第132話 夜の街で
文字数 2,027文字
週刊誌を机の上に置いて目を閉じた。もう何にも考えたくない、昨日あんなに自信満々に「浮気してない」って言ってたのに。
ベッドに横になるとそのまま目を閉じた。どれぐらい寝ていたかわからないけれど何かに押し潰されそうになるような夢を見ていた。
苦しい、胸が締め付けられるように苦しい。
急に携帯の着信音で悪夢から目が覚めた。半分寝たまま電話を取ると、かけてきた相手はやっぱり彼だった。
「もしもし?亜紀ちゃん週刊誌買ってないよね?」
寝起きの低いテンションで憂鬱な冗談を言う。
「……不覚にも「ノーマルなプレイが好きでテクニックも普通、とにかく全てが普通」っていう所で笑っちゃった」
「見た?見たの?あれは深い意味は全くないからそんなに気にしないで」
「深い意味?」
「そうだよ、もう二度と行かない。約束する。亜紀ちゃんいい?世の中の男はほぼみんな風俗店行くから」
「みんな行く?」
「そう、結婚してる人も奥さんにバレないように行く、AV見てる延長だよ、これは絶対に浮気ではない、恋愛感情がないから」
普段は理路整然とした彼の主張が今日は滅茶苦茶だった。
「……恋愛感情がない?」
「そう、金銭を介してただ単に欲求を解消しにいってただけ、体は繋がってるけれど、心は繋がってない。だから浮気ではない、こんな小さなこと気にしないで」
彼の言う浮気は心に限定されるらしい、意味がわからない。
「……浮気じゃない?」
「だから浮気っていうのは恋愛感情があって異性と肉体関係持つことでしょ?店の女の人は恋愛感情なしに色々してるだけだから」
釈明するどころか得意気に喋る彼に嫌悪感を感じてきた。
「……どうして恋愛感情なしで色々できるの?」
「どうしてと言われても男と女は違うからとしか言えないな」
段々と私も苛々して来て言葉にそれが出てきてしまう。
「二年間も月2で会って色々するって、私よりも深い付き合いじゃないの?どっちがしげちゃんの恋人かって言ったら店の人じゃん」
「それは絶対違うだろ!さっきからたかが風俗のこと気にしすぎだろ?」
「……たかがって」
そう言って黙ると
「本当にたかがだから、もう行かないし。亜紀ちゃんが思ってるほど深い意味はない。気にしないで忘れて」
「忘れられないよ、ちょっと余りにも性に対しての認識が違いすぎて」
涙が出てきてしまった。
「亜紀ちゃん泣いてるの?」
「泣いてない、35なのに何言ってるのコイツって思われるだろうけど、私は……凄く好きな人とする特別なことだと思ってた」
「そうだよ、愛を確かめ合う特別なことだって、だから今度ちゃんと時間作るから」
彼はそう言って言葉を詰まらせた。自分の言ってることとやってることの矛盾点に気がついたようだ。
「……この間今度は泊まってって言われた時にしげちゃんのこと凄く好きだったから「うんわかった」って言った。軽い気持ちで返事したんじゃないから」
そう言うと彼は黙った。私も何も言わずに黙った。
「ごめん、もう絶対行かないから、俺が愛してるのは亜紀ちゃんだけ、店の女と亜紀ちゃんは違うだろ?」
「どう違うの?やること一緒でしょ?」
「絶対違うから、愛があるなとないとで大きな差だろ?」
「その愛が私にはあるってどうやって証明するの?お店の女の人に愛がないってどうやって証明するの?」
「……あーもう、うるせぇな。あー言えばこう言って、だからもう行かないって、風俗なんて男はみんな行ってんだよ!そもそも俺たちまだやってないからそこまで怒られる筋合いねぇから!」
二人で黙り込んだ。確かにしつこく追求している私が悪いけど、開き直る彼も悪い。
一分ぐらいの沈黙の後に私が口を開いた。何故だか声が震えている。
「……こういうのは誰が悪いとかじゃないと思う、価値観の違いだから、性に対して認識が違いすぎてちょっとついていけない、だから」
私がそこまで言いかけると彼が私の話を遮った。
「ごめん、亜紀ちゃんにバレたらこうなること想像ついてた。だから止めようとは思っていた。でも後一回ぐらい行ってもバレないだろうってずっと今まで来て、甘い考えでいた。逆ギレして本当にごめん。ちゃんと顔見て謝る。今からそっち行くから」
「来なくていい、いろんな感情が散らばっててしばらく気持ちの整理したい……じゃあ切るね」
そう言って一方的に携帯を切るとベッドに投げ捨てた。
男の人でましてや芸人さんだからこういう店に行くのも普通なのかもしれない、35歳の大人の女としては「そんなの全然いいよ」と許さなくてはいけないのだろう。
でも許せない、絶対に許せない。自分以外の女にキスしたりそれ以上のことをしていたという事実がどうしても許せない。
嫉妬で狂ってどうにかなりそうだ。
頭が苛々して割れそうなくらい痛い、そして同じくらい悲しい。
ベッドに横になるとそのまま目を閉じた。どれぐらい寝ていたかわからないけれど何かに押し潰されそうになるような夢を見ていた。
苦しい、胸が締め付けられるように苦しい。
急に携帯の着信音で悪夢から目が覚めた。半分寝たまま電話を取ると、かけてきた相手はやっぱり彼だった。
「もしもし?亜紀ちゃん週刊誌買ってないよね?」
寝起きの低いテンションで憂鬱な冗談を言う。
「……不覚にも「ノーマルなプレイが好きでテクニックも普通、とにかく全てが普通」っていう所で笑っちゃった」
「見た?見たの?あれは深い意味は全くないからそんなに気にしないで」
「深い意味?」
「そうだよ、もう二度と行かない。約束する。亜紀ちゃんいい?世の中の男はほぼみんな風俗店行くから」
「みんな行く?」
「そう、結婚してる人も奥さんにバレないように行く、AV見てる延長だよ、これは絶対に浮気ではない、恋愛感情がないから」
普段は理路整然とした彼の主張が今日は滅茶苦茶だった。
「……恋愛感情がない?」
「そう、金銭を介してただ単に欲求を解消しにいってただけ、体は繋がってるけれど、心は繋がってない。だから浮気ではない、こんな小さなこと気にしないで」
彼の言う浮気は心に限定されるらしい、意味がわからない。
「……浮気じゃない?」
「だから浮気っていうのは恋愛感情があって異性と肉体関係持つことでしょ?店の女の人は恋愛感情なしに色々してるだけだから」
釈明するどころか得意気に喋る彼に嫌悪感を感じてきた。
「……どうして恋愛感情なしで色々できるの?」
「どうしてと言われても男と女は違うからとしか言えないな」
段々と私も苛々して来て言葉にそれが出てきてしまう。
「二年間も月2で会って色々するって、私よりも深い付き合いじゃないの?どっちがしげちゃんの恋人かって言ったら店の人じゃん」
「それは絶対違うだろ!さっきからたかが風俗のこと気にしすぎだろ?」
「……たかがって」
そう言って黙ると
「本当にたかがだから、もう行かないし。亜紀ちゃんが思ってるほど深い意味はない。気にしないで忘れて」
「忘れられないよ、ちょっと余りにも性に対しての認識が違いすぎて」
涙が出てきてしまった。
「亜紀ちゃん泣いてるの?」
「泣いてない、35なのに何言ってるのコイツって思われるだろうけど、私は……凄く好きな人とする特別なことだと思ってた」
「そうだよ、愛を確かめ合う特別なことだって、だから今度ちゃんと時間作るから」
彼はそう言って言葉を詰まらせた。自分の言ってることとやってることの矛盾点に気がついたようだ。
「……この間今度は泊まってって言われた時にしげちゃんのこと凄く好きだったから「うんわかった」って言った。軽い気持ちで返事したんじゃないから」
そう言うと彼は黙った。私も何も言わずに黙った。
「ごめん、もう絶対行かないから、俺が愛してるのは亜紀ちゃんだけ、店の女と亜紀ちゃんは違うだろ?」
「どう違うの?やること一緒でしょ?」
「絶対違うから、愛があるなとないとで大きな差だろ?」
「その愛が私にはあるってどうやって証明するの?お店の女の人に愛がないってどうやって証明するの?」
「……あーもう、うるせぇな。あー言えばこう言って、だからもう行かないって、風俗なんて男はみんな行ってんだよ!そもそも俺たちまだやってないからそこまで怒られる筋合いねぇから!」
二人で黙り込んだ。確かにしつこく追求している私が悪いけど、開き直る彼も悪い。
一分ぐらいの沈黙の後に私が口を開いた。何故だか声が震えている。
「……こういうのは誰が悪いとかじゃないと思う、価値観の違いだから、性に対して認識が違いすぎてちょっとついていけない、だから」
私がそこまで言いかけると彼が私の話を遮った。
「ごめん、亜紀ちゃんにバレたらこうなること想像ついてた。だから止めようとは思っていた。でも後一回ぐらい行ってもバレないだろうってずっと今まで来て、甘い考えでいた。逆ギレして本当にごめん。ちゃんと顔見て謝る。今からそっち行くから」
「来なくていい、いろんな感情が散らばっててしばらく気持ちの整理したい……じゃあ切るね」
そう言って一方的に携帯を切るとベッドに投げ捨てた。
男の人でましてや芸人さんだからこういう店に行くのも普通なのかもしれない、35歳の大人の女としては「そんなの全然いいよ」と許さなくてはいけないのだろう。
でも許せない、絶対に許せない。自分以外の女にキスしたりそれ以上のことをしていたという事実がどうしても許せない。
嫉妬で狂ってどうにかなりそうだ。
頭が苛々して割れそうなくらい痛い、そして同じくらい悲しい。