第261話  深夜の訪問者

文字数 1,804文字

「それからずっと付き合ってたんだけど、あいつは一人で満足できない女なんだよね、俺にも他の女沢山知った方がいいって言ってくるから俺も浮気性になっちゃったんだよな」

話の内容が激しすぎてついていけない、一応相槌を打つ。
「……凄い話だね」

「まぁな、一応俺が本命みたいだしいいかって。風俗行っただけで涙流して激怒する誰かさんと対照的だよ、本当」

「いちいち比べなくていいし、言っとくけど私が多数派だから!」

彼はフッと笑って缶ビールを一口飲んだ。
「亜紀と付き合ってわかったんだけど、俺は本当は今亜紀にしてるみたいに束縛したかったんだよな、色んな女と浮気できなくてもいいから美咲にも浮気しないでいて欲しかった」
「……普通はそうだよね」

私も缶ビールを一口飲んで遠くの夜景を眺めた。
「それを亜紀が不公平だって言うなら俺は亜紀も浮気しても怒らないよ」

思わず吹き出した。浮気する気持ちもないし相手もいない。
「私は浮気するほどモテないんだけど」
「そんな簡単な気持ちで手出せない匂いがぷんぷんするからな」
「何それ?」「もし浮気したら怒らないけれど、仕事辞めさせて家に閉じ込めとくからな」
「怖っ」「しなければいい話だもんな」
彼はそう言って不気味に笑ったので鳥肌が立つ、この人たまに愛情が違う方向に向きすぎて怖いんだよね。

「美咲はなんていうか、欲望に正直なんだよね。今までで寝た男の数は百超えてるってあっけらかんと話してたこともあった。先週「血が血が」ってちょっとの事で大騒ぎしてた人とここも正反対だし」

「なんでそんなこと思い出すの!ていうかこの話他人にしたら、もう二度としないからね!」
「流石に生々しすぎるからできないだろ」と彼は得意気に笑ったのを殺意たっぷりで睨んでいた。

私がかなり怒っているのを察したのか、急に真面目な顔に戻った。

「まぁ傍目にはとんでもない女だと思われるけれど、いい所もあるんだよ。高三の時悩んでたんだよな、親には大学行けってしつこく言われるし、でもお笑いの道にも行きたかったし、かといって親に逆らって家出る勇気もなくてさ。

でも美咲が言ったんだよ。「自分がやりたい事好きなようにやったら?将来のことなんかその時考えればいいよ」って。だから高校卒業してすぐに家出たし、結果的には良かったなって思ってる」

「そっか」
私はそう言って彼から目を逸らして東京タワーを見た。

「悲しい気持ちになった?」
「ううん、その頃出会わなくて良かったって思って」「何で?」「私だったら間違いなくせめて大学行った方がとか、ご両親の気持ちがとか言ってたと思うし」
そういうと彼は「想像つくよ」と笑った。

「私は美咲さんのことはあんまり好きではないけれど、重ちゃんが美咲さんと出会ってて付き合ってたから今があるんだよね、それは理解した」

彼女と付き合っていたことが今の彼を作っているのだ、その事実からは目を背けてはいけない。

彼がビールを一缶飲み干し机の上に置いた。
「俺は何もかもがうまく行かずに滑った日にビールを飲む。俺は面白いって変な自信が出てくるし」
「今日も自信が欲しかったの?」
「自分のこと他人に話すの苦手なんだよ、一番触れられたくないことだけど、酒の勢いで話す。流石の俺も美咲に元相方と寝られて写真回されてた時には限界だと思った、それ以来美咲のこと抱けなくなった」

「……そっか」
それ以外に話す言葉が見当たらない。
「自分の彼女のそういう姿は他人に見られたくないよな、当時は何ともない風を装ってたけれどあれは今思い出してもつらい」
「そりゃあそうでしょ」

「確か北澤とコンビ組んだばっかりの時で、北澤は美咲のこと良く思ってなかった、でもその時に北澤は滅茶苦茶怒ってたからコイツ自分が好きではない人間の為にあれだけ怒って馬鹿なんかなって思ってたよ。

そしたら十何年経ってあの時のことで北澤と同じように好きではない彼氏の昔付き合ってた女の為に何されるかわかんない男にくってかかる人に会った、その人馬鹿なのかな?」

私の彼氏はそう言って遠くを見ながらビールを飲んだ。イブの時の騒動で私がリベンジポルノに怒り狂っていたことは正確に彼に伝わっていたらしい。

「……いやだって駄目でしょ?女の人の人生破壊する真似するなんて絶対に許せないから、性犯罪者とかリベンジポルノする奴は絶対に許せない、もっと厳罰化するべき」

「じゃあ国政に出馬しろ」彼は穏やかに笑ったので私も笑い返した。







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