当にできた人で、事あるごとに私に健の写真送ってきてくれて、何年か後に亜紀ちゃん達のお母さんが育ててくれてるってきいて、本当にほっとした。正子さんに任せておけば大丈夫だってそう思える位の立派な人だった」

「そうやって母のこと褒めてくれて有難いです。時間が経つにつれて母のこと忘れていっちゃうんです、覚えておこうと思うのに。だから、また新しい記憶ができて嬉しい」

叔母さんと目を合わせて笑った。
「本当に正子さん、兄にさえ出会わなければもっと違う道があったんじゃないかって」

叔母さんが私がずっと思っていたことを口にした、同じ思いの人がいるんだと嬉しくなった。世界のどこかにお母さんのことを心から愛してくれる人がいる、だから生前のようにお父さんに拘らないで欲しい。お母さんは天国で見つけているだろうか。

智が料理を食べながら呑気に言った。
「叔母ちゃん、父ちゃんと母ちゃんってどこで出会ったの?」

「兄が松本の方に勤めてた時に、友人に誘われて登山に行って、その山小屋でお母さんが働いててそこでお母さんが一目惚れしたんだって聞いたことあるよ」

「……山?」

私がそういうと智が「どっかで聞いた話だな」と健と笑い出した。

私が彼と最初に出会ったのは職員室だと無茶苦茶な理論を振りかざしたけれど何だか妙に恥ずかしい変な気分になった。
気分を変えたくてこう話を振った。

「あの、高山のおばさんから健の妹って呼んでいいのかわからないけれど、お子さんがいらっしゃるとお聞きしたんですが」

叔父さんが笑って言ってくれた。

「妹でいいよ、今高三と高一だよ。健くんの話は家内がよくしてるから、ネットで調べてカッコいい早く会いたいって騒いでるよ」

「健良かったね。妹だよ!しかも二人も」
健がボソッと呟いた。
「俺のこと楽しみにしてくれてて嬉しい」
「今度店にご飯食べに来て。娘達凄く待ち望んでるから」

それからは和やかに話が進んだ。智が「女子高生かいいなぁ」と呟き美子ちゃんに怒られてみんなで笑った。











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